連載 [第5回] :
  GitHub Universe 2018レポート

GitHub Universe 2018に見る絶妙なイベントの設計

2018年12月6日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
GitHub Universeの上手に設計されたイベントと発表、そして会場のようすを総括する。

2018年10月16日と17日の2日間にわたって行われたGitHub Universeは、例年以上に大きな発表がなされたイベントとなった。特にGitHub Actionsは、GitHubを単なるリポジトリーから、アジャイル開発からCI/CDに至るまでのプロセス、承認やアラートと言った手作業が必要な部分にまで自動化を推進するプラットフォームへと拡大させる可能性を秘めている。

そして地味ながらもExperimentsという実験的な場所を公開することで、GitHubの機械学習チームがこれからやろうとしていることが可視化されることとなった。特にオープンソースコミュニティの活動がOctoverseという分析で可視化されることで、コミュニティ全体の傾向やニーズを獲得できることは、GitHubそしてそのオーナーであるMicrosoftにとっては、他の誰もが得られない情報を獲得できることを意味している。

プレスセッションで質問に答えるGitHubのメンバー。左からOmoju Miller氏、Jason Warner氏、Kyle Daigle氏

プレスセッションで質問に答えるGitHubのメンバー。左からOmoju Miller氏、Jason Warner氏、Kyle Daigle氏

初日のキーノートの直後に行われたプレス向けセッションでは、シニアデータサイエンティストのOmoju Miller氏、SVPのJason Warner氏、そしてエコシステム担当のDirectorであるKyle Daigle氏が質問に答えた。ここでもGitHub Actionsに関する質問が続出しており、Actionsへの注目ぶりが見てとれる質疑応答となった。

今回の記事では、GitHub Universeレポートの総括としてイベント全体を振り返ってみたい。

GutHub本社に設置されているOctocat「考えるモナリザ」

GutHub本社に設置されているOctocat「考えるモナリザ」

イベント前日には、GitHub本社でプレス向けブリーフィングが行われた。これは本社のエントランスに置かれているモナリザの銅像で、ロダンの考える人を模している。ブリーフィングではテクニカルな話はなく、GitHubにおけるダイバーシティの話などが紹介された。

Microsoftのブース。Azure Pipelineがメイン

Microsoftのブース。Azure Pipelineがメイン

GitHubを買収したMicrosoftのブース。通常のノートPCとディスプレイというスタイルではなく、ソファーなどを置いて参加者が寛げるスタイルになっている。すぐとなりには、IBMもブースを出していた。

Microsoftの用意したステッカー。Visual StudioとAzure推しである

Microsoftの用意したステッカー。Visual StudioとAzure推しである

Azure Pipelineは、Azureプラットフォームをメインに利用するエンタープライズに向けてCI/CDを提供するのが役目だ。GitHub Actionsとは別枠というのが、Microsoftのスタンスだろう。

Herokuのブース

Herokuのブース

PaaSの元祖であるHerokuのブース。ここも説明よりもTシャツを配布して、まず接点を作ろうとするスタイルだ。HerokuはSalesforceに買収されたのちも、なるべくSalesforce色を出さないようにしているようだ。しかしアプリケーションが分散化に向かい、その中心がすでにコンテナとKubernetesに移行している昨今、「PaaSの役割は何か?」ということを再度考える時に来ているように思える。ちなみにGitHubのSVP, TechnologyであるJason Warner氏は、元Herokuの社員である。

Ask GitHubのエリア。ここでどんな質問も受け付けるというスタイル

Ask GitHubのエリア。ここでどんな質問も受け付けるというスタイル

2階の一番奥のスペースは、GitHubの社員が待機する質問コーナー「Ask GitHub」。ホワイトボードを備えたミーティングスペースも用意されており、エンタープライズ企業が個別に相談するというニーズを満たすように設計されていた。こんなところも、GitHubのイベントのノウハウが活かされているように見える。

ベンチャー向けには集合スタイルのブースを用意

ベンチャー向けには集合スタイルのブースを用意

大きなブースを設置できないベンチャー向けには、集合スタイルのブースが用意されていた。これは「Code Review as a Service」を提供するSiderのブース。Siderは日本発のベンチャーだ。

Sider:https://sider.review/ja

企業が出展するブース、カフェやエンターテイメントのブースだけではなく、GitHubのマスコットやTシャツを販売するショップがあるところが、GitHub Universeのユニークなところだろう。

Octocatをカスタマイズできるデモブース

Octocatをカスタマイズできるデモブース

WhiteSourceのブースは、PCなどは使わずにリモコンでショベルカーを動かして上手く掘り出せたらノベルティをプレゼントすることで参加者を引き寄せようとしていた。オープンソースソフトウェアの脆弱性をスキャンするサービスがメインのWhiteSourceならではということだろう。まじめに黒いアヒルのマスコットを配っていたBlackDuckとは対象的なやり方だが、注目は集めていたようだ。

WhiteSourceのブース。あえて遊ばせて人を集めるスタイル

WhiteSourceのブース。あえて遊ばせて人を集めるスタイル

会場のそこかしこに机と椅子が用意されており、いつでも参加者が寛げるように配慮されていた。

通路にも机と椅子が用意されている

通路にも机と椅子が用意されている

GitHubのTシャツやノベルティを売るGitHub Shopは、大きなスペースを使って展開していた。中ではモナリザに色を塗ることができるスペースも用意されており、カスタマイズすることができた。

GitHub Shop

GitHub Shop

一昨年、昨年に続いてGitHub Universeに参加した経験から、今年のイベントについて感じたのは、イベントそのもののサイズは小さくなった一方で、会場のかたちを最大限に利用したブースと動線、円形ステージから3つの個別ステージに変換するセッション会場がうまく設計されていたことだ。

そして何よりも多くの新規機能と機械学習チームがGitHubに与える今後の影響を考えると、これからの発展が楽しみになったことだろう。今回はデンソーのアドバイザーである及川卓也氏も参加しており、GitHubを活用することでエンターテイメントにおけるソフトウェア開発が革新される流れが来ているようにも思える。これまで国土地理院などがセッションを行ってきたGitHub Universeだが、来年は日本のエンタープライズ企業からの発表も期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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