クラウド時代のアプリケーション配信を最適化するCitrix NetScaler
WWWとサーバーロードバランス
1990年代中盤、WWW技術を使用した情報配信の急速な拡大に伴い、1台のサーバーでは、クライアントからのリクエストを処理しきれなくなってきた。そこでまず用いられたのがDNSラウンドロビンと呼ばれる手法である。しかし、これにはいくつかの問題がある。
まず、すべてのサーバーが持つコンテンツを同一に保つ必要がある。また、クライアントは一度知ったIPアドレスを一定時間保持するため、二回目以降は同じサーバーに対するアクセスが続くことがあり、結果としてサーバーの負荷に偏りが生じる。さらに、ある物理サーバーが停止していたとしても、DNSサーバーはそれを処理する手段を持たないため、クライアントに対し停止しているサーバーを紹介する可能性があり、その場合クライアントはサーバーが応答しないという現象に遭遇する。
図1:DNSラウンドロビンでは負荷対策に十分とは言えない(クリックで拡大) |
L4スイッチとL7スイッチ
初期のサーバーロードバランサーは、パケットの情報からプロトコルの種類(TCP、UDP)とアプリケーション(ポート番号)を判別し、事前に定義されたサーバーに対しパケットを転送するいわゆるレイヤー4スイッチである。これは、当時流行していた専用目的の半導体チップ(ASIC)に実装しやすく、しかも汎用のCPUとソフトウエアよりも高速に処理できた。
さて、1990年代も終盤になるとWWW技術を使用したショッピングサイト(ECサイト)が普及してくる。ここでロードバランサーは新たな問題に直面する。現実のショッピングに照らし合わせて考えてみよう。
最初の物品はAという店員に購入の意志を示し、次の物品は近くにいたBという店員に、そして支払いはレジのCという店員にお願いする。現実世界ではA、B、Cの各店員は声を掛け合うのだが、ECサイトではA、B、Cは全く独立したサーバーであり、個々に異なる情報を持つことになる。そこで、ユーザーが店内にいる間は常に同じ店員(サーバー)が、そのユーザーを担当するように紐付ける必要がある。これはパーシステンスと呼ばれる機能である。
図2:ECサイトにおけるパーシステンスの仕組み(クリックで拡大) |
このような動作は、それまでのプロトコルとアプリケーションの判別だけでは不可能であり、サーバーとクライアント(Webブラウザ)間でやり取りされるURLやcookie情報までロードバランサーが認識する必要がある。またURLを識別することで、サーバーの負荷が高くなりにくい静的なコンテンツのみを提供するサーバーと、負荷が高くなりやすい動的なコンテンツを集めたサーバーを分けるといったことも可能になる。この結果、性能拡張の調整が容易になるだけでなく、個別にアップグレードやコンテンツの更新が可能になる。
この時、ロードバランサーは(必要があれば、いくつかに分割されているパケットを再構築して)HTTPリクエストという形で処理する必要がある。URLやcookieの情報は第7層のアプリケーション層に相当する。そのため、このレベルでのスイッチングを「L7スイッチング」と呼ぶ。このような動的なプログラミングはASICとして実装するには困難であるため、サーバーと同じ汎用CPUを使用することが多い。現在は一般的に「L4-7スイッチ」と呼ばれているが、処理内容は全く別物だ。L4は、プロトコルとポート番号による「ネットワーク」の世界の話であり、L7はアプリケーションやコンテンツの動作に関連する「サーバー」の世界の話だ。
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