組み込みOSが必要とされる機器とその理由
より複雑さを増す組み込みOSを理解する
おさらいをすると、組み込みOSを必要とするのは以下のような機器やシステムが対象となるでしょう。
- 複雑な割り込みを扱わなければならない場合
- 高度なグラフィックス(あるいはその他、通信やファイルシステム、暗号化、インターネット接続など多種多様な)機能をより単純化して扱いたい場合
これらをサポートするのがOSの主な目的であり、そのために必要とされる非常に多くの機能をOSが提供する必要があるのです。
しかし、現在の組み込みOSの多くは1世代前のOSよりもはるかに複雑で、すべてを理解するには大変な時間と労力が必要になります。例えば、Windows Embedded CE 6.0 のカーネルのソースコードは300万行を超えています。一人ですべてのコードを理解することは非常に困難で、むしろ、覚えずに済むほうがよいとさえいえるかもしれません。
通常カーネルだけでOSに求められる機能のすべてを提供できるわけではなく、ネットワークやグラフィックス、ファイルシステムなど、さまざまな機能を提供するミドルウエアを加えることで初めてアプリケーションを動作させるのに必要な環境を組み立てることができます。
iTronをはじめ、初期の組み込みOSはアプリケーションが扱う必要のある割り込み処理を容易にし、いくつかの一般的な機能だけを提供してきました。しかしそれでは足りないのです。
例えば、Windows Embedded CE 6.0が提供している主な機能やミドルウエアを以下に列挙します。
- TCP/IP (IP v4/v6)
- ファイルシステム(FAT16/32, exFAT,UDFS etc…)
- グラフィックシステム(DirectShow, DirectMobile 3D)
- Bluetooth
- WiFi
- Remote Desktop Protocol
- Silverlight for Windows Embedded
- Flash Lite
- .NET Compact Framework
- True Type Font renderer
その他、非常に多くの機能がOSのコア部分の上に積み重なって提供されているのが現代の組み込みOSであり、Windows Embedded CE もPCやサーバーなどで使われているOSと基本的な構造や考え方はほとんど同じです。ただし、組み込み機器では使用されないと思われる機能を省くなど最適化が行われています。
BSPによる機器の性能改善と顧客満足度の向上
また、CPUやハードウエアの違いを吸収するためのBSP(Board Support Package)の出来によってOSを含むシステム全体の性能が大きく違ってきます。これは、OSそのものの特性にあわせて、システムの性能を最大限引き出すために必要な作業になり、通常入手可能なBSPの多くは、最適化が行われていないため、性能を引き出すための作業が必須になります。
例えば、ビデオを再生する機能を製品に組み込む際に、30fpsで再生するためにより高価で性能のよいCPUを使うのではなく、いかに安いハードを使って同じことを実現するかによって、販売価格が違ってきます。
すると、ある一定の数量の販売が見込める製品の開発においては、標準的なCPUを含むハードウエア構成での製品開発ではなく、少し安価で若干性能の劣るハードウエアを使って製品を開発するということになります。すると、ハードウエアの性能を限界まで(可能な限り)引き出して、製品の単価を下げる努力をすることになります。したがって、性能をすべての点において最大化するのではなく、ある目的に合致する(この場合ではビデオ再生)機能の性能目標をいかに実現するかによって、価格競争力を生み出す努力が行われます。
ここで重要なのがデバイスドライバを含むBSPです。OS内部の処理を高速化するにはOSの内部に手を加えなければなりませんが、外部との入出力をつかさどるBSPの性能を改善することができれば、顧客満足度を高めることができます。
例えば、みなさんは携帯電話の処理が遅いとか、テレビの画面切り替えが遅いと感じることがあると思います。しかし、その一方でそれらの応答速度や反応速度について満足できる製品もあります。すると、買い替えサイクルの短い製品の場合、いままで使っていた遅い携帯電話やテレビではなく、より快適に操作できて、メニューも分かりやすい製品を使いたくなり、買い替えが発生します。これはBSPなどの最適化や性能の最大化を行うことによって可能な差別化ということになります。
私も安かったので購入したビデオレコーダーがあまりにもメニューが使いにくくて閉口していますので、次回はもっと使いやすいものを買おうと考えています。
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