非IT企業にも利用が広がるOpenStack、ポスト東京サミットに向けて
5周年を迎えたIaaS構築ソフトウェアであるOpenStackの国際イベント、OpenStack Summitがはじめて日本で開催されました。2015年10月27日~30日の4日間、品川にて開催されたイベントにおいて見られた全体的な動向を、「非IT企業への事例の広がり」「デファクトスタンダード化」「人材の充実策」「相互運用性の確保と成熟度の明確化」という4つの切り口で振り返ってみたいと思います。
IT業界以外にも広がるOpenStack
柔軟で迅速なプラットフォームを実現するための技術であるOpenStackは、IT業界やテレコム、研究機関など、「自分で利用する」ことが可能な利用者から広がりを見せてきました。このことは、これまでの3回のOpenStack Summitで発表されている、優れたユーザ事例を表彰する仕組み"Superuser Award"の受賞者を振り返ることでも見てとれます。
2014年秋のOpenStack Summit Parisにおいて、OpenStackの黎明期から研究用途に利用してきたCERNが初めてのSuperuser Awardの受賞者になりました。その半年後、サービスプロバイダとして開発環境や自社サービスをOpenStackにのせワークロードをさばくComcastが、第2回のSuperuser Awardを受賞。そして今回、日本最大のテレコム企業体として、パブリッククラウド・プライベートクラウド・オブジェクトストレージという3つの用途でOpenStackを利用しているNTTグループが、OpenStack Summit TokyoでのSuperuser Awardの受賞者となりました。このように、「自分たちでOpenStackの環境をつくり、運用し、ビジネスに活かす」ユーザ事例には事欠きません。
いっぽうで、今回のOpenStack Summitでは一般エンタプライズの成功事例が紹介されはじめています。以前よりOpenStackの利用を公表していたBMWがまずひとつ。そして、今回日本のエンタプライズ企業としては初めての事例となったキリンの事例が、インテグレーションを担当したNTTデータから発表されています。OpenStackが「ITに詳しい企業・団体が、自分たちのために使う」域を超えて、拡大を続けていることを伺わせます。
一般エンタプライズのOpenStack利用の際に重要となる存在が、OpenStackを使って一般エンタプライズのビジネスを支援していく「Super Integrator」の存在です。初日の基調講演でNEC柴田氏がこの点に触れており、新ビジネスを実現するためのイネーブラ技術としてOpenStackが存在し、プラットフォームのみならず、アプリケーションまで含めてインテグレートしていく能力が必要とされていることは明らかです。
クラウド基盤のデファクトスタンダードに
言うまでもなくOpenStackはクラウド基盤を実現するソフトウェアです。サーバ・ストレージ・ネットワークのデータセンタリソースを抽象化し、APIで柔軟に払い出す仕組みを実現するソフトウェアとしては、現時点で最も現実的な解答であるといえます。OpenStackがほぼデファクトスタンダードとなったこんにち、OpenStackコミュニティとして目指す姿をあらわす言葉として、以下の3つがあげられています。
OpenStack Powered Planet
国境を超え、地域を超え、オープンソースの力で世界中で使用されるクラウド基盤になっていくこと。
One Platform
相互運用性を確保し、各種データセンタリソースを抽象化し払い出すための標準的なAPIセットを提供していくこと。
Integration Engine
インフラのみならず、アプリケーションを含めてインテグレートしていくための、汎用のインテグレーションエンジンとなっていくこと。
2015年10月にリリースされたLibertyリリース、2016年4月にリリース予定のMitakaリリースなど、今後の機能拡張の方向性にも注目していきたいところです。
人材の充実により「運用できるクラウド基盤」に
一般論として、プラットフォームの安定的かつ効率的な運用方法はノウハウの塊であり、人材の確保と継続的な改善が求められる事項といえます。OpenStackの利用が世界中で広まるに連れて、運用方法を知識として体系化していく必要が出てきたのは自然な流れといえるでしょう。その必要性にOpenStackコミュニティとして応える手段として、運用者に対する認定プログラム (COA: Certified OpenStack Administrator) がOpenStack Foundationからアナウンスされています。COAプログラムは2016年の開始を予定しています。
この動向に関連する動きとして、今回のOpenStack Summit TokyoではHeadline Sponsorに名を連ねたNECからは、OpenStackの実運用を想定した技術者育成サービスの提供が発表されています。
NEC、OpenStackの実運用経験に基づく技術者育成サービスを提供 (2015年10月27日):プレスリリース | NEC
また、Linux技術者向けの認定をおこなっているLPIはOpenStack技術者の認定試験を開始しました。
OpenStack(クラウドOS)を扱うプロフェッショナルの証 OPCEL認定試験 [ OpenStack技術者認定試験 by LPI-JAPAN ]
サミットの会場でも幾度か聞かれた話では、どの企業も「OpenStackがわかり、効率的に運用していける人材」を非常に欲しており、人材マーケットにおける価値は今後も継続して上昇していくと考えられます。
相互運用性の確保とソフトウェア成熟度の明確化
運用ノウハウの体系化に加えて、OpenStackの商用プロダクトとしての相互運用性の確保にも継続した改善活動が見られます。
ビジネスが本格化し、種々のベンダが入り乱れることにより、OpenStackのfragmentation (プロダクトの乱立と相互運用性の低下) は、解決すべき問題として以前よりあげられていました。OpenStack Foundationとしては、DefCoreと呼ばれる取り組みで「OpenStackとは何であるか」を明確に定義し、OpenStackを名乗るためのテストセットと、サービスやリューションのテスト結果をOpenStack Marketplaceと呼ばれるWebページで公開しています。テストセットを通過しOKマークがついたサービス・ソリューションどうしは、一定の相互運用性が担保される仕組みです。
また、OpenStackというBig Tentの傘下には、多くのプロジェクトが含まれるようになりました。そのいっぽうで、プロジェクトが提供するソフトウェアそれぞれについて成熟度はまちまちであり、導入を検討する際に「あまりに選択肢が多すぎる」「取捨選択するための材料が不足している」こと問題のひとつとしてあげられていました。
今回のOpenStack Summit Tokyoに合わせて、OpenStackのWebサイトのSoftwareページが一新され、Project Navigatorとして各プロジェクトの状況が俯瞰できるようになりました。
6種類のコアサービス(Nova、Neutron、Swift、Cinder、Keystone、Glance)に加えて、9つのオプショナルなサービス(Horizon、Trove、Sahara、Heat、Ceilometer、Zaqar、Ironic、Barbican、Designate)のそれぞれについて、Adoption(利用率)、Maturity(5段階の成熟度)、Age(プロジェクト開始からの年数)の3指標が一覧されています。利用率は半年にいちどのユーザサーベイに基づいて算出されており、全体を俯瞰し、ユースケースに応じて取捨選択を容易にする仕組みとして有用であるといえます。
ポスト東京サミットに向けて
以上、「非IT企業への事例の広がり」「デファクトスタンダード化」「人材の充実策」「相互運用性の確保と成熟度の明確化」という4つの観点で、OpenStack Summit Tokyoを駆け足で振り返ってみました。世界的にビジネスが拡大しつづけているOpenStackですが、東京サミットは日本のマーケットにおける起爆剤になったことでしょう。これを機に、日本国内マーケットでの理解が進み適用が促進されることが期待されます。
次回以降では、開発者の会議(Design Summit )に参加したメンバーから、各コンポーネントの今後の技術動向などを報告したいと思います。
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