Windows Embedded CEのアーキテクチャ
2つの組み込みOS
マイクロソフトが提供している組み込み機器向けのOS製品には大きく二つのコア(アーキテクチャ)があります。
ひとつは、MS-DOSから連綿とx86アーキテクチャのために提供され続け、現在ではWindows 7のアーキテクチャを利用しているWindows Embedded Standard系の製品です。もうひとつは、1996年の最初のリリースからはじまり、カーナビ、スマートフォンなど、異なる分野の製品向けに拡張しながら成長してきたWindows Embedded CE系のOS製品です。
前者は、一般のPC用のOSが元になっており、エンタープライズ端末の世界では最も多く使われているOS製品です。アプリケーションの開発や周辺機器の開発も通常のPCと同じであるため、豊富なPC向けのアプリケーションやユーティリティー、周辺機器などを再利用することができます。
しかし、後者のWindows Embedded CE 系のOSでは、このように市販され、流用可能なアプリケーションや周辺機器はそれほど多くありません。理由は後ほど述べますが、これこそが組み込み機器開発であることと、プラットフォームとして標準化されていることの大きな違いだといえます。
ということで、今回はWindows Embedded CE について(もうじきWindows Embedded Compact 7が登場しますが、アーキテクチャは共通です)解説したいと思います。
大容量メモリを活用できるようになったWindows Embedded CE
Windows Embedded CEはプリエンプティブ マルチタスク方式のリアルタイムOSで、仮想メモリとマルチスレッドを扱うことのできる組み込み機器向けOSで、アプリケーション開発用にWIN32 ベースのAPIや、.NET Frameworkのサブセットである.NET Compact Frameworkを提供しています。最新版の6.0 R3ではSilverlight for Windows Embedded も提供し、高度なグラフィックスを持つアプリケーションの開発も可能となっています。
PCのような大容量のメモリやストレージを扱う組み込み機器も増えてきていますが、従来の組み込みシステムは数100KBあるいは数MBの主メモリとささやかなストレージ領域を持つにすぎません。したがって、Windows CE 1.0から5.0までは扱えるメモリ空間が最大32MBとなっていました。
それを6.0では最大2GBを32Kプロセスまで扱えるようにOSのアーキテクチャを大幅に変更しています。これは、32ビットアドレッシングで扱うことのできる4GBの空間のうち、半分をカーネルに、残りの半分をアプリケーションプロセスに割り当て、プロセスのスイッチングを行うメカニズムを導入することで、仮想的に32Kプロセスを扱うことができるようになっています。
図1:Windows Embedded CE 6.0 のメモリ空間 |
したがって、仮想メモリを扱うため、CPUにはMMU(メモリ・マネジメント・ユニット)が必須で、512MBの物理メモリを図のように割り当てて展開します。
図2:仮想メモリと物理メモリのマッピング(クリックで拡大) |
また、個々のメモリ空間は、カーネルとプロセスに対して次のようにマッピングされています。
図3:カーネル空間のマッピング(左)とユーザー空間のマッピング(右) |
このように大きなメモリ空間を扱う必要のある代表的な組み込み機器は、カーナビゲーションシステムや携帯電話といったものになります。これらは最先端の高速なCPUを用い(現在では600MHzから800MHzが主流です)大きなデータや複雑なアプリケーション(例えばカーナビのナビアプリケーションなど)を動作させるために必要とされています。