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Linux Foundationのジム・ゼムリン、OSSの次のハードルはセキュリティとエンジニアの収入?

2015年3月17日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

日本OSS推進フォーラムが開催した「OSSシンポジウム2015」に登壇した米国Linux Foundationのエグゼクティブディレクター、ジム・ゼムリンは先進的なソフトウェアは全てオープンソースとして書かれるだろうとオープンソースソフトウェアの明るい未来を語った。

クラウドコンピューティングやビッグデータ、スマートフォン、Internet of Thingsまで全てのITプロジェクトでオープンソースソフトウェアが使われていることをまず紹介し、政府や官公庁、また金融やネットワークキャリアなどのミッションクリティカルなビジネスを担う企業から新興のベンチャーまであらゆる企業がオープンソースソフトウェアを利用しており、更に拡大するだろうと宣言した。ゼムリン氏はあのマイクロソフトまでが「Microsoft Loves Linux」と発言したことを例に挙げ、これからはプロプライエタリーなソフトウェアではなく企業の枠組みを超えたコミュニティによってソフトウェアが開発され、利用されることを強調した。またLinux Kernelのデベロッパーコミュニティも拡大していることを説明し、「オープンソースソフトウェアはインターネットの道と橋を作っている」と語った。特に企業のR&Dが既にオープンソースソフトウェアによって「外部のR&D化している」と解説した上で、今後の課題について語った。

Linux Foundation Executive Director ジム・ゼムリン氏

明るく自信たっぷりにオープンソースソフトウェアの現在を語った前半から近い将来のオープンソースソフトウェアの課題に話題が移るとややシリアスな表情になり、「オープンソースソフトウェアにはもっと弁護士が必要だ」「オープンソースを開発するエンジニアはお互いが信頼できる関係になければいけない」「ntpdを作っているエンジニアは年に25000ドルしか収入が無い。これはおかしい!」とテクノロジー以外の社会的、経済的問題がオープンソースソフトェアの課題であると説明を行った。

ゼムリン氏が課題として挙げた3つの点について解説しよう。まずは「弁護士が必要」ということについて。これまで以上に企業内でオープンソースソフトウェアが使われるようになると各国の著作権や個々のオープンソースソフトウェアに付随するライセンス、その他の法規と共にソフトェアについても熟知している弁護士が居ないと様々な問題を起こしかねないという問題提起だったようだ。実際には「アメリカにはこれ以上弁護士は要らないと思うけどね、日本にはもっと必要だよ」というジョーク交じりの解説だったわけだが。

次に紹介した「エンジニアにおける信頼関係」は、Linux Kernelの開発者コミュニティそのものがトップにいるリーナス・トーバルズとその下位に位置するコミッターとの信頼関係の上に成り立っており、そのような信頼関係によって成り立っている企業組織に縛られないコミュニティを構成しているエンジニアは、その信頼関係を勝ち取るために非常な努力をしていると解説し、米国やヨーロッパの企業はそのような有能なエンジニアを獲得するために大きなコストを使っていると語った。その上で、企業内のITエンジニアが企業内のシステムだけに貢献する時代は終わり、如何にエンジニアをコミュニティに向かわせるか、外部のエンジニアを自社が使っているオープンソースソフトウェアに貢献させるか、その観点でのエンジニアの採用と育成が必要という論点だった。

最後に出された「年収2500ドル問題」はインターネットのインフラストラクチャーの要所を支える様々なソフトウェアが実は非常に少人数のエンジニアの貢献によって成り立っていること、さらにそのようなエンジニアが経済的に困窮していることを明らかにしたうえで、Linux Foundationとしての解決策として設立されたCII(Core Infrastructure Initiative)の紹介への前フリだったのだ。

これは単にオープンソースソフトウェアにを開発しているエンジニアに対して資金提供を行うだけではなく、昨今のオープンソースソフトウェアにおける脆弱性(OpenSSLやHeartbleed)を例に挙げ、「多くのエンジニアがソースコードを見ているからバグは深刻じゃない」というリーナス・トーバルズによるリーナスの法則(原文は”Linus' Law / given enough eyeballs, all bugs are shallow”)に対して、現実にはそれはもはや正しくないし、だからこそOpenSSLやBashの問題が起こったのだと解説した。その上でLinux Foundationとしてこの問題を解決するためにCIIをマイクロソフトやグーグル、アマゾンなどに賛同を貰って立ち上げたのだと力説した。更に今後も経済的な危機に瀕しているオープンソースプロジェクトに対しては積極的に関与することと支援したプロジェクトに対しては成功事例として公開を行っていくことを約束した。

より戦略的にOSSを使うべきと力説するゼムリン氏

ここに及んでゼムリン氏は既にLinuxというコンピュータのOSの技術の話題ではなく経済もしくは社会のインフラとしてのオープンソースソフトウェア、そしてそれを支えるエンジニアとユーザーのコミュニティの関係、エコシステムの健全化という実はとても大きな話をしていたのだった。

最後にデロイトのイベントで語られたとみられる以下のコメントを引用してオープンソースソフトウェアを更に活用するためには人材の活用方法が根本的に変わる、それに対応出来ていますか?と問いかけて講演を終了した。

「2020年には今、あなたが一緒に仕事をしているエンジニア達の半分はあなたのための仕事をしていない。でもそれは良いことなのだ。もしも準備が出来ていれば。」

”Jump ahead to the year 2020, Half the people you rely on don’t actually work for you and that’s a good thing - if you are ready”

ゼムリン氏は講演後、すぐさま次の予定のために会場を離れてしまったが、単なる技術の振興団体としてのLinux Foundationから経済と社会に密接したインフラに関与することになったオープンソースソフトウェアを支えるLinux Foundationとしての熱意を感じさせる講演だった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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