モバイルDBとサーバーを同期させる(後編)
同期モデルの展開が完了すると、図7に示したフォルダ構成で、バッチ・ファイル類が作成されます。目的のバッチ・ファイルを実行すれば、同期処理を実行できます。
図7のフォルダ配下には、同期を展開した後で出力される各スクリプトが保存されています。demoがモデル名で、その下にあるconsolidatedに、統合データベースに関する設定とバッチ・ファイルが出力されます。mlsrvは、Mobile Linkのサーバー用のディレクトリで、Mobile Linkサーバー起動用のバッチ・ファイルが生成されます。
モバイル機器側では、クライアント側のremoteフォルダに、ファイルが出力されます。
Mobile Linkサーバーを起動して、同期処理を実行します。
最初に、Mobile Linkサーバーを起動します。Mobile Linkサーバー起動時のコンソールが表示されます。次に、モバイル機器側の同期処理を実行します。これが同期実行コマンドになり、これを実行すると同期します。同期が終わると、完了しましたというメッセージが出ます。
以上で、Mobile Linkの設定と同期サーバーの起動、モバイル機器側からの実行という、一連の動きが確認できました。これらのスクリプトやファイルを使えば、すぐに同期が可能です。アプリケーションからクライアントを呼び出せば、同期ができる状態になっています。
今回作成した同期処理以外にも、Mobile Linkの起動パラメータ(mlsrv11.exeに対する引数)は59種類あります。これらの引数を指定することで、いろいろな立ち居振る舞いが可能になります。
クライアント側では、dbmlsync.exeの引数が起動パラメータになります。アプリケーションから機能を呼び出して実行するためのAPIも用意されています。
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図7: 同期処理を実行するためのバッチ・ファイル群 |
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図8: 製品保守作業にモバイルDB同期を用いたINAXメンテナンスの事例 |
メンテナンス業務におけるスマートフォン利用事例
最後に、第1回でも簡単に紹介しましたが、水まわりの大手住宅設備メーカー、INAXの製品保守作業を行うINAXメンテナンスの事例があります。
全国700名ほどのカスタマ・エンジニアが使うシステムに、SQL AnywhereとMobile Linkが利用されています。サービス依頼、検収、請求と、それまでは紙で行っていた処理をシステム化した事例です。営業担当者の負担の削減や紙コストの削減、個人情報漏えいのリスク改善が狙いです。
カスタマ・エンジニアが持つスマートフォン上にデータベースがあります。全国に数カ所あるカスタマ・センターの窓口に修理の依頼が入ったタイミングで、各エリア担当のエンジニアにSMSで通知が送られます。SMSをトリガーとしてMobile Link同期が実行され、訪問先の顧客情報などがスマートフォンにダウンロードされます。
カスタマ・エンジニアは、ダウンロードされた顧客情報をもとに顧客とコンタクトをとり、メンテナンスに向かいます。作業終了後は、端末から作業完了報告を入力するだけでデータベースの同期が再度行われ、そのデータに基づいて必要な書類が自動作成されます。
データの入力には、タッチ・パネルに加えて、手書きOCR(光学式文字読み取り装置)なども併用しています。また、その場でミニ・プリンタへ出力し、コンビニ支払い用の請求書を印刷・発行しています。修理の依頼主は、サービスを受けた後すぐに決済できます。INAXメンテナンスにとっても、入金が早くなります。
最後に、業務完了報告書を入力してアップロード処理を行うことで、報告書と修理台帳へのデータ転送、および、基幹システムの請求書発行のためのデータ入力が完了します。
携帯電話の通話と通信機能が一体になった業務端末のため、片方を置き忘れたり紛失したりするリスクがありません。また、これまで携帯電話とデータ通信端末用の2契約分に分かれていた基本料金が一本化されるという効果もありました。
INAXメンテナンスでは、それ以前のモバイル・システムからのリプレースに、わずか1人月程度の工数で済みました。朝の始業時には、全国のカスタマ・エンジニアが一斉にデータベースにアクセスしますが、問題もなく稼働しています。
用紙代を削減できたほか、報告書作成にかかる時間は、1件あたり平均15分から3分半へと飛躍的に短縮されました。個人情報漏えいのリスクも回避できました。また、修理依頼受付から平均2日以内で作業を完了しています。
いかがでしたでしょうか。4回にわたり企業のモバイル・データの活用について、モバイル・データベースとサーバー連携を中心に説明しました。
iPhone、Android、BlackBerry、Windows MobileやWindows Phoneなど様々なOSのスマートフォンが出てきた今だからこそ、少々複雑なシステム連携を必要とするモバイル・システムにおいては、データ管理はデータベース、サーバー連携はデータ同期ミドルウエアを利用し、アプリケーションの開発や改変工数を最小限に留めることが重要です。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。