組み込み制御はリアルタイムOSで

2010年8月20日(金)
松為 彰

割り込みハンドラによるリアルタイム処理

組み込み機器では、複数のセンサーやスイッチを監視する必要があります。洗濯機の例で言えば、スイッチの操作によって洗濯を始めたり中断したり、注水時には水位センサーからの満水検知信号によって注水バルブを閉じたりする必要があります。洗濯機がどのような状態であっても即座にこれらの入力情報を受け付けるためには、割り込みを使うのが適当です。

一方、洗濯という本来の機能については、洗濯(注水、洗濯槽の回転、排水)→すすぎ(注水、洗濯槽の回転、排水)→脱水といった逐次的な処理の流れが明確です。したがって、これをそのまま洗濯機の制御のメインプログラムとし、スイッチや水位センサーからの割り込みがあれば、それに応じて処理を変える(例えば洗濯や注水を中止する)ようにすれば良さそうです。

しかし、割り込みハンドラは通常のプログラムに割り込む形で実行されるものであり、その中で複雑な状態を保持するには向きません。また、割り込みハンドラの実行中にほかの割り込みの処理を行うのは難しい場合が多いため、割り込みハンドラの中では時間のかかる処理を行うことができません。すなわち、スイッチや入力センサーに対する割り込みハンドラの中では、注水や洗濯といった時間がかかる処理の終了を待つわけにはいきません。

そこで、割り込みハンドラの中では、スイッチや水位センサーの入力情報を取得する部分に限って処理し、注水や洗濯のように時間のかかる処理は、割り込みハンドラではない通常のプログラムで行う必要があります。

ところが、ここで「通常のプログラム」と書いた部分でも、組み込みコンピュータにおいては、いろいろな処理を並行して行いたいことが多いのです。例えば、洗濯機には、洗濯が終わるまでの残り時間を7セグメントのLED(発光ダイオード)を用いて分単位で表示する機能があります。この表示を、1分ごとに更新する処理を並行して行う必要があります。このような処理をどのような方法で行うか、考えてみます。

割り込みハンドラとタスク

洗濯のメインプログラムを工夫すれば、残り時間の表示の更新を1分ごとに行うことも、できないわけではありません。しかし、洗濯→すすぎ→脱水というメインの処理と、残り時間の表示を1分ごとに更新する処理は、独立性が高く、処理の必要なタイミングも別々です。洗濯のメインの処理の中に、1分ごとの時間表示の更新処理が混ざるのは、見通しが悪くすっきりしないプログラムになってしまいます。

また、1分単位の表示や1分ごとという処理間隔は、7セグメントLEDの表示が"2けた"であるといった、ハードウエアの制約によるものです。こういった制約が洗濯のメインプログラムの基本構成にまで影響するのは、プログラムのモジュール化、保守性や拡張性といった観点からも望ましくありません。

例えば、近い将来に、ちょっとしたハードウエアを追加することで、洗濯機が近くのパソコンや携帯電話と通信できるようになり、洗濯の残り時間をパソコンや携帯電話に表示できるようになったと仮定します。そうなると、現在7セグメントLEDというデバイスに出力している処理は、通信の処理を行うプログラムに置き換える必要があります。残り時間の表示は、1分ごとではなく1秒ごとになるかもしれません。こういった場合に、残り時間を表示する処理が洗濯のメインプログラムと一体になっていると、変更が難しくなります。

結局、システム全体の構成をすっきりさせるためには、この2つの処理を、並行して実行される別々のプログラムとして記述できると都合がよい、ということになります。これを実現するのが、制御用リアルタイムOSによって提供される「タスク」の機能です。洗濯機の場合には、洗濯のメインの処理と残り時間の表示処理を別々のタスクで行えばよいというわけです。割り込みハンドラを使うだけであれば、リアルタイムOSは不要ですが、タスクの機能を使うためには、リアルタイムOSが必要となります。

図1: 洗濯機の制御用ソフトウエアの例(クリックで拡大)
「残り時間の表示」は1分ごとに更新する必要があります。この処理は、洗濯のメインプログラム(洗濯タスク)の中で行うよりも、別のタスク(残り時間表示タスク)で行う方がすっきりした構成になります。
パーソナルメディア株式会社 代表取締役社長

1985年に入社以来、TRONやT-Kernelに関連した各種の製品の企画と開発に携わってきた。組込み向けのほか、パソコン用のTRONである「超漢字V」、多漢字検索ソフト「超漢字検索」、TRONを応用したデータ消去ソフト「ディスクシュレッダー4」などを商品化している。2010年4月よりT-Engineフォーラム T-Kernel 2.0 WGの座長。

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