連載 :
  インタビュー

IoTを分散型エッジノードによってゼロプロビジョニングで構築するIoTiumとは

2017年10月17日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
インダストリアルIoTプラットフォームを掲げるIoTiumの概要を取材。4つのNoを実現する分散型エッジノードによるゼロプロビジョニングで実装できるシステムの概要とは。

Internet of Thingsはあらゆるモノをネットに繋いで、そこから発生するデータを活用するソリューションを指す言葉だが、もはやIT業界のベンダーであれば一度は口にしている流行語と言っても良いだろう。例えばドコモのMVNOとして低コストのSIMを使ったモバイルネットワークとアマゾンAWSを活用したソラコムは、いち早くその流れに乗ってKDDIに買収されるところまでたどり着いた。しかし、IoTを用いて既存のビジネスを拡張するためには、単にデバイスをネットに繋いでデータを吸い上げるだけでは欠けているピースがいくつかある。その一つが既存システムとの接続だ。また数千台から数百万台までスケールするインフラストラクチャーを、いかに運用するのかという問題も挙げられる。そのどちらも、データセンターやデスクトップ/ノートPCを対象としてシステム構築を行ってきた既存の情報システム部門には頭が痛い課題だろう。なぜなら、軽量なセンサーが吐き出すネイティブのデータを変換して、データの取り込みと既存システムに接続するという課題と、膨大なセンサーネットワークインフラストラクチャーの運用という課題は、データセンターや自社オフィスだけで閉じていた運用管理の発想をゼロから転換する必要があるからだ。

前置きが長くなったが、今回はサンタクララに本社をおくIoTiumを訪問し、同社の最高技術責任者(CTO、Chief Technology Officer)のDhawal Tyagi氏に話を聞いた。IoTiumは2017年5月にシリーズAのファンディングを終了して、ステルスモードから動き出したばかりというインダストリアルIoTのためのプラットフォームを開発するベンチャー企業だ。投資家としてGE VentureやJuniper Networksなどが名前を連ねており、すでに顧客を獲得しているという。

まずIoTiumの概要を教えてください。

説明を行うTyagi氏

説明を行うTyagi氏

我々はインダストリアルIoTのためのインフラストラクチャーを構築しています。開発しているのは純粋にソフトウェアで、クラウドをフルに活用しています。このオフィスには約15名のセールスやマーケティング担当、それにエグゼクティブがいますが、エンジニアリングは主にインドの拠点で行っています。他に全米各地に各分野を担当するセールスとセールスエンジニアがいます。例えばデトロイトには製造業担当、ニューヨークには金融に詳しい担当者がいます。また中西部には石油やガスの業界を担当するスタッフが働いています。

IoTiumが業界としてフォーカスし製品開発を進めているのは、以下の分野です。

  1. スマートビルディング
  2. インダストリアルオートメーション
  3. 石油とガス
  4. 交通機関
  5. スマートシティ

1はビル施設のIoTですね。2は主に製造業におけるIoTです。3は掘削機械やプラントにおけるIoTですね。4の交通機関はGE Transportationとパートナーシップを結んでいますが、ディーゼル機関車などを対象としたIoTです。そして最後の5は、主に照明設備などを接続することでIoT化を推進するエリアになります。

また私自身は、過去にArubaやCisco、SecureNetなどでワイアレスネットワークやセキュリティの製品に携わってきました。

製品としてのIoTiumについて教えてください。

我々が開発したIoTiumは、以下に示した4つの特徴を備えています。

  1. No CLI
  2. No Truck Rolls
  3. No Username and Password
  4. No change to IT

1つ目は、コマンドライン(Command Line Interface、CLI)を使用しないことを表しています、2つ目については、ちょっと説明が必要ですね、機器を設置する際にトラックにエンジニアをたくさん乗せて作業に向かうというのは、その機器の扱いがとても面倒だということを意味しています。我々はそのような機器を使いません。3つ目は簡単に理解できると思いますが、新しいソフトウェアやハードウェアを管理するためにいちいちユーザーネームとパスワードを要求しないということです。そして最後の4つ目は、既存のシステムやネットワークを変更しないことです。以上の4つのNoを実現しているのがIoTiumです。そしてその他に必ず出てくるのがセキュリティです。これはIoTをシステムとして実装する際には必要になるもので、それを後付けではなく最初から組み込んであるというのも特徴ですね。

IoTiumが考えるインダストリアルIoTの必要要件

IoTiumが考えるインダストリアルIoTの必要要件

強調しますが、IoTiumはインダストリアルIoTを実現するためのプラットフォームです。つまりコンシューマー向けのウェアラブルデバイスや家庭に設置するスマートメーターのようなものではなく、石油やガスの掘削設備やスマートビルディング、交通システムなどをターゲットとして開発を行ってきました。例えば石油のプラントなどは、すでに数十年も使われてきています。それらのレガシーなシステムを変更せずに、すぐに使えることを目指して開発を行ってきましたし、それは成功していると思います。

もう少し詳しくIoTiumのことを説明してください。

こちらのスライドを見てください。

IoTiumのシステム構成例

IoTiumのシステム構成例

IoTiumが開発したソフトウェアは、スライドの左下に表示されているiNodeというx86ベースのエッジノードとクラウド上のオーケストレーターによって構成されます。iNodeは、通常のホワイトボックスサーバーです。その上でLinuxが走り、IoTiumが開発した様々なコンポーネントがコンテナとして稼働しています。主な機能は、ネットワークをセキュアに保護するルーターやファイアウォールなど様々です。IoTデバイスからのデータを受け取り、それを分散されたiNodeに送信します。複数のiNodeが協調して稼働し、最終的に分析やレガシーなシステムに受け渡すことを行います。

設置された複数のiNodeは、クラウド上のオーケストレーターから管理されています。他のシステムにデータを渡す場合も、そのレガシーなシステムの横にiNodeを設置してそこからデータを渡す形になります。この構成により、デバイスからのデータがインターネットの上を生のデータとして送受信されることがなくなり、セキュアな通信が可能になります。ポイントは、このiNodeがお互いにセキュアな通信を行うことと、エッジにあるiNodeが様々なプロトコルの変換を行うことで既存のシステムに変更を加えることなく、デバイスからのデータを活用できるようになることですね。ちなみにWANの下にあるTAN(写真の右下)はIoTiumが考えた略称で、Things Area Networkを指します。

つまりビル管理であれば、センサーネットワークのある場所に置いたiNodeが受け取ったデータを、分析を行うシステムの横にあるiNodeに送り、分析のシステムがそれ以降を受け持つ、ということですか?

そうです。ビル管理であれば、各階にこのiNodeを置いてデータを受け取る役割を行うことになりますね。iNode自体は分散されたエージェントですが、それを集中管理するのはクラウド上のオーケストレーターです。先ほど、4つのNoを説明しましたが、新しく別のビルにシステムを拡大するためにエンジニアを派遣して設置作業をするというのは馬鹿げています。このiNodeを持っていって設置、電源を入れてネットワークケーブルを挿せば、すぐにオーケストレーターがディスカバリーを行って、使い始めることができます。

IoTデバイス側はタイプによって様々なプロトコルがあると思いますが、それらはどうやって対応するのですか?

それを吸収するのもiNodeの役割です。これから未来に渡って、常に同じプロトコルが使われるわけではありません。ですから、新しいプロトコルが出てきたら、オーケストレーターによってiNodeに新しいソフトウェアが遠隔からデプロイされます。またiNodeはインターネットを利用することもできますが、iNode間はセキュアなネットワークを構築しますので、データがそのままインターネット上を流れるわけではありません。

つまりIoTデバイスとのネットワーク、それにインターネットを経由したトンネルのようなネットワークをオーバーレイ的に構築する分散型のネットワークというわけですね。そうするとデバイス側にあるiNodeが単一障害点になる可能性があります。それについては?

確かにその通りで、iNodeが単一障害点になる構成もありますが、その場合は複数のiNodeを設置して対応します。現在のバージョンでは切り替えはオーケストレーターからの指示になりますが、将来的には自動的に切り替わるHigh Availability(HA)構成も可能になる予定です。また想像できるように、iNodeは仮想マシンとして稼働させることもできますので、データセンター側にはハードウェアを追加する必要もありません。また各種の機能は全てコンテナで実装されていますので、スケーラビリティも容易に確保できます。

分散されたiNodeがオーバーレイされたネットワーク上で稼働し、オーケストレーターによって運用されることで既存のネットワークやシステムに変更を加えなくても良いというのはわかりました。ところでIoTiumに対する競合というのは何になるのですか?

IoTiumの競合は、DIYによるIoTシステムですね。つまりIoTiumのようなプラットフォームを使わずにシステムインテグレーターなどが自家製のソフトウェアなどを使って組み上げたIoTシステムです。このようなシステムは構成が変わらない、台数が増えない、拡張しないというようなケースであれば問題はないのかもしれません。しかし、数百台と言うレベルから数千台、数万台とデバイスが増えても、既存システムを使いたいというようなケースには使い物になりません。それは、先ほど私が説明した「4つのNo」を全く達成できないからです。あの4つのNo、つまりNo CLI、No Truck Rolls、No Username and Password、No change to ITを達成できなければ、現実的なIoTシステムとしては使えるものにならないと考えています。

プラットフォームということは、様々なソフトウェアやパートナーがそこにオンボードすることでエコシステムが拡がると思います。クラウドとしてはMicrosoft Azure、Bluemixなどが入っていますが、AWS、GCPがありません。これについては?

IoTiumプラットフォームのエコシステム

IoTiumプラットフォームのエコシステム

AWSもGCPもまだ公式に認定されていないだけで、実はすでに実績があります。ですから、あとは時間の問題だけですね。

ビジネス的な質問になりますが、価格の付け方は?

価格はiNodeの数とその上で実装される機能で決まります。ですから、「一般的な価格」を提示するのはちょっと難しいですね。

最後に日本市場についての今後の計画を。

日本市場は、中国と並んで重要視している市場です。現在は小さな拠点としてこれからどのように参入を行うのか調査の段階です。まだコンサルタントとして契約しているスタッフが2名いるだけですが、今後は強化を行う予定です。

IoTiumのオーケストレーターの画面

IoTiumのオーケストレーターの画面

ステルスモードから姿を現したばかりのベンチャーであるが、「これができる」と言わずに「この4つのNoを実現しないとIoTは長期的には成功しない」というモットーを掲げるIoTium、分散型エージェントとクラウド上のオーケストレーター、コンテナベースの実装というモダンな構成ながら、現場の問題に目を向けて着実に問題を解決しようとする姿勢が印象的であった。日本での展開にも注目したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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