事例から学ぶ!HubSpotがサイト改善に成功したUX戦略とは

2016年10月17日(月)
TechAcademy

本稿は、UXPinのブログ記事を了解を得て日本語翻訳し掲載した記事になります。本記事は、UXPinのコンテンツ・ストラテジストであるJerry Cao氏によって投稿されました。

UXデザイナーAustin Knight氏率いるチームが、Hubspotのサイトをリニューアルしたプロジェクトについて書かれています。

HubSpot(ハブスポット)のサイトは、世界の90カ国以上にわたり1万8000以上の企業にサービスを提供し、月間400万人以上のユーザーがアクセスしています。

HubSpotにとって、サイトこそ経営の要となるものでした。HubSpotが非公開会社から、多様な製品を提供する世界規模の公開会社へと発展するには、サイトのリニューアルが不可欠でした。

サイトリニューアルのプロジェクトは、プロジェクト開始から一ヵ月半後に開かれる、HubSpotの年次イベント「INBOUND」で新しい製品ラインがリリースされるまでに、急いで完成させる必要がありました。

UXデザイナーのAustin Knight氏がこのプロジェクトを率いて、3つのチーム(ビジュアルデザイナー、デベロッパー、マーケティングマネジャー)が加わりました。またKnight氏はこの他に、製品のポジショニング戦略(product positioning)、コピーライティング、技術開発を担当する外部の6つのチームとも協力しました。

この記事では、UXデザイナーが、過密なスケジュールのプロジェクトにおいて、リサーチ、共同作業、ユーザーに焦点を当てた「Lean UX」という手法を応用しながら、どのように良い結果を生み出せたのかを事例として紹介します。

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画像:HubSpotのリニューアルされたサイト

次の3つのステップは、実際のプロジェクトをベースとしてUXPinが作成したベストプラクティスです。

ステップ1:入念なリサーチ、継続的なテスト

HubSpotのプロジェクトは、まず最初に、Knight氏が「Lean UX」という手法をチームに紹介することから始まりました。

「Lean UX」とはJeff Gothelf氏によって提唱されている手法で、継続的な「学習ループ」(構築 – 評価 – 学習のループ)を用いてデザインプロセスを軽量化することによって、ビジネス戦略を整えるためのものです。

このプロジェクトでは、ステップ1は、分析とユーザー調査を行い、手早く予測の検証を行うことでした。

分析&ヒートマップ

多くのケースにおいては、デザインチームはマーケティング部門にデータ分析を依頼するのが一般的ですが、今回のプロジェクトでは、Knight氏は自らデータ分析を始めました。HubSpot、Googleアナリティクス、Mixpanelから膨大なデータにアクセスできました。

主な課題は、これらの膨大なデータを分析して、意味のあるパターンを見つけ出すことでした。

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Knight氏はまず、多くのユーザーの行動を分析した結果、次のような傾向が見られることに気づきました。

  • サイト上でPRICING(価格表)に最初にアクセスする(ユーザーは製品のメリットよりも価格を優先していることがわかります。)
  • サイト上でFAQ(問い合わせ)に最初にアクセスする(ユーザーの疑問が解決されていないことがわかります。)
  • サイト上でサイト内検索を最初に利用する(主に製品について不明な点を検索しているので、ユーザーが必要な情報をサイトで得られていないことがわかります。)

この分析から、HubSpotのサイトは完成度は高いものの、重要な情報が欠けているために、コンバージョン率が低下していることが判明したのです。

Knight氏はまた、2万5000人のユーザーを対象に、ヒートマップとスクロールマップによる分析を行い、合計46万7308のデータを集めました。

数年分のデータを集めることができたため、問題(例として、ユーザーの25%しかサイトのページをスクロールしていないことなど)が生じた原因を理解するのに役立ちました。

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セッションの記録

最後に、セッションの記録によって、定量分析と定性分析を行いました。

セッションの記録は、生きた、匿名性のある、未だ分析されていないデータです。実際のユーザーの行動がそのまま反映されたデータなので、分析結果も信頼できます。

セッションの記録は、デザインプロジェクト全体を通して行い、ユーザーへのインタビューやユーザビリティテストの結果を検証するのに役立てます。

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定性分析

定量分析は何(What)を分析するのには役立ちますが、なぜ(Why)を知ることはできません。

ユーザーエクスペリエンスに期待されることや、行動に隠された動機を知るためには、デザイナーはユーザーと利害関係者にインタビューを行う必要があります。

1. ユーザーへのインタビュー

HubSpotのサイトの利用者の10%は、ログインや情報検索をしているユーザ―であるため、サイトのリニューアルにあたっては、これらの特定のグループを無視することはできません。

データの分析結果を検証するためだけではなく、新しいサイトでどのようなコンテンツを提供するべきかのアイデアのヒントを得るために、Knight氏はユーザーへのインタビューを行いました。

ユーザーへのインタビューのプロセスを徹底して考えたことで、的を絞って意見を集めることができました。

2. 利害関係者へのインタビュー

このプロジェクトによってHubSpotのサイトの外観が根本的に変わることになるため、Knight氏はまた、HubSpotの会社の取締役、製品、マーケティング、セールス、カスタマーサポートのチームにもインタビューを行いました。

次にKnight氏は、ユーザーへのインタビューから得られた意見、カスタマーサポートの記録、HubSpotのサイトのリニューアルの不要な原案、Twitterのツイート、電子メール、さらにはKnight氏自身の講演イベントでの参加者との会話などの結果を総合的に勘案にしました。

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「プロジェクトで取り組んだのは、『データを参考とした、人間を中心に考えたデザイン』だ。」とKnight氏は述べています。

また、「デザイナーは可能なときにはいつでも、自分自身でデータを解釈して、デザインに関する決定を行う必要があります。近年、定量的なデータと定性的なデータを活用することで、デザイナーたちがますます力を発揮できるようになりました。一般的に、単なる意見や誰かの「好み」に基づいて決定することもなくなり、それ以上のことが可能になっているのです。

今日のデザイナーが真に力を発揮するには、明示的なデータと黙示的なデータの両方を活用して、デザインのソリューションを導くことが大切です。」とも述べています。

多変量テストによって、小さな変更を試す

最後に、Knight氏はリサーチの結果を基にして、多変量テスト(Multivariate Testing:レイアウトデザインの候補の中から、最適なデザインを選ぶための手法)を行うために、デザインにいくつか変更を追加しました。

多変量テストは、特定のデザイン要素を決定、却下することで、サイト全体のリニューアルに進む前に、チーム全体として戦略的な決定を行うのに役立ちます。

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ステップ2:実際のデザインを設計する

Knight氏は、「全体の設計→テスト→学習→イテレーション→最適なソリューションの選択」という構造化されたプロセスの手法を用いました。

簡単なプロトタイピング

多変量テストによって、レイアウトのデザイン候補をチームで3つに絞り、さらにプロトタイプを作成しました。

主な方向性が定まったところで、Knight氏は最初の段階でイテレーションを繰り返して行い、次に外観のデザインに取り組むという手法を取りました。

実際には、ユーザー望む方向性や意見を反映することに多くの時間を費やしたことを考えれば、プロトタイプでも最終的な完成製品に近いものでした。

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Knight氏は次のように述べています。

「紙のプロトタイプ、ワイヤーフレーム、外観のデザインの段階に至るまで、テストはユーザーと共に行っています。」

「プロジェクトのすべての段階において、ユーザーの声が反映されています。デザイナーとしては、ユーザーの声は耳に痛いこともあるかもしれません。ユーザーの意見にすべて従うのではなくて、方向性を見出すために活用するのがいいと思います。」

モックアップ

外観のデザインの段階において、Knight氏は特にビジュアルデザイナーと一緒に仕事を行いました。

また、Knight氏はデベロッパーとは、プロジェクトの各段階ごとにデザインについてディスカッションを行っていたのも特筆すべきことです。開発側は、プロトタイプを作成する段階で集中的にコーディングを行う一方、全体を通してイテレーションを行うことで、チーム全体としてプロジェクトの進行段階が揃うようにしています。

外観のデザイン

こうしてチームは、現代的で、美しく、鮮やかな色、HD画質の画像、型にはまらないグリッドデザインを活かしたサイトが完成しました。このグリッドデザインは、リニューアルしたサイトには「生き生きとしたデザイン」が必要だという観点から生まれたものです。

グリッドデザインをベースとして、多くのデバイスに対応したマルチプラットフォームで、コンテンツの変更や削除も容易です。また重要なコンテンツは、ユーザーや利害関係者の提案に応じて、アップデートしやすくなっています。

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画像処理

画像の枠のデザインも、型にはまらないグリッドデザインです。

プロジェクトのチームは、まずサイトのレイアウトに完璧に収まる画像を選びました。

マウスをホバーしていない状態(off-hover)では焦点のぼやけた画像の一部が表示され、マウスをホバーさせた状態(on-hover)では画像が右のグリッドの領域まで広がり、画像全体と追加の情報が表示されるような設計になっています。

この画像処理によって、識別しやすいデザイン要素が生まれ、ユーザーのアクセスを大幅に増加させるインタラクションが実現しました。

またチームは、ユーザーへのインタビューから、個々のユーザー向けに動的なコンテンツを提供することが、サイトリニューアルの成功に大切な要因であるとわかっていたので、これも開発しました。

互換性とWebアクセシビリティ

最後に、HubSpotのサイトのユーザーの16%はモバイル端末からアクセスしていること、アメリカの人口の19%はWebアクセシビリティのニーズがあることを考えると、コーディング作業に加えて、互換性とWebアクセシビリティを考慮するのも重要なことでした。

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プロジェクトの各作業の段階は同時並行で進めていたので、モバイル端末向け、デスクトップ端末向けの各サイト設計も同時並行で進めました。

ステップ3:コーディングとテスト

次のステップでは、HubSpot社のCMSを利用して、きれいなコードを設計するのが目標となりました。

すべてのデバイスにおいてコードの互換性が保たれるように、Knight氏は、ビジュアルデザイナー、エンジニアと共に、QAテスト(品質保証テスト)を定期的に実施しました。

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各種デバイスや、Chrome、Safari、Firefox、Internet Explorer、Edge、Opera、Yandexなど各種ブラウザの多数のバージョンの解像度ごとに、Webサイトが正しく機能するかチェックするテストも行いました。

さらに、BrowserStack(多数のブラウザ環境下における作動を再現するためのエミュレータ)を使い、実際のデバイス環境下におけるWebサイトの作動の再現も行いました。

設計を改良するときには、ユーザーのプラットフォームごとの割合はすでに把握できていたため、利用者数やクリティカリティ(Criticality:システムエラーなどにおいて主要な要因を分析するための指標)を考えながら、優先順位を決めて効率的に進めることができました。

ステップ4:テストの継続とイテレーション

リニューアルしたHubSpotのWebサイトは、予定通り、年次イベント「INBOUND」の舞台において、同社の共同設立者たちによって、Webサイトのサポート対象である新製品や新機能の紹介とともに初公開されました。

新製品のリリースは、大成功を収めました。

しかし、チームとしては引き続き「Lean UX」の手法をプロジェクトで実践するため、栄光に浸っている暇はありませんでした。早速、チームはGoogleアナリティクスとHubSpotのサイトからデータを集計して、次の指標に注意を向けました。

  • コンバージョン率(Conversion rate:目標の達成率)
  • 送信率(Submission rate:ユーザーがフォームにデータ入力して送信する率)
  • 離脱率(Drop-off rate)
  • 目標達成数(Goal completion)
  • ナビゲーションサマリーにおける、参照元ページと移動先ページ
  • 検索クエリ(Search Queries)

チームは、直帰率(Bounce rate:ユーザーが1ページだけ見てサイトを去る率)、ページ滞在時間など重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators)として役に立つ指標のみを分析しました。

さらにデザインの改良を重ねるために、チームはヒートマップを使って2万5000という膨大なセッションを分析し、追加のユーザビリティテストも行いました。

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結果:データが示すUXの成功

今回のプロジェクトは、Knight氏とチームが「Lean UX」の手法を全て取り入れた初の試みでしたが、データ分析と設計を上手く組み合わせて、迅速にビジネスの成果につなげることができました。

またリニューアルしたのHubSpotのWebサイトも、今回のプロジェクトのプロセスと同じくらい、柔軟性の高い設計に仕上がったので、今後のイテレーションも容易に行うことができると思います。デザインのリニューアルや、ユーザーやビジネス上のニーズに応じた修正にも、幅広く対応できるでしょう。

秘密保持契約(NDA)のためすべては公開できませんが、Webサイト公開後のビジネス上の成果を、次にいくつかご紹介します。

  • ユーザーのコールトゥアクション(CTA:Call To Action)への反応率の増加
  • ユーザーのナビゲーション要素への反応率の増加
  • 製品のトライアル版契約数の増加
  • 同社の製品チームにおけるストレスの緩和

今では、HubSpot社は「Lean UX」の手法を絶賛する支持者となっています。

Knight氏は、「私たちのチームは、プロジェクトの共同作業を効率的に進めることができた。」、「すべてのプロセスにユーザーの声を反映した結果、チームが誇りに思えるような、インパクトのあるWebサイトを構築できた。」と述べています。

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