OpenStackのアーキテクチャを理解しよう

2014年6月10日(火)
宮原 徹(みやはら とおる)

ゲストOSを管理するGlance

仮想マシンインスタンスを利用可能にするには、ゲストOSをロードする必要があります。ゲストOSはGlanceが管理しています。ゲストOSはイメージファイルとしてGlanceに登録後、仮想マシン起動時にインスタンスが実行させるホストにコピーされ、読み込み専用として仮想マシンにアタッチされます。読み込み専用なので、書き込み情報は一時的に保管されますが、インスタンス終了時に削除されてしまいます。これはAWSの初期の頃と同様の動きで「ephemeral」(エフェメラル・つかの間の、の意)なインスタンスと呼ばれます。もし、通常の仮想マシンと同様に、仮想ディスクファイルにOSやアプリケーション、データなどを保管したい場合には、次に解説するCinderを利用します。

GlanceはAWSの互換性という意味でAMI(Amazon Machine Image)形式のイメージを扱うことができますが、他にKVM用に作成したQCOW2形式の仮想ハードディスクをそのまま扱うこともできます。また、KVM以外のハイパーバイザーを利用する場合には、それぞれの環境に合わせた対応となります。

ブロックデバイスを管理するCinder

ゲストOSやアプリケーション、データなどを永続的に保管するには、仮想マシンに対してブロックデバイスを提供する必要があります。Cinderはブロックデバイスを管理します。ブロックデバイスは、仮想ディスクファイルなどの形で、NFS共有やLinuxのLVM(Logical Volume Manager)の領域などに格納されます。この仮想ディスクファイルを仮想マシンにアタッチして、ブロックデバイスとして利用できるようにするのがCinderの役目ということになります。

AWSでいうAmazon Elastic Block Storeに相当します。

ネットワークを管理するNeutron

仮想マシンのインスタンスは、たとえばサーバーとして利用するにはネットワークに接続する必要があります。OpenStack自体はネットワークそのものをコントロールしません。たとえばOpen vSwitchやOpenFlowといった、外部のネットワークの仕組みと連動して、仮想マシンに対してネットワーク接続を提供するのがNeutronの役割です。

プラグインという仕組み

CinderやNeutronは、もともとNovaに組み込まれていたブロックデバイスやネットワークの機能を拡張するために別コンポーネントにしています。しかし、拡張性という点で考えると、さらに各種ストレージやネットワーク機器に対応させる必要があります。OpenStackはスクリプト言語のPythonで記述されており、拡張するにはプラグイン、あるいはドライバと呼ばれる各種機器に対応させるためのルーチンをPythonで記述して呼び出す構造を取っています。たとえば、Neutronでは各種ネットワークの仕組みに対応するため、現在は15種類のプラグインが用意されています。

認証系を司るKeystone

OpenStackを構成する複数のコンポーネントに対して認証機能を提供するのがKeystoneです。OpenStackのユーザーはKeystoneによる認証を受けて、各種コンポーネントに対して許可された操作のみが行えるようになっています。KeystoneはMySQLなどのデータベースを使って認証情報を管理する他、バックエンドにLDAPサーバーなどを接続することもできるので、柔軟に認証系を構成できます。

Web管理UIのHorizon

OpenStackの各コンポーネントはREST APIを提供しているので、コマンドラインやスクリプトなどから様々な操作が行えますが、対話的にOpenStackを操作するためのWeb管理ユーザーインターフェースであるHorizonも用意されています。Horizonを導入することで、インスタンスの起動やネットワーク、ブロックストレージなど各種リソースの管理が行えます。

Horizonでインスタントの概要を表示
Horizonでインスタントの概要を表示

分散オブジェクトストレージを提供するSwift

Swiftは分散型のオブジェクトストレージを提供します。オブジェクトストレージは通常のファイルシステムと異なり、ディレクトリ階層などを持たないストレージで、アクセスにREST APIを利用します。通常のストレージに比べて、大規模なストレージを構築するのに向いています。内部的には分散型のアーキテクチャとなっているので、1つのデータオブジェクトが3重に別々のノードに保管されるなど、データ保護にも優れています。ただし、通常のストレージに比べると性能は劣るので、画像データを格納したり、OpenStackではGlanceに登録されたOSのイメージを格納するのに利用されたりします。

この機能はAmazon S3に相当します。

「自動化」を行うHeat

最近のクラウドでは様々な設定などを自動的に行う「自動化(オーケストレーション)」が流行しています。OpenStack上でも様々な自動化を行うためにHeatが用意されています。HeatはOpenStackの各種コンポーネントのAPIに対して様々な操作を自動的に行う他、ChefやPuppetといった自動化の仕掛けと連動して、作成したインスタンスに対する設定の自動化をサポートします。

この機能はAWS CloudFormationに相当し、一部互換性もあります。

リソース利用量を計測するCeilometer

Ceilometerは「雲量計」を意味しており、OpenStackで構築したクラウド上でのリソース利用量を監視、計測します。たとえば外部向けのクラウドサービスならば、計測結果に基づいて使用料をユーザーに対して請求することになります。いわゆる死活監視などを行うわけでは無い点に注意が必要です。

この機能はAWS CloudWatchに相当する機能です。

表1: OpenStackの構成要素

サービス 役割
Nova 全体をコントロール
Nova Compute 仮想マシンインスタンス管理
Message Queue AMQP
Keystone 認証系
Glance ゲストOSイメージ管理
Cinder ブロックストレージ管理
Horizon Web管理画面
Swift オブジェクトストレージ
Ceilometer リソース利用量監視
Heat 自動化

以上が、現在OpenStackで提供されているソフトウェアコンポーネントです。さらに最新版のIcehouseからはいくつかの新機能が開発版として追加されました。次回はそれらのコンポーネントについて解説します。

著者
宮原 徹(みやはら とおる)
日本仮想化技術株式会社 代表取締役社長兼CEO

日本オラクルでLinux版Oracleのマーケティングに従事後、2001年に(株)びぎねっとを設立し、Linuxをはじめとするオープンソースの普及活動を積極的に行い、IPA「2008年度 OSS貢献者賞」を受賞。2006年に日本仮想化技術(株)を設立し、仮想化技術に関する情報発信とコンサルティングを行う。現在は主にエンタープライズ分野におけるプライベートクラウド構築や自動化、CI/CDなどの活用について調査・研究を行っている。

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