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AIをビジネスに活用する際のポイント(AIに何を期待するか)

2018年2月27日(火)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

前回まで2回にわたって、「データ × アルゴリズム = 目的」という式の左辺、データとアルゴリズムにスポットを当てて解説しました。今回は、右辺の目的について掘り下げてみたいと思います。

非構造化(Unstructured data)データを処理する目的

世の中には構造化データと非構造化データがあります。リレーショナルデータベース(RDB)やExcel、CSVファイルのように決まった枠の中に文字や数値が格納されているものが構造化データで、枠(構造)の定義を持たないものが非構造化データです。さらに非構造化データにはJSONやXML、HTMLのように規則性を持つものと、文章(テキスト)や音声、言語、画像、動画のように規則性のないものがあります(図1)。

図1:構造化データと非構造化データ

もともと自然界や人のコミュニケーションで生ずる情報は非構造化データです。それをなんとかコンピュータで処理し易いように加工してRDBやExcelに格納したものが構造化データなのです。そして、インターネット時代になって非構造化データにも規則性を持たせてコンピュータ処理しようという発想でHTMLやXMLが登場しました。これにより、一気にコンピュータの世界が華やかになり、クラウドに収集したビッグデータを利用できるようになりました。

残った部分が、非構造化データの規則性なしです。文章や音声、画像などのデータを認識するのはコンピュータの苦手領域だったので、自動化されないままになっていました。そこに登場したのが人工知能です。人間が自然界の情報を認識して判断・処理するように、人工知能を使うことで非構造データを取り扱えるようになってきたのです。

コンピュータは、次の2点で人間よりも優れています。

  • コンピュータは高速だが、人間は遅い
  • コンピュータは正確だが、人間はミスをする

AIはもちろんコンピュータですが、実態はコンピュータよりは人間に近いと考えた方が当たっています。上記2点においても、AIはコンピュータよりも人間に近いと考えられるので、AIはコンピュータより遅く、人間のようにミスをするということが言えます。つまり、コンピュータでロジック処理できるならAIの出番はないということになります。

構造化データを処理するなら、AIよりもコンピュータの方が向いている

AIをビジネスに活用する際に、この認識は重要なポイントとなります。AIで処理しようと考えてみたが、結局、ロジックの方が適していると結論付けられるケースの多くは構造化データです。広告宣伝のために必要以上にAIを謳っているケースをよく見かけますが、実態はロジック処理だけでAI的要素を使っていないものも相当あります。

例えば、入出金明細データから自動仕訳を行うようなケースは構造化データの処理です。仕訳パターンの学習効果があるとか、起票漏れを防止するとか”頭の良さ”を謳ったとしても、そんなものはAIよりもロジックで処理した方がずっと速くて正確です。

AIは判断結果に信頼度が付きます。逆に言えば、常に100%の信頼度が得られるとは考えずに利用すべきものです。自動仕訳のような間違っては困る処理に使うのは(現時点では)不適切と言えます。逆にCT画像を見て癌の可能性を発見してくれるように、人間を補佐(もしくは人間が補佐)してくれるものと考えて活用を考える方が適しています。「人間 vs AI」ではなく「人間 with AI」なのです。

人工知能に何を期待するか

人工知能は、従来イメージの「計算処理の早いコンピュータ」というよりも、「人間を模倣するもの」と考えた方が良いことはわかりました。では、その前提で人工知能を見た場合に、どのようなことを期待すべきでしょうか。

エンタープライズ(企業)におけるAIのことをDigital Laborと呼ぶことがあります。Digital Laborにどのような役割を期待するかを私なりに5つに整理してみました(図2)。これらのどれか1つということではなく、複数の役割を果たすケースも多いのですが、AIの強みを理解して何を求めるかイメージを持っておくと期待と成果のミスマッチを防ぐことができます。

図2:Digital Laborに期待すること

(1)単純作業を黙々とミスなくやってくれる働き者

AIは人間だと考えたとしても、もともとはやはりコンピュータです。文句も言わず黙々と単純作業をこなすような役割は大得意です。人間の入力作業を記憶してひたすらやり続けるRPA(Robotic Process Automation)や高所にある電線の異常検知のために撮影を続ける自動運転ドローン、部屋のレイアウトを覚えて黙々とお掃除を行うロボット掃除機、人間のスケジュール管理やチケットの手配など個人秘書のように働いてくれるパーソナルアシスタントなど、ロボット系のAIは働き者だと言えます。

(2)24時間戦える現代の企業戦士

若い人は知らないかもしれませんが、その昔バブル真っ最中の頃、栄養ドリンクのCMで「24時間戦えますか」という言葉が大流行しました。今にして思えばブラックな香りが漂うCMかもしれませんが、当時は日本が成長を続けていて徹夜も当たり前の時代で、そんな雰囲気に合っていたように思います。

あれから30年、働き方改革がキーワードとなっている現代社会において、人間の代わりに24時間戦ってくれるのがAIです。膨大なインターネットの中をひたすらクロールして、欲しい情報を見つけて取り出してくれるサーチサービス、膨大なデータを照らし合わせて最適な組み合わせを見つけてくれるマッチングサービス、企業内のドキュメントをテキスト解析してナレッジを有効活用できるようにするナレッジサービスなど、大量データを休みなく処理し続ける系のAIは24時間戦える現代の企業戦士だと言えます。

(3)熟練者の技術を習得して継承する熟練社員

少子高齢化社会を迎えて熟練者の大量退職による知の継承をどうするかが社会問題となっています。その1つの解決方法が熟練者の技術をAIに継承させるというものです。CTスキャナの画像から癌を検出する、製造検査で自動的に不具合のある製品を弾き飛ばす、衛星画像やドローンの映像から植物の成長状況を把握して対処が必要な箇所を教えてくれるなど、熟練者でなければできなかったような作業を教え込んでやってもらうのです。

(4)大量データを即時に読んで判断する聖徳太子

これまた今となっては若い人は知らない逸話でしょうか。聖徳太子は一度に10人もの人が発した言葉を理解して的確な答えを返したと言われています(私が子供の頃は学校で習いました)。10人でも逸話になるのでわかるように、人間は同時に大量の情報を処理するのは苦手です。

一方、AIはコンピュータなのでこういう処理は得意です。SNSやカスタマーサービスで書き込まれた情報をウォッチして人間の対応が必要な内容を検出する、いろいろな人の嗜好傾向をもとにレコメンドする、競合の価格をリアルタイムに検知して自動的に自社の売価を変動させる、通常と違う使われ方を見つけ出してクレジットカードの不正使用を検知するなど、目や耳を張り巡らせるような処理を簡単に実現してくれます。

(5)人間ができなかったことをやってくれる天才社員

パーソナルアシスタントや自動運転車などは人間のような能力を持つことを(当面の)目標としていますが、AlphaGoが世界トップクラスのプロ囲碁棋士を圧倒したように、既に人間をはるかに超えている事例が続々と誕生しつつあります。

例えば株取引では既にAIが人間よりも優れた実績を出しており、ウォール街のトレーダーやファンドマネージャーの多くがAIに取って代わられています。また、過去の売上データに天候やイベントなどの情報を加えた需要予測により、コンビニのおにぎりの廃棄を人間(店長)よりも減らしたという事例も発表されています。

パーソナルアシスタントや機械翻訳など目に見えるわかりやすいAIを見て、AIはまだまだだと思っている人も多いのですが、実はゲームや分析、予測などの分野では既に人間をはるかに超えつつあるのです。

人工知能の得意なことと活用分野

人工知能の主な活用分野と得意不得意の関連を図3に示します。上に行くほど難易度が高く(不得意)なり、右に行くほどAI(Digital Labor)の役割が高度(給料の高い社員)になっています。

RPA、Search(サーチ)、Knowledge(ナレッジ)、Diagnostics(異常検知・予測)などは比較的難易度が低いので、既にいろいろな現場で実践され成果を出しています。

またSelf-Flying Drone(自動運転ドローン)、Matching(マッチング)、Recommendation(レコメンド)、Data Science(データ分析)、Prediction(予測)などもかなり実用化が進んでおり、これから一気に花開きそうな分野と言えます。

そして、AI Agent(パーソナルアシスタント)、Robotics(ロボット)、Autonomous(自動運転車)、Classify(検索・分類)、Optimization(最適化)などの分野におけるAIの活用は、上記に比べると少し難しいのですが、今まさに実用化されたものが出てきている状態で、すぐに身近で使われることになりそうです。

図3:AIの得意不得意と活用分野

ビジネスにAIを活用する分野と脅かされる職業

今後10~20年程度で米国の総雇用者の47%の仕事が自動化される」。Googleの猫認識の翌年の2013年9月にオックスフォード大学のOsborne准教授が発表した”The future of employment”というこの論文は世界中でセンセーショナルを巻き起こしました。日本でも下記のようなさまざまなマスコミで取り上げられ大きな話題になりました。

こうした記事では、「AIに取って代わられる仕事を選ばない」「あなたの仕事は大丈夫か」という論調が多いのですが、”AIをビジネスに活用する”というポジティブな視点で捉えると、どの分野がAI活用において有望かが見えてきます。

ただし、ここに掲げられた職業を冷静に見ると、少し単純労働者(働き者、企業戦士)に偏っているように思います。また、その代替する技術もオートメーションの進化、RPA、ロボティクス、自動運転車のような従来イメージのものが中心です。

2013年の時点でこうした予想を提起したのは本当に素晴らしいことなのですが、さすがにその後の人工知能の急速な進化により、もっと高度な役割(熟練社員、聖徳太子、天才社員)を担うことまでは思い描けなかったかも知れません。

現時点の人工知能の実力と活用状況で見直せば、医療分野における診断、製造業における異常検知・予測、金融業における株取引、需要予測やサプライチェーン、法曹界における関連情報や判例の調査・整理など、医師や熟練検査員、株のトレーダー、弁護士や税理士、とうような高給で高度な職業もここにリストアップされるでしょう。実際、上記の日経ビジネスの特集でも、”単純労働以外も消滅の危機”として、保険の査定担当者やクレジットアナリスト、会計士、監査人、臨床検査技師などの職業を掲げています。

今回は、人工知能の得意なこと不得意なことを理解した上で、人工知能にどのような役割を期待するかを考えてみました。ビジネスにAIを活用するアイデアは拡大し続けており、AI技術の進化とともに世界規模で次々と新しい発想と試みがなされています。そして、新しいAI活用が実用化できそうになったとたんに、その分野で働いていた人は今までとはちょっと違った役割で働く必要があります。AIでやれる仕事にしがみつく代わりに、AIを使いこなすというマインドチェンジが大切だと思います。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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