GitHub Universe開催、CI/CDのActions、ArtifactリポジトリのPackagesなど多数の発表が行われた
ソースコードリポジトリのGitHubが年次カンファレンス、GitHub Universe 2019をサンフランシスコで開催した。初日のキーノートではCEOのNat Friedman氏によるプレゼンテーション、新しい製品のActionsとPackages、デスクトップ用のアプリケーション、スマートフォンから利用するGitHub for Mobileの発表など盛り沢山の内容となった。
最初に登壇したのはCEOのNat Friedman氏だ。
Friedman氏はGitHubの成長について、「すでに4000万人のユーザーがGitHubを使っている」と説明。2018年のGitHub Universeでは3100万ユーザーという説明だったので、順調にユーザーが伸びていることがわかる。そしてオープンソースソフトウェアは、他の多くのオープンソースソフトウェアによる依存関係によって成立していると語る。そして一つのオープンソースソフトウェアには、それを支える多くのオープンソースプロジェクト、デベロッパーがいることを解説し、すでに多くのエコシステムがそこに存在していることを語った。
その後に最も強烈なメッセージとして「Open source has won」と書かれたスライドを掲げた。つまりプロプライエタリソフトウェアに対して、オープンソースソフトウェアが市場を獲得したという宣言だ。これはオンプレミスのソフトウェアを使うエンタープライズ企業だけではなく、オープンソースソフトウェアを多用するパブリッククラウドベンダーなどの利用が拡がることを背景にした意見だろう。もっとも、未だにOffice365やWindows Serverを販売しているMicrosoftにとっては、建前としては正しいにしろ、若干もやもやするコメントだったかもしれない。
なお世界中に拡がるオープンソースソフトウェアのデベロッパーを可視化したとして、Akamaiが良く用いる地球儀の上にコントリビュータの数を積み上げたグラフィックを見せた辺りは、北米やヨーロッパだけではないオープンソースデベロッパーの拡がりを見せた場面となった。
そして今回のキーノートのトピックとして「Code to Cloud」「Daily Experience」「Community」そして「Security」を挙げた。ここで「Securityについては明日発表するから、今日はそれ以外の3つを説明する」としてステージに呼ばれたのはDana Lawson氏だ。
Dana Lawson氏は、Heptio(VMwareが買収)やNew Relicなどのキャリアを経て、2019年1月にGitHubのVP of Engineeringというポジションに収まったわけだが、ここでは製品開発のトップとしてのお披露目という形になった。
この日の最初の大きな発表は、昨年発表されたCI/CDのソリューションであるActionsと、ソースコード以外のパッケージを管理するPackagesが正式版になったことだろう。
ちなみにGAとはGenerally Availableの略で、ベータから脱して正式版になったソフトウェアを指す。余談だが、MicrosoftがWindows 95などをリリースしていた当時はRTM(Released To Manufacturing)という略語が使われていたが、現在はもうCD-ROMなどのメディアでソフトウェアを大量に複製して販売する時代ではない。そのため、ソフトウェアがユーザーの本番環境においても利用が可能な状態になったことをGAという用語で表現することは、時代に即していると言える。
なおCI/CDの文脈でActionsを位置付けることは昨年のUniverseでも指摘されており、それが正式に発表されたことの意味は大きい。特にSaaS版のCI/CDサービスで優位点として挙げられている「ビルドするイメージのキャッシング機能」や「Windows、macOS、Linuxのディストリビューションに対するマトリックスビルド」などについても実装されており、この1年でユーザーの声を聞いて改善してきたことが窺い知れる内容となった。また昨年の発表時に、Actionの記述にはLuaを用いると言われていた部分はYAMLに変更されており、ここでも細かい部分で変更が行われていることがわかる。
CI/CDのマーケットはすでに「デベロッパーエコシステム」と呼んでも差し支えないぐらいに、各種のツール群は充実している。その中で最後発として参入したということと、これまでもGitHubを中心としたワークフローが出来上がっている状態でCI/CDに参入したということからも、他社ツールとの連携は重要なポイントである。GitHubもそのことを理解しているということで、CircleCIやJFrogといったツールとの連携もしっかりアピールすることは忘れていなかった。
Lawson氏の後に登壇したSenior Director of ProductのJeremy Epling氏は、実際にGitHubを操作してActionsのより詳細な解説を行った。
ここでは単にCI/CDのツールであることのアピール以外に、GitHubの持つマーケットプレイスの機能を見せ、単にツールの機能紹介だけではなく再利用できるアセットがあることを強調した形になった。
最後にActionsの機能を再確認するEpling氏は、Artifactのキャッシングとオンプレミスで実行する際にIntelのプロセッサ以外にARMもサポートしていることをサラッと紹介して、次のプレゼンテーターのNeha Batra氏と交代した。
Batra氏はGitHub Desktopについて、WebベースのGitHubの体験をデスクトップに持ってきたというだけではなく、GitHub.comとEnterprise Serverの両方をサポートしていること、無料であり、オープンソースソフトウェアとして公開することなどを紹介した。実際に触ってみるとチュートリアル機能が実装されており、GitHubのコンセプトを体験するためには非常に良いテストベッドになっていることがわかる。
このスライドには、GitHubの使い方を習得するためにノートPCに貼られたPost-itのメモに書かれたコマンドなどの写真が紹介され、いかにも実体験に基づいたソフトウェアになっていることが紹介された。
その後はGitHubでのサーチ機能の改善、GitHubからのNotificationの改善、そして製品関連の最後として、ベータ版としてスマートフォンからGitHubを利用するGitHub for Mobileの紹介などが行われた。
GitHub for Mobileでは、GitHubの操作の多くの部分が実装されていることが紹介された。
ここまででソフトウェアの機能的な紹介は終わり、ここからコミュニティに関する発表としてGitHub Sponsorsについて紹介が行われた。これまで個人に対して資金援助を行う機能として紹介されていたが、新たに資金援助を必要としているプロジェクトを募るウェイティングリストがベータ版として公開された。これによって受け身的に資金援助を待つのではなく、グループとしてGitHubからの援助を受けたいグループは能動的に動くことが可能になったと言える。
最後に再びNat Friedman氏が登壇し紹介したのが、Arctic Code Vaultプロジェクトだ。
これはGitHub単独のプロジェクトではなく、Internet ArchiveやStanford大学、Microsoftなどとの共同プロジェクトで、GitHub上のコードをPCなどがなくても読める状態で長期保存するというものだ。2020年2月に最初のスナップショットが実行され、ノルウェーの地下に保存されるという。最初は冗談かと思ったが、実際にプロジェクトに関わっている担当者へのインタビューでは数百年後にソフトウェアが可読状態で保存されることを真剣に目指していることがわかった。このプロジェクトについての詳細は、のちにインタビューでお届けする予定だ。
この最後のスライドでわかるように、ActionsやPackages以外にもGitHub Enterprise 2.19など多数の発表が行われたキーノートとなった。例年行われるOctoverse(GitHub上の統計情報に関する発表)が省かれたのも理解できる充実ぶりとなった。
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