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  インタビュー

GitHubのCEO「世界中の全ての人がプログラマーになれること」が究極の目標

2015年10月20日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

GitHub Universeのキーノートの後にクリス・ワンストラス氏との質疑応答が行われた。ワンストラス氏はキーノートを終えて一安心といった雰囲気でカジュアルに質問に答えてくれた。

キーノートを終えたGitHubのCEO、クリス・ワンストラス氏

図1: キーノートを終えたGitHubのCEO、クリス・ワンストラス氏

ーーーまずはお疲れ様でした。今回が初めてのイベントということでしたが、いかがでしたか?

随分前からこのイベントをずっと楽しみにしていたし、エキサイティングな気持ちでいましたが、今キーノートが終わってほっとしてます。昨日から食べることも寝ることも出来ませんでしたから(笑)。

ーーー今回はプログラマー向けのGitHubだけではなく弁護士がGiHubを使って仕事を進める例をキーノートで紹介しましたが、これからプログラマー以外の利用を進める機能拡張をしていく予定なのですか?

それだけのために機能拡張をすることは無いと思います。GitHubはあくまでもプログラマーのためのツール、エコシステムでありたいと思っていますから。ただ色々なパートナーのツールと連携することで様々な利用形態や業種に拡がっていくことは考えられます。GitHubは一つのツールだけで全てをカバーしようとは思っていません。RubyにはRubyに向いたツールがあるでしょうし、JavaでもPythonでもそれは同じですし、iOSやAndroidでもそれぞれの言語や環境に向いた最適なツールをGitHubと連携できるようにすることになると思います。ですので、どんな言語やターゲットであっても開発のためのソースコード共有のプラットフォームとして拡張していくことを目指しています。

ーーーキーノートの中で「Software is eating the world」という文章を引用していましたが、ソフトウェアがビジネスの主要なコンポーネントになるという理解で良いのでしょうか?

そうですね、例えば、Uberにはとても多くの弁護士がいて毎日多くの仕事をする必要があると思いますが(笑)、だからと言って彼らのビジネスが弁護士事務所というわけではありません。そして今の時代、誰でも車を作ったり、ロボットを作ったり出来るようになっています。3Dプリンターを使って自分だけの自転車を作ることも可能になっていますしね(笑)。そのようなこと(ビジネスそのものを変革すること)を可能にしたのは全てソフトウェアのお蔭だと言っても過言ではないと思います。それぐらいにソフトウェアは世界を変えています。その上で、GitHubはそのソフトウェアを開発するという行為をより快適にしたい、だれもがコードを書くことをサポートしたいという目的のために作られています。

我々の究極の目標は世界中の誰もがデベロッパーになることを支援することです。たとえアメリカの片田舎に居てもGitHubを通じてソフトウェアを開発することが可能になる、またオープンソースソフトウェアであることもそれをかなり後押しをしていると思います。オープンソースソフトウェアを書いてそれを公開し、GitHubで共有することで世界中の人たちとコラボレーションを行うことが出来ています。

ーーー実際に若い人たちがGitHubを使ってプログラミングを学んでいるということでしょうか?

実際には、これから出て来る若い人たちがどんなツールを使って開発を行っていくのかは正直わかりません。私の場合でも本を読んでプログラミングを覚えようとしましたが、上手く行きませんでした(笑)。それからビデオを見て学ぼうと思ったこともありましたけど、それもダメでした。でもオープンソースソフトウェアに出会って他の人と協力しあう、あの開発スタイルを始めてからちゃんとプログラミングが学べるようになった気がします。ですので、プログラミングを学ぶスタイルもその時に使うツールも今とは全く異なっていても驚く必要はないと思います。結局、コラボレーションを行う際に大事なのはツールではなく人で、どういう人と協力するのか、会話するのか、のほうが大事なのだと思います。なのでGitHubの場合も常に人に注目してURLも人の名前が最初に来て、その次にプロジェクトがくる、そういう構造になっているのです。

ーーーキーノートでマイクロソフトとの協力について話をしていましたが、あれはマイクロソフトのCEOが変わったからよりオープンソースソフトウェアについて積極的になったということなのでしょうか?

実際には我々はスティーブ・バルマーがCEOの頃からマイクロソフトとは話を続けていました。ですので、CEOが変わったから急にオープンソースソフトウェアに積極的になったというよりも全体的な流れの中でああいう開発が進められるようになったと思っていいのではないでしょうか。

ーーーデベロッパーにとって大事なことはなんでしょう?

常に新しいことに挑戦すること、新しいことを学ぶことですね。これは単純に言語を学ぶとか新しいテクノロジーを知るというだけではなく毎日メールを読んだりすることでも可能なことで、どちらかと言えば意識や姿勢のことかもしれません。

ーーーGitHubにはOctoCatというマスコットがいますが、あのキャラクターがGitHubの成功に貢献していると思いますか?

それは全くその通りだと思います。OctoCatは我々の成功にとても重要なのです。実はもともとのあのキャラクターはエラーページの中にだけ存在していたのです。GitHubを使うことは当時はまだ難しく新しいデベロッパーにとっても経験を積んだデベロッパーにとってもまだ慣れないことで、何かが上手く動かない時に緊張を和らげる意味であのキャラクターをエラーページに登場させました。でも今はOctoCatはどこにでもいます。それぐらい人気のあるキャラクターになりました。我々はソフトウェア開発というとてもシリアスな作業を支援していますが、シリアスな作業全てがシリアスでなければいけないと言うルールはありませんからね(笑)。たまには笑うことも必要です。

GitHubのマスコット、OctoCat。名前はモナリサだそう

図2: GitHubのマスコット、OctoCat。名前はモナリサだそう

ーーー既に日本の市場には進出していますが、中国という大きな市場に向かって出ていくという予定はありますか?

実際には多くの中国の人、プロジェクトが既にGitHub上に存在していますので、既にグローバルな存在として中国でも使われていると思います。ただし我々はとても慎重に市場開拓を行っています。その国の文化などを検討した上で行っているので、今のところは中国に行こうと言う計画はありません。日本にいる多くのユーザーを支援するために日本に拠点を作りましたので、まずはそこからですね。

アメリカ合衆国のモットー、「In god we trust」をもじった「In Collaboration we trust」。ここでもOctoCat登場

図3: アメリカ合衆国のモットー、「In god we trust」をもじった「In Collaboration we trust」。ここでもOctoCat登場

今回のイベントではオタクなデベロッパー向けだけではなくデトロイトの貧困層向けの水道プロジェクトなど社会に貢献するプロジェクトにおけるGitHubという姿も強調されていた。実際に日本ではまだまだ浸透していないGitHubの隠れた側面だろう。これからの日本法人の活躍に期待しよう。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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