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米国でAIを活用している産業【前編】

2018年3月15日(木)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

はじめに

前回は、AIをビジネスに活用するために押さえておきたいポイントを解説しました。今回は、具体的にどのような産業でAIが活用されているかを米国の事例で見ていきたいと思います。

AIが積極的に活用されつつある業界

ビジネスにAIを活用することを考える場合、「活用技術」のほかに「産業」という観点でも捉えておく必要があります。第9回の冒頭で示した式が「データ × アルゴリズム = 目的」なら、それに追加して「活用技術 × 産業 = 目的」ということになります。つまり同じAIの技術でも産業によって活用のしかたが多種多様なのです。

例えば、AIの得意分野として画像認識を使った異常検知・予知保全という技術があります。これを医療分野に使えば癌などの病気の発見になりますが、電力会社なら電線の異常検知、公共事業ならトンネルや橋、道路の異常、農業なら生育不良や不適合作物の検査、製造業なら製品の不良品チェックなどに応用されています。

また、大量データの中から異質なデータを見つけ出すのもAIの得意分野です。こちらは、金融業ならクレジットカード不正利用の検知、一般企業なら経費の不正申請、不正取引の検知、小売業なら顧客のカテゴライズ化などに使われることになります。

図1:産業によって活用のしかたが多種多様

日本でもさまざまな人工知能の活用事例が発表されていますが、やはりここはAI先進国である米国の活用状況をウォッチしてみましょう。いろいろ発表されているユーザー事例やベンダのソリューションを私なりに調べて、図2に整理してみました。

図2:産業別に見たAI活用状況(米国)

円の大きさは活用度合を私の主観で表したもので、大きいものほど活用が進んでいると思ってください。また、右側に置いたソリューションは、業界に限らず共通的に使われている活用方法です。

では、各産業における人工知能活用状況について、事例を交えて紹介していきましょう。

慈善事業(For Good)

慈善事業とはいかにも米国的ですね。企業が献金してさまざまな慈善事業を行う文化がある米国では、野生動物保護のための調査、貧困層支援、児童虐待防止、ヒューマンネットワークの状況把握など、さまざまな慈善事業を行うグループがあり、その活動にAIが活用されています。

農業(Agriculture)

大規模農家が多い米国では、Smart AgricultuerというネーミングでAIを使った農業支援が活発です。例えば、車体の先端にカメラを付けて、雑草のみピンポイントに除草剤を噴霧するトラクターがあります。これがなんと、米国のレタス生産畑の10%に導入されているといいます。また、画像認識を使った異常検知も利用が広がっています。衛星画像やセスナ、ドローンを使って撮影した映像を認識して農産物の生育状況を把握し、手入れが必要な場所をビジュアルに知らせてくれます。このほか、土壌分析や水質分析、スマホやPCを使った農業管理、農業ロボットなど、実に多様な用途でAIが使われています。

零細企業の多い日本の農業では、米国のようなスケールの大きい使い方はなかなかペイしないだろうと感じています。ただし、日本でも農家(小池さん)のきゅうり自動選別の事例や、農産物そのものではないですがキューピー社のダイスポテトの不良品検知などは有名です。この2つは2017年9月にサンフランシスコで行われたAI SUMMITでも紹介されていました。

【農業の事例】
Blue River Technology:スマート農業機器
コットン(綿)やレタス農家向けに画像センサーを付けたトラクター"See&Spray"を開発しています。綿やレタスは避けて雑草のみ標的にして除草剤散布を行うことにより、除草剤使用を90%削減して土壌汚染を防止します。また、画像センサーで生育の悪いレタスを見分けて間引くLettuceBotや無人ドローンにカメラを積んでトウモロコシの生育状況を表現型解析するなどAIを積極的に活用しています。

Climate:農場をデジタル管理して生産性を高める
農業にITを活用するスマート・アグリカルチャー(デジタル農業)のシステムを提供しています。農地データを直接取得できるセンサー"FieldView Drive"で気候や農場内のデータを集めて農場データマップを作成し、視覚化します。天候情報、窒素量、畑の健康状態などを監視して収量目標に合わせた作付けプランを提供したりするほか、AIを活用してトウモロコシの病害診断を行ったり、それぞれの農地で何が成功して何が失敗したかを科学的に分析することで収益性を高めてゆく収益分析を行います。

Mavrx :航空映像をもとに植物の生育マップを作成
飛行機からの空中映像を高解像度画像処理して衛生画像と組み合わせた生育マップを作成し、生育不良箇所を特定して対処方法をガイドするサービスを行っています。

<<メモ>>農業用ドローンの課題

2015年頃、無人ドローンによって撮影された画像により農作物の生育状況を把握する試みがあちこちで行われ、ドローンを飛ばすビジネスと受け取った画像を処理・分析するサービスの2つの分野で、いろいろなスタートアップ企業が注目されました。

基本的な仕組みは無人ドローンに付けた赤外線センサーを使って、葉から反射された光の量をもとにNDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化差植生指数)マップというものを作り、生育不良の場所を特定して適切に対処するというものです。

それから約3年経ちましたが、無人ドローンを使った農場監視はまだ本格的な実用段階になっていないようです。実はMavrx社も2015年当時はドローンの話題で有名だったのですが、今、ホームページを見るとパイロットが飛行機に乗って撮影する動画に変わっていました。

無人ドローンには2つの課題があると言われています。1つはドローンのバッテリー寿命が限られているため、広大な農地をカバーするのが難しいということ。もう1つは無人ドローンの技術がまだ道半ばで、操縦士が付いていないと成果を上げるのが難しいことです。

しかし、現在でも非常に多くのスタートアップ企業が研究開発を続けており、ドローンの低価格化、バッテリー寿命の長期化、自動運転技術の向上、センサーの進歩、画像処理と分析機能の発展などにより、そう遠くないうちに実用化されるように思います。

法曹界(Legal)

リーガルもまた米国的ですね。訴訟社会である米国の弁護士は2016年で130万人以上にもなり、3万8千人しかいない日本の約35倍もいるそうです。どうりで米国映画では法律モノがよく作られるわけです。

米国では、毎年、膨大な訴訟事案が発生していますが、これらのデータはLexisNexis社やWestlaw社によってデータベース化されています。このビッグデータから事案に役立つ情報を検索して取り出すのに、人工知能の自然言語処理技術が使われ始めているのです。

用途としては膨大なデータを検索・調査するKnowledge&Search系が主体です。リーガルデータは毎年どんどんと事案が積み上がりビッグデータとなっていますが、このデータからAIの自然言語処理技術を使って検索タグ付けを行い、役に立つ情報を取り出せるようにするわけです。

過去の訴訟データの探索、法律や契約の検索など、”六法を持ち歩いて調べる”だけの役割だった人はAIに取って代わられそうです。現在では、リーガル分析などもう一段高度な活用方法も取り組まれています。

【リーガルの事例】
Eberlaw:リーガルデータ検索
弁護士が訴訟の準備のためにさまざまな情報を検索したり分析したりするクラウドサービス提供しています。マウスを使って簡単に操作できるグラフィカルなユーザーインターフェースを持ち、AIを使って求めるデータやドキュメントを検索できるほか、さまざまな分析サービスも提供しています。

Ross:リーガルデータ検索
IBM Watsonの自然言語処理を使ったリーガルデータ検索を提供しているスタートアップ企業です。ユーザーの言語をWatsonが理解して、膨大なリーガルデータの中から必要と思われる事例や情報を提示します。こうした対話を繰り返すことによって、ユーザーは最も役立つ情報を得ることができる仕組みです。

RAVEL:リーガル分析
AIを使ったリーガル分析により、弁護士が訴訟で勝つためのサポートツールを提供しています。ある陪審員の下したあらゆる決定を検索して、その人が最も同感しやすい主張を見つけ出したり、埋もれている事案と事案の関連性を結び付けて見えていなかった有利な材料を見つけ出したりするようなクラウドサービスを提供しています。

(4)ガス・石油業界(Oil&Gas)

世界のエネルギー産業の上位企業がずらりとそろったガス・石油業界も米国が強い業界で、AIを活用した事例が多く発表されています。例えばエクソンモービル社は精製・科学工場の自動化システムに取り組んでおり、シェブロン社ではパイプコンプレッサー間の負荷調整や人的エラーの削減、機器の故障防止、油田の監視・異常予測など幅広い取り組みがなされています。また、コノコフィリップス社は気象情報や労働力、需要情報などのデータを分析して石油採掘計画策定や採掘作業効率にAIを活用しています。

今回は、産業別のAI活用状況という切り口で米国の事例をいくつか紹介しました。次回も引き続いて、今回紹介できなかった産業をピックアップして事例を紹介していきます。いろいろな業界での活用状況を見るうちに、人工知能がどのような用途で役に立ちそうかイメージが湧いてくると思います。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発・リリース。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」、アプリケーション設計のCADツール「SI Object Browser Designer」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。最近は、AIを利用したサービスに取り組んでいる。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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