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  インタビュー

企業のクラウドネイティブ化を実現するジールが考える「SRE支援サービス」の必要性

2024年4月25日(木)
高橋 正和
本記事では、 エンタープライズ企業におけるクラウドネイティブ化の課題を解決する、ジールの先進的なSRE支援サービスに迫ります。

現在では、Web企業だけでなく、従来型のソフトウェア企業や製造業などでもクラウドを採用し、クラウドネイティブを指向し始めている。

ただし、株式会社ジールでクラウドマネージドサービスユニット ユニット長を務める黒沼 和光氏は「クラウドネイティブといった言葉は知っているものの、どこから初めて良いか分からないというケース、あるいはクラウドネイティブに必要なツールは導入しているものの活用しきれていないケースが多く見られます」という。

ジールは、こうしたエンタープライズ企業のクラウド課題を解決する「SRE支援サービス」を2023年8月から展開している。この事業を担っているのが、黒沼氏が率いるクラウドマネージドサービスユニットだ。

ジールがSRE支援サービスにおいて考え、あるいは実際に相談を受けているクラウドネイティブ支援の必要性について、黒沼氏と、クラウドマネージドサービスユニット 上席チーフスペシャリストの森本 伸幸氏、同チーフスペシャリストのノ・ソンタク氏に話を聞いた。

ツール支援ではなく
目的を達成するための技術支援

ジールのSRE支援サービスは、クラウドインフラの整備やクラウド環境の自動化などを通じて、サービスの信頼性の向上を行う伴走型支援だ。技術要素としては、IaCやCI/CD、オブザーバビリティ、コンテナなどを扱う。これらを顧客企業が推進するのを支援するものだが、特長となるのがツール支援ではなく目的を達成するための技術支援という点だ。

株式会社ジール クラウドマネージドサービスユニット ユニット長 黒沼 和光氏

クラウドを利用したサービス開発を行っているエンタープライズ企業を対象に、クラウドリフト&シフト(特にシフト)やクラウド自動化、モニタリングの高度化、さらにモニタリングによるコスト削減および業務改善などをサービスとして提供する。

クラウドは特定の事業者にコミットする形ではなく、顧客がマルチクラウド化していくことに対応。ツールも単一のツール利用ではなく、複数を組み合わせてGitOps環境の構築やコンテナ化、インシデント対応の自動化などを実現するところをサポートしている。

支援範囲は、クラウドのモダンなアーキテクチャ設計、実装、PoC、リリース、運用支援まで一元的に扱える。これにより運用を考えながら設計したり、導入後にさらに改善したりと、伴走型ならではのサポートとなっている。

顧客企業からのニーズが高いのは
製造、Webサービス、金融の領域

SRE支援サービスの顧客ニーズの高い領域は、ビジネスモデルを転換しているエンタープライズ企業で、具体的な業界は、製造、Web・SaaS、金融だと黒沼氏は説明する。

製造業では、大手企業を中心に顧客に提供している機器をクラウドで管理するビジネスモデルに転換している。クラウドサービス基盤のユーザー数が多くなり、サービスの信頼性構成向上やデプロイの頻度を高める開発環境に変更するため、クラウドネイティブ化の検討をしているものの、なかなか進まないというケースが見られる。

Webサービス業では、オンプレミス時代からシステムを開発・提供している企業が、プラットフォームをクラウドに移行するにあたってサービスの品質を上げるケースや、SaaSに転換するにあたりクラウドネイティブ化したいというニーズが高く、金融ではサービスの信頼性向上が重要テーマになっていることが多く、オブザーバビリティのニーズが高いという。

これらの顧客において、既存のパートナーではクラウドのリフトまでは行えるが、クラウドネイティブ化までは積極的推進が難しいことが多い。特に開発と運用を担当する部門が分かれているパートナーが多く、サービスリリース後の運用が始まっての改善へのアプローチまでは手が回らないなどの課題を、SRE支援サービスが解決する。

サービス事業者で経験を積んだメンバーが集う

さらにジールのSRE支援サービスの特色は、サービス事業者で経験を積んだエンジニアによるところで、その中心を担うのが森本氏とノ氏だ。

森本氏は、SaaS事業者やECサイト、SIerなどさまざまな立ち位置でインフラエンジニアとして20年の経験を持つ。特に監視における設計からオンコール担当までと、IaCを使った自動化の経験が長い。SRE支援サービスにおいても、オブザーバビリティや自動化を中心に担当している。

ノ氏は韓国出身で、韓国で15年間サーバーエンジニアやクラウドエンジニア、エンジニアリングマネージャーなどを経験。2016年から日本でサーバープログラマーやアーキテクトとして活動している。特に分散技術に通じており、その中でコンテナ化やマイクロサービス化を進め、それに合わせてDevOpsやGitOpsなど運用スタイルの変更なども担当してきた。SRE支援サービスにおいても、コンテナ化やマイクロサービス化などを中心に担当する。

エンタープライズ企業が
クラウドネイティブ化を求める理由

エンタープライズ企業がクラウドネイティブ化を求める理由として、黒沼氏は「エンタープライズ企業内のサービス基盤環境を変えたいということがある」と語る。

エンタープライズ企業では、社内システムについては10年以上前の環境で止まってしまっており、ハードウェアからのクラウド化やOSの移行くらいしか行っていないというものだ。一方で消費者向けの社外サービスについては、バージョンアップなどのサービスサイクルを早めたいというニーズがあるが、クラウドネイティブな環境に移行が進んでいなく、旧来型の開発手法から脱却できていない。このように社外向けでも社内向けでもサービス基盤をモダイナイズする必要があり、そのために内製化してアップデートをスピードアップしたい、それにはクラウドネイティブ化が必要、というケースが多いそうだ。

また、クラウドネイティブの顧客の理解については、用語だけ分かっているというケースや、場合によっては、クラウドネイティブのツールは既に導入しているが、使いこなせていないケースもある。その一方で、基礎知識はあるが、どのように取り組めば良いか分からないというケースもあるようだ。

森本氏が実際に顧客と話す中ではオブザーバビリティのニーズが高いという。「最近ではシステムが動的なものに移り変わってきて、従来の静的な監視では追いつかなくなってきた。そこから、今の監視で足りているのかなという課題感がうっすらと出てきているようです」(森本氏)。ただし、オブザーバビリティという言葉が1人歩きしており、オブザーバビリティによって、具体的に何ができて、どういった課題を解決できるものかを知りたいといった企業側の声も多いという。

株式会社ジール 上席チーフスペシャリスト 森本 伸幸氏

オブザーバビリティに対するニーズが高い理由として、森本氏は「システムが停止した時間の影響が大きいことが明確に意識されている」と語る。問題の調査に時間がかかってしまうことで、さらに停止時間が長引き、影響も大きくなってしまう。

相談してくる企業、特に金融機関では経営層も大きな課題感を持っており、経営層が自分たちでも稼動状況が分かることのニーズが高いとのことだった。またシステムの現場においても既存環境を変えなくても入れられることで、採用しやすいだろうとのことだった。

一方、コンテナ化などのアプリケーションのクラウドネイティブ化のニーズとしては、10年前に作ったシステムを触らなければ問題が起こらないということで、そのまま運用した結果、課題が生じているケースをノ氏は挙げる。使用ライブラリのセキュリティ脆弱性などの問題がたまりアップデートが必要になっているが、サーバー数も増えて難しくなっているといったものだ。これをどのように解決すれば良いか相談を受けるという。「コンテナ化やIaCの導入、CI/CD環境の構築などのクラウドネイティブ化によって解決しようと、より柔軟な環境に切り替える話が多いと思います」(ノ氏)。

株式会社ジール チーフスペシャリスト ノ・ソンタク氏

クラウドネイティブ化にはインフラだけでなく
開発まで一丸となって取り組む

企業のクラウドネイティブ化を支援するにあたり、顧客の組織や意識の面が課題になることも多い。

クラウドネイティブ化すると、インフラ担当もコードを書く、あるいは開発担当もインフラを理解する必要があるなど、担当する領域が広がる。このように顧客の担当者においても自分たちの作業領域が変わり、考えることも変わるという認識を持ってもらうことが必要になる。

例えば、インフラ運用チームでは、監視ツールの情報を手動で確認して対応するようなツールでしか運用経験がなかったり、 開発側のアプリケーションについての知見がなかったりする。クラウドネイティブなオブザーバビリティへとインフラ運用チームの視点が上がらないというケースだ。

そのためには開発チームを巻き込む必要がある。黒沼氏は「うまくいくケースでは、開発チームが自分のアプリケーションをこうしたいと積極的に話を進めている」という。

森本氏も「昔から監視と言えばインフラというのが定着していると感じています」と語る。さらに大企業となると、組織が縦割りに分かれている中で、どうやって開発を巻き込むかが問題になる。「オブザーバビリティでメリットを最も享受できるのは開発の方だと思っています。ただし、それをインフラの方を経由して伝えるのも難しい。一番良いのは使っていただき、巻き込んでいって、メリットを享受してもらうことだと思います」(森本氏)。

さらに、オブザーバビリティを入れることは難しくないが、入れた後の運用や文化の定着も問題になると森本氏は付け加える。そこで、開発を巻き込んで時間をかけて一緒に育てていくのが大切だと説明した。

また、導入した後のサポートも、定期的にメリットを説明して定着させていくために必要になる。ジールが伴走型のサポートをしている理由だ。

同様に、クラウド化やコンテナ化などにおいても、組織や意識の面が課題になることは多いという。

「クラウドネイティブではダイナミックな環境で柔軟なサービスができることが重要で、既存のシステムをそのままクラウドに載せて動かしただけでは不十分だと思っています」とノ氏は言う。そのために、既存のロジックをコンテナに分解して分散させるところまで話す必要がある。

「クラウドネイティブ化はインフラの観点で言われることが多いと思います。しかし、話が深くなるとアプリケーションのロジックを含め、開発からインフラまで全部組み合わせなければなりません。そのために壁になるのは技術より組織の問題で、そこも一緒に扱う必要がある」とノ氏は語った。

目指すのは「日本のクラウドネイティブといえばジール」
と想起してもらえることと

なお、今後事業をスケールさせていくに伴い、高いスキルを持った技術者の採用や教育も必要となる。

これについて黒沼氏は「人材採用は難しいが、サービス事業者の中で顧客向けの改善活動などに興味を持つエンジニアの採用や、人材を育成するための社内勉強会などによるスキルアップを行っています」と話す。

最後に、SRE支援サービス事業の今後の方向性や目標について、3人に話を聞いた。

黒沼氏は、顧客や関心を持っている企業に大手や著名な企業が多く、それらのサービスの品質が上がることによってエンドユーザーもハッピーになることに貢献できるのが重要だと語った。「そうした企業からの信頼を得て、これからの1、2年で実績をしっかり作っていくことを目指したいと思っています」(黒沼氏)。

ノ氏は、SRE支援サービスとクラウドマネージドサービスユニットは立ち上がって間もないため、クラウドネイティブにおける知名度を上げたいと語った。「日本のクラウドネイティブとなったときに、パッと思い出すのがジールのクラウドマネージドサービスユニットとなるように頑張りたいと思います」(ノ氏)。

森本氏も“クラウドネイティブ化についてジールに相談すれば良い回答をもらえる”と思ってもらえるように、ファンを増やしたいと語った。「システムのことをジールに相談すれば親身になって一緒に考えてもらえる、伴走で支援してもらえる、顧客目線で対応してもらえる、と思ってもらえることを目指しています」(森本氏)。

フリーランスのライター&編集者。IT系の書籍編集、雑誌編集、Web媒体記者などを経てフリーに。現在、「クラウドWatch」などのWeb媒体や雑誌などに幅広く執筆している。なお、同姓同名の方も多いのでご注意。

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