アプライアンスの動向とWebサイトの最適化

2010年2月3日(水)
松永 豊/岸本 大輔

ADCのデータセンター対応

ますます巨大化するデータセンターでは、インフラと運用の両面からコストの削減が求められています。ここでは、Webシステムを統合してインフラを有効活用するための技術を、システム構成と運用管理の両方の視点で紹介します。

そもそも、サービスごとに独立したインフラを持つことは、切り分けが明確になるというメリットの一方で、システムが肥大化して初期コストと運用コストが増すというデメリットがあります。とはいえ、統合を前提としていないシステムのインフラを1つにまとめ上げるのは、IPアドレス1つとっても簡単には解決できない問題です。

ここで、最新のADC製品を使うと、物理的には1台のADC製品であっても、論理的には複数台のADCとして見せかけることが可能です。システムごとに異なるIPアドレス体系を、ADCの機器内部でテーブルを分けて管理できます。これにより、ADCをシステムごとに独立して用意する必要がなくなります。

管理面では、複数の異なる管理者がADC機器を共有できるよう、役割(ロール)ベースの管理機能が提供されています。個々のシステムに対する設定権限を分割して管理できます。管理者は自身が管理しているシステム以外の変更ができない状態になり、運用上のリスクを軽減できます。

性能面でも、例えば米F5 Networks(日本法人はF5ネットワークスジャパン)の「VIPRION」(ヴィプリオン)では、72Gビット/秒という 、ADCとしては驚くべき処理性能を提供しています。システム統合時に求められる性能をカバーするとともに、サーバーなどの機器だけでなく、ロケーション単位の統合も実現でき、大幅なランニング・コストの縮小が可能になっています。

仮想化環境への対応

これまで説明してきたADCの統合に加えて、サーバー統合などに用いられる仮想化技術への対応も、ネットワーク・アプライアンスに大きな影響を与え始めています。ADCは、サーバーやアプリケーションへの通信制御を担っている以上、サーバー仮想化技術との連携が不可欠です。

例えば、サーバー仮想化環境においては、トラフィックが多くなる時間帯になると、増えたトラフィックを処理するために必要な分だけ、複数の仮想サーバーが自動的に起動されます。ここで、新たに起動してきた仮想サーバー群に対してアクセスを分散させる機能が重要になっています。F5ネットワークスジャパンでは、この例のように仮想化環境でADCを活用するための導入ガイドを提供しています(アクセス、2010.2.3)。

また、処理やデータの一部分をデータセンターなどのクラウドに移動したケースでも、ネットワークに新たな課題が生まれます。自前で用意していたシステムをアウトソース化した場合、アプリケーションやデータベースの移行が重要であるのと同様に、ネットワークが構築上の重要な要素になります。

ADCは今後、社内システムだけでなく、アウトソースされたクラウド側システムの中で、そして企業内とクラウドの連携ポイントで鍵となってきます。トラフィックの最適な制御や、各システムの特性に応じたコンテンツ制御などの点で、パブリック・クラウド(社外データセンター)とプライベート・クラウド(社内データセンター)を橋渡しする、重要な存在になるでしょう。

これでADCの解説は終わりますが、今後もADCの進化には目が離せません。次回は、ネットワーク基盤サービスのアプライアンスについて解説します。

著者
松永 豊/岸本 大輔
東京エレクトロン デバイス株式会社
【松永 豊プロフィール】
1986年入社。SEとしてシステムの運用管理サポートを担当。その後システム管理のコンサルティングなどを経て、現在はCN事業統括本部プロダクト推進部。米国の新技術を国内に展開している。CISSP。
【岸本 大輔プロフィール】2006年入社。自社で取り扱うべきネットワーク製品を提案・構築する部署を経て、現在は主力製品であるF5ネットワークス社BIG-IPのプリセールスエンジニア。ロードバランサーを主としたユーザーへのソリューション提案を行う。

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