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米国でAIを活用している産業【中編】

2018年4月10日(火)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

前回に引き続き、今回も「どのような産業でAIが活用されているか」を米国の事例で見ていきます。前回は慈善事業、農業、法曹界、ガス・石油業界と、いかにも米国らしい産業を紹介しましたが、今回は日本にも共通する業界として医療と製造業を取り上げます。

米国の各産業におけるAIの活用状況

医療・ヘルスケア(Medical/Healthcare)

医療・ヘルスケアは、現在、最もAIの活用が進んでいる業界の1つで、その用途も多岐にわたっています。Dianostics(異常診断・予測)の医療分野適用としてCTやレントゲン、心臓MRI、超音波エコーなどの画像による診断支援が次々と実用化されています。また、慢性病患者や健康管理、リハビリためにリモート医療を使った予防・防止なども発達しています。

また、ビッグデータを分析して新しい発見をする試みも数多く見られており、薬の成分データを分析して新薬を開発する創薬AIやアンチエージング研究のほか、細胞やゲノム(DNAのすべての遺伝子情報)を研究して遺伝的病気のリスクを予見する遺伝子分析などは、今後、大きな成果が期待されています。

【医療・ヘルスケアの事例】
Arterys:心臓MRIの画像診断サービス
膨大な心臓MRI(磁気共鳴画像)をクラウド上に蓄積し、AIを使って診断を支援するシステム"Cardio AI”、肺や肝臓画像を診断する”LUNG AI”と”LIVER AI”など、イメージ解析を使って医療診断をアシストするAIサービスをクラウドで提供しています。

Sentrian:AIを活用した遠隔医療
主に慢性疾患者の医療ケアを行うための遠隔医療サービスを行っています。遠隔バイオセンサーを使って慢性疾患者の心拍数、血圧、酸素レベル、活動などの情報をモニタリングし、悪化する可能性の高い患者を発見して適切なケアを行うことにより、発症してから入院という事態を未然に防ぐという予防医学に取り組んでいます。

モニタリング情報をビッグデータ化して機械学習することで、AIは「どのようなパターンになったら悪化する可能性が高いか」を予測して患者や家族にケアアドバイスを行うという仕組みです。

Butterfly Network:超音波画像診断(エコー)をiPhoneで見るデバイス
超音波画像診断(エコー)をiPhoneで見られる装置"iQ"を開発しています。これまでのエコーは高価でそれなりの病院でないと導入できませんでしたが、これが普及すれば総合病院だけでなく、かかりつけのお医者さんや個人でもエコー診断が容易にできるようになりそうです。

このデバイスで取得した画像データをクラウドに集めて、そのビッグデータをベースにAIを活用した臨床診断を行っていく方針のようです。確かにスマホを使えば一気にデータが集まるので、数年後にはすごいことになっているような期待が持てますね。

Atomwise:AIを活用した新薬開発
米国では新薬開発にAIを活用する取り組みが活発化しています。その1社が創薬ベンチャーのアトムワイズ社で、エボラ出血熱に効く薬の候補を発見したり、遺伝子組換え種子や農薬で有名なモンサント社と共同で農薬開発を行ったりしています。

従来の新薬開発研究が試行錯誤主体であったのに対し、AI創薬はCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を使って様々な分子がどのように相互作用するのかを自己学習して、どの分子が病気や害虫防除に効果を持つ可能性があるかを発見します。

「日本でもこうした創薬AIに取り組むもう」ということで、2016年12月に製薬会社やIT企業、大学などを中心とした産官学連携の創薬AI連合「ライフ・インテリジェントコンソーシアム(LINC)」が発足しています。

Human Longevity:ゲノミクス研究
アンジェリーナ・ジョリーさんが癌を予防するために、健康な卵巣・卵管および両乳房を切除したというニュースには驚いた人が多かったと思います。癌のうち5〜10%は遺伝性であることがわかってきており、ジョリーさんもその遺伝子を受け継いでいることから決断したとのことですが、自分だったらとてもできない決断だと思いました。

このように、遺伝による病気発症を未然に防ごうと、現在、世界中でゲノム研究が盛んに行われています。ヒューマンロンジェビティ社はそのうちの1社で、ゲノムに関する表現型データや臨床データをamazonのAWSに蓄積し、AIを使った遺伝子分析を行っています。

こうした取り組みは予防医学です。医者に診断されてから治療を始めるモデルではなく、癌やその他の疾病リスクを予測して未然に防ぎ、人間の寿命を伸ばすことを目標としています。

製造業(Manufacture)

製造業へのAI適用は日本でも多くの企業で取り組まれています。米国でもさまざまな事例があるのですが、その中からベンダ側を中心にいくつか紹介します。

今回は主に製品の異常検知や設備の予知保全を中心とした品質検査系の事例と、需要予測やサプライチェーンマネジメント最適化などの事例を取り上げました。

【製造業の事例(品質検査)】
Eigen:製造プロセスの品質検査AI
製造業のプロセスをモニタリングし、不良品質を発見するDianostics(異常診断・予測)ソリューションを行っているカナダのスタートアップ企業です。自動車産業のプラスチック溶接プロセス、自動車部品、板金加工、フロントガラス接着剤塗布など、さまざまな工程で画像をもとに不適合品質を検出したり、製造マシンの異常を検知したりする仕組みを提供しています。そして蓄積されたデータをもとにプロセス改善のための分析を行うアプリケーションを提供し、異常検知から予測・予知保全に適用範囲を広げてゆく方針のようです。

Boulder Imaging:建築部材などの品質検査AI
スペースシャトルの打ち上げ監視にも使われた"Quazar"という画像処理システムを持つ企業です。フローリングやタイルの生産ラインから銀行カード、紙幣、風力発電まで幅広い分野で画像処理を適用していますが、その技術と実績を活かして製造業の品質検査にも取り組んでいます。

IVISYS:カメラ画像を使った品質管理ソリューション
カメラ画像で製品の品質を検査する品質管理ソリューションを提供しているスウェーデンの企業です。欠陥検出、サイズの測定、製品検証などの品質検査の完全自動化に取り組んでおり、カメラと画像処理ソフトウェアだけでなく品質検査を行う装置(コンベアやロボットなど)も一体の検査ステーションとして提供しています。

SightMachine:デジタル製造プラットフォーム
部分的な画像診断ではなく、工場全体の生産性向上、品質向上を図るデジタル製造においてもAIが使われ始めています。

サイトマシン社はそうしたトータルソリューションを展開する1社で、次世代の製造ソリューションシステムを推進するアメリカのスタートアップ企業です。企業全体から工場および機械、部品、ライン、プラントの可視化を図り、それらの状態をリアルタイムに把握します。

そして、AIを活用した分析プラットフォームにより生産性や品質の向上、サプライチェーンの最適化を促進する分析を行えるデジタル製造プラットフォームを作り上げています。

GE Digital:IoTプラットフォーム
IoTプラットフォーム"Predix"をさまざまな製造業に提供しています。Predixは、もともとはGE社用に開発されたもので、エッジコンピューティングとクラウドを連携した産業用IoT(IIoT)アプリケーションを構築するためのサービスを各種用意しています。

エッジソフトウェア、データ管理、分析、セキュリティ、位置情報、モバイル、アプリケーション管理、オペレーションなどIIOT実現に必要なサービスをAPIで用意し、機械やテスト機器から入手するデータストリームを分析して監視、異常診断、故障予測、および制御を行うためにAIが活用されています。

<<メモ>>IIOT(産業用IoT)

IoTがInternet of Thingsの略で、センサーや機器などの「モノ」に通信機能を付けてインターネットに接続することを意味するのはよく知られています。最近、このIoTの頭にIndustrial (産業)を付けた「IIOT」という言葉もよく聞くようになりました。

IoTがウェアラブルや家電などコンシューマなども含む「モノ」全般に使われるのに対し、こちらは主に製造業や運輸、医療、金融などの産業用IoTです。ECをB to CとB to Bにジャンル分けしたように、IoTもコンシューマ向けと産業用に分けたと思えば良いでしょう。

産業機器に通信機能を持たせること自体は昔から行われてきました。IIOTが注目されるのは、従来の独自プロトコルによるクローズドな通信ではなく、IP(Internet Protcol)という共通プロトコルにより、インターネットに相互接続して情報交換できるからです。インターネット上のさまざまな情報を利用することで機器の活用範囲も大きく広がり、機器ベンダは機器単体の販売だけでなく、サービスビジネスを広げるチャンスとなっています。

<<メモ>>エッジコンピューティング

「エッジコンピューティング」という言葉もよく聞かれるようになりました。これはクラウドコンピューティングに相対して使われるようになった言葉で、ユーザー(現場)の近くにエッジサーバーをおいてアプリケーション処理を行わせるシステム構成を意味します。

エッジコンピューティングが広まってきている理由は、人の入力ではなくIoTデバイスからデータが集まるためデータ量が膨大になり、それらをすべてクラウドで処理するには次のような問題に直面してきたからです。

①無駄な通信が増え、ネットワークコストやクラウド利用料が膨れ上がる
②インターネットを介して処理するため、処理速度が遅い
③セキュリティ上、インターネットに上げたくない情報がある
④インターネット接続が不安定になると処理に支障をきたす

そこで、現場に近いネットワーク上にエッジコンピュータを設置し、ローカルで処理すべきことはローカルで高速に処理して、クラウドには必要な情報しか流さない仕組みが採用されているのです。

例えば、製品の外観検査を画像解析AIで行う異常検査(Anomaly Detection)を思い浮かべてください。画像センサーから送られてくる膨大な画像データを都度クラウドコンピュータまで流して正常・異常を判定するのは、ネットワークコストの面でもリアルタイム処理の面でも問題です。

また、万一インターネットの接続が不安定になったときに、診断処理がストップすると製造工程にも支障をきたします。そのため、異常検査AIはエッジコンピュータ側に持ち、異常と判定したデータだけ非同期にクラウドに格納するなどの役割分担を行うのです。

通常、クラウドは機械学習と分析、エッジは学習されたモデル(分類器)で判定処理を行うというように、2つをうまく組み合わせて役割分担をします。

エッジコンピューティング

【製造業の事例(需要予測など)】
Arimo:分析・予測AI
過去のデータを分析して未来を予測する分析・予測AIは、これからの産業界で大きく期待されている分野です。その1つが需要予測で、日本でもファミリーマートが天候や曜日、イベントなどをもとに翌日のおにぎりがどれだけ売れるかを予測して廃棄を少なくする取り組みを行っています。

アリモ社は、こうした「需要予測」だけでなく、これまでの取引データを学習して不審な取引を見つけ出す「不正取引検知」、装置の稼働状態をモニタリングして故障する前にメンテナンスを促す「予知保全」、「販売予測」「顧客セグメンテーション」など企業向けデータ分析AI全般を支援している会社です。

日本でもデータアナリストを育成して、こうした分析力をビジネスにする企業が増えてきています。今後のこの分野の成長の期待を示すかのように、2017年10月にパナソニック株式会社がアリモ社を買収したというニュースが飛び込んできました。

deepvu:サプライチェーン最適化AI
製造業などで最も期待されている予測AIがB to Bの需要予測に基づくサプライチェーン最適化です。おにぎりやチケットの売れ行きを予測するB to Cの需要予測に比べて難易度は高いですが、これを必要とする市場が大きいため取り組んでいる企業も数多くあります。

ディーピユ社は、こうしたAIサプライチェーンを支援しているスタートアップ企業で、次のようなサービスを提供しています。

vuPredict:BOM(部品表)の最適化およびサプライヤーの価格を予測した調達AI
vuGraph:生産計画の最適化およびサプライチェーンリスク削減のための支援AI
vuForecast:生産および在庫レベルの最適化のための需要予測改善AI

kinaxis:サプライチェーン最適化AI
サプライチェーン最適化に取り組んでいる企業をもう1社見てみましょう。キナクシス社はディーピユ社と同じカルフォルニアの企業ですが、こちらは1984年創業と社歴が長く、協調型グローバルPSI(生産、販売、調達)調整ソリューション"Kinaxis RapidResponse"というサプライチェーンマネジメントシステムをワールドワイドに提供しています。

同社もまた、サプライチェーンプランニングにAI技術を適用することに取り組んでいます。サプライチェーン分野へのAI応用は難しい分野なので、まだまだ発展途上ですが、数年後には目に見えるような成果が出て来るものと思われます。

<<メモ>>AIビジネスにおけるスタートアップとビッグカンパニー

AIというとGoogleやMicrosoft、IBMのようなビッグカンパニーが強いイメージがありますが、ことアプリケーション分野では日米ともにスタートアップ企業がいち早く取り組んでいます。といってもその差は1、2年程度でしかありません。ようやく本気を出した大手が総合力を見せつけるのか、資金調達しながら突っ走るスタートアップがAIという新しい市場で輝くスターになるのか、これからが本当の勝負です。

aeratechnology:企業内サプライチェーン最適化AI
もう1社、カルフォルニアでサプライチェーン最適化に取り組んでいる企業を紹介しましょう。アエラテクノロジー社は"Aera"というシステムでAIを取り入れた企業内サプライチェーンマネジメント最適化に取り組んでいます。Aeraの仕組みは、次のようなものです。

①企業内外の各システムからデータを暗号化して収集、クラウド上の統合データベースを作る
②集めたデータは正規化、関連付け、カテゴライズして一元管理する
③このデータベースの「自然言語駆動型サーチ」「リアルタイム分析」「監視・アラート」「予測」「意思決定支援」にAIを活用している
④AIの学習にはデフォルトでスキルライブラリを提供するが、ユーザーがSkill Builderを使って独自のAIスキルを構築できる

上記の仕組みにより、下記のようなソリューションを提供しています。

Aera CDM:需要および販売予測を自動配信し、収益計画を調整する
Aera CMP:製造プロセスのリアルタイムデジタルマップを提供し、製造プロセスの各段階での製品リードタイムとステータスをトラッキングするSupply chain 360:需要、供給、生産、在庫状況をリアルタイムで分析・可視化する

Tradeshift:電子商取引ポータルのエージェントAI
2005年にデンマークで創業した企業で、2010年に"Tradeshift"という電子商取引ポータルサービスをスタートし、2011年に本社をカリフォルニアのシリコンバレーに移しています。

ビジネス用途のサービスとしては珍しいフリーミアムモデルを採用したこともあって瞬く間にユーザーを増やし、今では世界最大級の企業間電子商取引プラットフォームに成長しました。2014年には日本法人も設立されています。企業間の取引で使う「見積書」「注文書」「請求書」などを電子データでやり取りする仕組みを提供し、大口取引先だけでなく小口の取引も簡単にEDI化できるサービスです。

入力画面を使ってこれらのデータを作成することもできますが、Excelの請求データをTradeshiftにアップしたり、受け取った請求データをExcelに出力したりできる「アプリ」がいろいろと用意されているので、それらを利用することもできます。Tradeshift社以外でもアプリを作って共有する仕組みを提供しており、日本でも弥生会計連携アプリや勘定奉行連携アプリなども用意されています。

実は、Tradeshiftは企業間コラボレーションをコンセプトに掲げており、見積書や注文書、請求書のような実務データだけでなく、もっと幅広い情報共有に利用できる仕組みを提供しています。例えば、Dropboxと連携して画像データを共有したり、Slackと連携してコミュニケーションを図ったりもできるのです。

2017年3月にTradeshiftのアシスタントAIとして"Tradeshift Ada"のリリースが発表されました。位置づけとしてはバーチャルアシスタントで、Tradeshiftの利用者が質問したり要求したりすることを理解して必要な情報を提供してくれます。ホームページの動画デモを見ると、Bobさんが「先月いくら発注した」と尋ねてAdaが即答したり、「発注するのでカードを使いたい」と言うと、Adaが使用目的や利用金額を確かめた上で上司のPeteさんに承認を取り付けてくれる「気の利いたAI秘書」を演じてくれているのが確認できます(当然ながら英語のやり取りですが……)。

新しい技術が普及する際は、まず、ベンダ側がソリューションを生み出して、その後いろいろなユーザー企業(アーリーアダプター)で導入事例が公表され、その中から真の成功事例が出てきて、その裾野が一般企業に広がっていきます。

そのプロセスを考えた場合、AI先進国と言われている米国もまだ初期の段階のように見受けられます。日本もアプリケーション分野ではユーザー企業を中心に頑張っていますので、十分追いつけそうです。頑張っていきましょう!

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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