GitHub Universe 2022、キーノートで見せた多角的にデベロッパーを支援する機能とは?
世界最大のソースコードリポジトリー運営企業であると同時にMicrosoftによる買収後も独立した組織とし運営されているGitHubが、年次カンファレンス「GitHub Universe 2022」をサンフランシスコで開催した。2022年11月9日と10日の2日間、サンフランシスコ市内にある美術館などを利用してキーノートセッション、ブースでの展示などが行われた。この記事では初日に開催されたキーノートセッションの中から筆者が感じたポイントを解説したい。動画は以下のリンクから参照されたい。
●動画:Universe 2022 Day 1 Keynote
今回のカンファレンスで発表されたGitHubの新機能については、GitHub自身がブログの記事として公開している。
●GitHub自身のブログで発表内容を紹介:GitHub Universe 2022における新発表のすべて
このブログでキーノートで紹介された部分はほぼ網羅されているので、ここで繰り返し説明することは避けるが、要約すれば、AIによってコード記述を補助するAIペアプログラミング機能であるCopilotをビジネス向けに提供開始、Copilotを使った音声によるペアプログラミング(ベータ版として公開)、クラウドベースの開発環境であるCodespacesを無料で提供(制限あり)、コード検索機能の強化、GitHub Projectsの新機能としてイシュー管理と新しい計画管理機能であるRoadmap、タスク管理の新機能Tasklists、モバイルアプリまでが主にデベロッパー向けのトピックとして紹介された。
Copilotはすでにβ版として公開されていたが、無償提供される対象はオープンソースソフトウェアのコントリビュータ、学生そして教師であることも説明された。それをビジネスで利用するための仕組みが新たに提供されることがポイントだろう。すでに多くのPythonプログラマーがCopilotを使ってコードを書いていることも紹介された。
GitHub Issuesの紹介に続いて登壇したのは、Codespacesを紹介するエンジニアリングマネージャーのApril Leonard氏だ。
CodespacesはクラウドベースのWeb IDE(統合開発環境)だ。GitHubのすべてのユーザーに対して、月に60時間分が無料として公開されるという。ブラウザベースのIDEといえばRed Hatが公開しているCodeReady Workspacesが存在するが、Red Hat CodeReady WorkspacesはOpenShiftとRHELに特化していることが大きな違いと言える。
デベロッパーを資金面からサポートするプログラムの紹介としては、小規模な開発コミュニティを支援するGitHub Accelarator、1000万ドルの資金を用意したGitHub Funds、オープンソースコミュニティに寄付を行うGitHub Sponsors等が紹介された。
この後にメルセデスベンツのユースケースの動画に続いて紹介が始まったのは、エンタープライズ向けの新機能の紹介だ。
ここではGitHub Actionsについて「No.1のCI/CDプラットフォーム」とコメントすることでActionsがCI/CDのツールであることを明確に宣言している。Actionsが発表された2018年のGitHub Universeでは「CI/CDもできる」として言葉を濁していたが、今や多くのオープンソースコミュニティが使うことで洗練され、ユーザーからもCI/CDツールとして認識されていると言うことだろう。
●参考:GitHubがCI/CDソリューションを発表。GitHub Actionsによる実装
このスライドでは元DockerのCEO、Solomon Hyke氏が創業したDagger.ioのコメントを使って、20分掛かっていたCI/CDパイプライン実行が50秒まで短縮できたことを紹介している。Dagger.ioはGoやPython、JavaScriptなどでパイプラインを記述できる新興のCI/CDツールベンチャーだ。元DockerのCEOが興したCI/CDツールベンダーがActionsの速度向上を称えるという部分に意味があると言える。
またARMプロセッサ用のビルドと仮想マシンの提供なども発表された。
さらにエンタープライズ顧客向けには、オンプレミスでの実装を可能にするEnterprise Serverの発表が行われた。特に企業買収などによって他の企業からアカウントを併合する際に必要なアカウント統合のための機能など、実際に多くの企業を精力的に買収したGitHubらしい機能強化も発表された。
そして、最後の部分で発表されたのがセキュリティ関連のトピックだ。
ここでは脆弱性がオープンソースコミュニティ以外のエンジニアによって発見された際にスムーズなコミュニケーションを行うために、非公開で脆弱性を報告するPrivate Vulnerability Reportingなどが紹介された。
これだけ多くの新機能や発表を約50分の時間に収めるために、CEOのThomas Dohmke氏を始め、プロダクトマネージャー、コミュニティマネージャー、セキュリティの専門家などが入れ替わり立ち替わりで登壇し、プレゼンテーションを行ったのが今年のキーノートセッションだった。
ソースコードリポジトリーがメインだったGitHubは、前CEOが注力していたAtomというエディターを諦めて、クラウドベースの開発環境からCI/CD、そしてセキュリティにカバーする領域を拡げ、オープンソースコミュニティの頭痛の種、収入が足らないという問題にも積極的に取り組む姿勢を見せた。GitHubが主導して小規模なプロジェクトを支援するAccelarator、M12というMicrosoftがバックアップするファンド組織と組んで資金を用意したFunds、個人でも金銭的支援を行えるSponsorsと多角的に「資金が足らないことで発生する社会問題」に対応しようとしていると言える。北極近傍の地下にソースコードを保存するArctic Code Vaultなどについては、特にアップデートもなく静かに進行しているということだろう。
オープンソースソフトウェアがさまざまな企業だけではなくインフラストラクチャーや社会システムにおいても広く利用されている現状では「オープンソースソフトウェアを使うかどうか」はすでに問題ではなく「オープンソースソフトウェアを使ったとして持続できるのか」というその次の段階に来ているのだ。そのためにもユーザー企業は単に使うだけではなく、使っているオープンソースソフトウェアが持続的に存続していけるのかという問題にも取り組む必要があることを示唆している。
これら3つのプロジェクトはどれもMirosoftという強大なバックアップがあって初めて可能になったと言える。資金面の支援について、ここまで踏み込んで準備を行っている私企業は唯一ではないだろうか。GitHubはMicrosoftの強みを使いながらブランディングでは独自路線を貫き、製品戦略でも独自にニュートラルな立ち位置を確保しているのは健全な状態と言えるだろう。
ただし主要な組織以外はかなり統合されているようで、今回のサンフランシスコへの旅程の手配はすべてMicrosoftの旅行代理店を務めるAmerican Expressからの手配だった。またCEOやVP等へのインタビューも大きな会議室を暗幕で区切って複数のインタビューが同時進行できるように配慮されており、2日間という限られた時間で最大限の効率を求める姿勢がさらに進化していることを感じさせたカンファレンスとなった。
オープンソース系のカンファレンスでは、多くのユーザー企業がキーノートに招かれてユーザー目線のコメントをする部分にも価値があることを示している場合が多いが、GitHub UniverseはあくまでもGitHubが発表したいことを効率良く伝えることをゴールとしていることがわかる。今回はデベロッパー向けのトピックが多かったように思えるが、実際には資金面の施策やエンタープライズ企業のIT管理者向けのトピックも盛り込んで多角的に支援しようとする姿勢が明確になったセッションとなった。
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