誰かの「仕事の最適化」で「選ばれるPMO」になる
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はじめに
私はいつも「過去にお付き合いのあった方から、10年経っても連絡がくるような仕事をする」ことを心がけています。実際ありがたいことに、さまざまな方から「甲州さん、また一緒に仕事をしませんか」と声をかけていただいています。
この背景には、PMOとして常に「プロジェクト全体の最適化」を図ってきたことが大きく影響しているのでしょう。そうあるためには、プロジェクト内の細かな課題にも目を向けていく必要があります。
それでは、具体的にどのような意識で仕事を進めていけば、何年先も「あの人と仕事をしたい」と思ってもらえる“選ばれるPMO”となれるのでしょうか。今回は、僭越ながら私の経験を踏まえつつ解説して行きます。
「自分だけ」ではなく「全体」に目を向けよう
PMOの話ではないのですが、以前、出張で飛行機に乗ったときのことです。私は予定通り目的地に到着し、出口に向かっていました。そのとき、ビジネスクラスのゾーンを通りかかったときに「ハッ」としたのです。
座席には使用したブランケット、読み終わった新聞や冊子などが散乱していました。みなさんなら、このような風景を見てどのように感じるでしょうか。
私は、決して良い気持ちはしませんでした。もちろんビジネスクラスですし「それなりの料金を支払って乗っているのだから、自由にするのは当然でしょう」「片付けは自分のやるべきことではない」と言われればその通りです。しかし、私は「残念だな」と感じてしまったのです。
初めて飛行機に乗ったならまだしも、何度か経験があるなら「座席に乱雑に置かれたものたち」を、その後誰がどうしているかは知っているはず。当然、客室乗務員あるいは清掃員が片付けるわけですが、もし多くの人が座席を乱雑にしたまま降りたらどうなるでしょう。言うまでもなく清掃に時間がかかります。誰かが残業をしなければならないかもしれません。あるいは最悪の場合、次のフライトの搭乗や出発の時間に影響を及ぼすかもしれません。
自分1人の使ったものを片付けるくらいほんの数秒のこと。それをあえてやらないことに、私は違和感を抱いたのです。
「甲州はいったい何が言いたいの?」と思ったかもしれません。すなわち、声をかけられるPMOとは「次に仕事をする人のことまで考えて、自分の仕事を行う」ことにあるのです。プロジェクト進行において「自分の仕事だけしていれば良い」という考えだと、プロジェクト全体の進捗に影響を及ぼすでしょう。
例えばこんな例を思い浮かべてみてください。あなたは、とあるプロジェクトに参加しているPMOです。チームメンバーの1人が、Excelで資料を作り1回1回印刷しているのを見かけました。さて、あなたならどうしますか。ちょっと考えてみてください。
「1シートごとに印刷範囲を設定しながら印刷するのは大変だな」と思いながらも、大抵の人は「今回たまたま資料作成を担当しただけだから、資料ができれば良いよね」「普段は総務課が印刷してくれるし、まあ良いか」などとスルーしてしまうのではないでしょうか。
しかし、私は同じような出来事に遭遇した際には「今後も誰かが資料作成する度に毎回この労力と時間を使うのか。それは負担だし非効率的だ」と考えました。そして、印刷ページを自動設定できるようにマクロプログラムを作成したのです。いちいち設定しなくても一発で印刷ができるようになり「甲州さん、資料作成がすごく楽になりました!」と声をかけてもらえたのです。
プロジェクト全体から見れば、この改善は非常に小さな業務かもしれません。しかし、1つのプロジェクトが完了するまでの期間を考えると、かなりの回数が行われるでしょう。そして、その1回1回にかかる時間だけ資料作成を担当する人の本来業務に費やせる時間が減っているとしたら……プロジェクトの遅延につながるかもしれません。
大事なのは広い視野でプロジェクト内を見渡し、細かな業務や課題の最適化を繰り返すこと。それが積もり積もって、プロジェクトはよりスムーズに進行できるようになるのです。
ちなみに、この印刷の事例は10年以上前の経験です。もしこれを読んで「印刷なんかしないから自分には関係ない」と思った方は、本質が読み解けていないかもしれません。もう一度読み返してみましょう。
1人で完結できる仕事はない!
プロジェクト全体を考えた改善を
とは言え、多くの人は目の前の自分の仕事しか見えていないものです。あるいは、課題だと感じても自分の仕事ではないゆえに「勝手に手直しして良いのかな」「あの人の仕事なのに私が意見していいのだろうか」などと考えてしまい、改善したくても動けない人もいると思います。
そんなときは、ぜひこのように考えてみてください。
「どんな仕事でも1人だけで完結できるものはない。より働きやすい環境を整えることこそがPMOの役割なんだ」
資料作成1つとっても、それをチェックする人がいたり、それを使って別の仕事をする人がいたりもしますよね。1つの業務の前後には色々な人が関わって仕事が成り立っています。ですから「自分の仕事だけやれば終わり」「他人の仕事は関係ない」なんてことはあり得ないのです。
そうした意識を持つと、仕事を全体像で捉えられるようになっていきます。すると「あ、このプロセスはもっと楽にできそう」「わざわざ手間のかかる作業を何度もしている人がいるな」といった気づきを得られるはずです。
さらに言えば、数カ月〜数年も同じ職種や仕事に携わっているのなら、他の人、他の部署がどのような仕事をして、それがプロジェクトにどのように関わってくるのかは自然と分かってくるはず。基本的な業務は息をするようにできるのですから、少し余裕があると思います。その「余裕」をぜひ次のステップアップとしてチームや部署、プロジェクト全体をより良くするための、プラスアルファの改善を考えてみてください。
もちろん、それを行なったからといってボーナスが出るわけではありませんが、仕事がしやすくなれば周りの人はきっとあなたに感謝するでしょう。あなたに対してポジティブな記憶が残り「またあの人と仕事がしたい」と思ってくれる人もいるでしょう。
一方で、業務や課題の改善案を出すあなたに対して反論してくる人もいると思います。「自分の評価を上げたいから、そんな提案するのだろう」と変にやっかんでくる人もいるでしょう。
しかし、気にすることはありません。あなたは自分なりに考えて出した答えに自信を持ち、正しい改善を繰り返していくのみです。それを見て評価してくれる人は必ずいますし、正しい改善を続けていくと不思議と段々そういう人やお客さまばかり自分の周りに集まってくるようになります。
そうなれば、ますます良い仕事ができる環境に整っていくはず。多少批判されてもめげずにしっかりとやり切ることが大切です。
「最適化」のもう1つの側面
しかしながら、矛盾するようですが「最適化」は必ずしも「プロジェクトにとって正しいこと」とは限りません。「最適だ」と感じるのは「その人の価値観に合致しただけ」ということもあるからです。
私がそう考えるようになったキッカケが、ある会社の経理部の方とのやりとりでした。会社の通帳を記帳しに毎日外へ出かけるその人を見て、私は「ネットバンキングなら外出せずに済みますよ」と伝えると、彼女は「ありがとうございます。でも、気分転換になるので記帳しに行きたいんです」と答えたのです。
私はハッとしました。自分にとって毎日外出するのは無駄な時間ですし、その分仕事が進まなくなって非効率的だと感じます。しかし、人によってはその時間に価値を感じている場合もある。最適化は必ずしも効率化ではないし、必ずしも一般的に正しいことをするというわけではないのだと、実感した出来事でした。
プロジェクトにいるさまざまな価値観を持つメンバーたちに寄り添い、今の状況やメンバー構成ならどのような仕組みを作るのがベストなのか。自分が「最適化」と思うことが人によってはそう思わないこともある。そのときどうすべきなのか。個別最適を考えつつ同時に全体最適化を行うことも、選ばれるPMOに求められる仕事術だと考えています。
おわりに
事例・実践編第2回目の今回は、以下のような内容を解説しました。
- PMOは「自分だけ」でなく「プロジェクト全体」に目を向けよう
- 細かな仕事の最適化の積み重ねがプロジェクトの成功、選ばれるPMOにつながる
- 「最適化≠効率化」さまざまな価値観に寄り添うバランス感も大事
ちなみに、冒頭のビジネスクラスの話に追加すると、ファーストクラスのゾーンではどの座席もブランケットや新聞が折りたたまれて置かれているなど、非常に綺麗に使われているのが印象的でした。
自分はどのような人間になりたいのか。どのような姿勢で仕事をしていきたいのか。今回のテーマは、仕事に対するマインドの部分も重要だと思っています。
本記事を読んでくださっているみなさんには、ぜひ広い視野での全体最適化が実現できる、何十年も仕事が途切れないPMOを目指していただけたらと願っています。