LF Energyがミートアップを実施。ヨーロッパとの違いが際立ったプレゼンテーションを紹介
The Linux Foundationの下部組織LF Energyが、都内でミートアップを実施。ヨーロッパとの違いが際立ったプレゼンテーションを紹介する。
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The Linux Foundation(LF)配下のLF Energyがミートアップを都内で開催した。ミートアップではLF EnergyのエグゼクティブディレクターのAlex Thornton氏が来日し、プレゼンテーションを行った。LF Energyは2018年に設立されたLFの下部組織で、主にヨーロッパの電力、エネルギー業界のベンダーが参加するコミュニティであり、日本からは日立製作所がメンバーとして加入している。
2026年7月21日に都内で開催されたミートアップであったが、参加者は約10名、時間も15時から17時の2時間と短く、エグゼクティブディレクターのプレゼンテーションと日立の研究所所属のエンジニアがLF Energyのプロジェクトをデモを通して簡単に紹介するという内容となった。この稿ではAlex Thornton氏のプレゼンテーションを紹介する。
プレゼンテーションのタイトルは「Intro LF Energy: Past, Present and Future」というもので、LF Energyを知らない人向けの内容となっている。しかしながら数少ない参加者はすでにLF Energyを知っているからこそ7月の平日の午後に日立が設営したおしゃれなワーキングスペースに来たわけで、その状況から見れば最新情報のアップデートに重きをおいたほうが良かったかもしれない。
エネルギーについての現状というスライドでは日本の液化天然ガスの価格が暴騰していることを紹介。
ここではアメリカがイランに対して戦争を始めたことについても触れ、アメリカ人として遺憾に思うとコメントし、エネルギーが地政学的リスクの上に成り立つ脆弱な資源であることを説明した。
「LF Energyとは何か?」というスライドでは「LF配下で安価、安全、信頼、クリーンなエネルギーのためのデジタル基盤を提供する中立的な存在」であると説明。ここではオープンソースであるかどうかが明記されていないところに注目したい。この部分については後半のスライドで説明されることになる。
ここではRTEというフランスの送電会社とオランダのAllianderという配電会社が同じ問題を持っていたことから始まったと説明。このスライドではこの2社がこれまでの発電方式ではなく再生可能なエネルギーが利用できるようになったことから、そのエネルギーを従来のシステムに加えて運用するためのシステムを求めていたというのが発端であると説明された。フランスは発電の大半が原子力、オランダは大半が太陽光や風力によって発電されており、どちらも再生可能エネルギーが大きな変動要因になるということから従来のシステムからの移行が求められていたということだろう。
ここではまた日本の例を挙げて、地域ごとに分割された電力会社はその地域では独占的な存在であり、他の地域と競合する関係にはない。そのためインフラストラクチャーなどの分野では協力することが可能なはずであると説明。
またすでに多くの協業が始まっているとしてIECやIEEE、CIGRE、日本の電力中央研究所、電力広域的運営推進機関、ヨーロッパの欧州送電系統運用者連合などのロゴを並べ、国際的に協業するための組織が存在していることを説明した。
このスライドではオープンなテクノロジーによる標準の制定、必要となる機能をブロックとして提供、スケールするセキュアなデータ共有の仕組みを3つの柱として掲げている。
エネルギー業界はこれまで以上に安価で素早くシステムを構成できることを求めており、それに加えて地政学的なリスクを軽減するためにデジタル主権、つまり他国のテクノロジーに依存することなくソフトウェア及びデータを自国で管理・運営することを求められるようになっていると説明。デジタル主権については主にヨーロッパが率先してその実装に向かっている発想だが、アメリカやアジアでは特に声高に訴求されることも少なく、この点でもLF Energyがヨーロッパ発祥の組織であることを感じさせる内容となっている。アムステルダムで開催されたKubeCon Europe 2026でもブースの説明員が「ここでは誰もがCRAやGDPR対応を訊いてくる。でもアメリカのカンファレンスではそんな単語を聞いたことがない」とコメントしていたように、明らかにデジタル主権についてはヨーロッパ主導のイニシャティブであることがわかる。
LF EnergyはLFの傘下にある団体であるため、オープンソースによってシステムを開発する、実装するコミュニティが最も重要というのが大きな方針であるが、実際には多くのエネルギー関連企業ではベンダーが開発した商用システムが提供され、運用されている。環境が変わったことで従来のソフトウェアではない新しいソリューションが必要というRTEとAllianderの状況があったとしても、従来のシステムをすべて捨てる必要はなく商用ソフトウェアを否定しないという姿勢を見せることで、ベンダーとの協業を進めたいという意図が見えてくるスライドだ。これが冒頭の「オープンソースであること」を明示しない背景だろう。すべてがオープンソースであることを強調すれば、商用ソフトウェアを利用している企業からの拒否反応が起き得るであろうことに対する配慮だろう。
このスライドではすでにそれぞれの分野でLF Energyのプロジェクトが進んでいることを説明。発電グリッドの外にあるバッテリー関連についてもアライアンスが始まっていることを示している。
ここからは多くのプロジェクトからいくつかを紹介する内容となった。
オランダの送電会社、TenneTではPowSyBlを使うことで、本番の送電システムのセキュリティ分析システムが約5ヶ月で計画から実装までが終了したことを解説。電力会社のシステムとしては異例の速さで実装されたことを訴求していた。
より詳細には以下のブログ記事を参照されたい。
●参考:Grid Security at Scale: How TenneT Built a 10× Faster Analysis Platform on PowSyBl
OpenSTEFは短期間の電力需要を予測する機械学習のためのパイプラインであると紹介されている。オランダのAlliander以外にドイツの配電会社でも利用されている。また電力以外にもコージェネレーションシステムの需要予測として、スウェーデン、ノルウェイ、フィンランドなどで利用されているという。
このPower Grid Modelはオープンソースとして公開され、オランダのAlliander、Enexisで使われていると説明したが、Thornton氏が注目したのはこのオープンソースにパキスタンの電力会社、Gujiwanwala Electric Power Companyという会社が約7%のコントリビューションを行っているということだ。つまりオープンソースとして公開したことで、LF Energyが訪れたこともないアジアの電力企業がソフトウェアを利用し、さらに貢献しているということになる。
電力の送電・配電とは関係が薄い最新の需要として、バッテリーが生成するデータを公開フォーマットにすることでバッテリーの開発とテストを容易にするためのプロジェクト、Battery Data Allianceにはバッテリー関連の企業だけではなくMicrosoftも参加しているのが興味深い。
これは単に生成AIによって電力需要が拡大していることだけではなく巨大なデータセンターが建設されることに対して住民が反対活動を起こしているという影の部分も指摘し、環境に対するインパクトをいかに最小化するのかが課題となっていることを指摘した。
Thornton氏のプレゼンテーションの背景として、データセンターに巨大な電力需要が発生し、再生エネルギーとの共生も必須になり、EVチャージングステーションやバッテリーについてもソフトウェアが大きな鍵を握る時代になったと理解すべきだろう。その中で主にヨーロッパの電力関連企業が問題を共有し、公開した仕様やソフトウェアによってオープンで主権を手放さないアライアンスとしてLF Energyが位置付けられているのがわかるプレゼンテーションだった。
ヨーロッパでコミュニティマネージャーを雇用したことを紹介。そもそもの始まりがヨーロッパだったLF Energyがヨーロッパのために人材を用意することは自然な流れだろう。
最後には日本そしてアジアでもエネルギー関連のコミュニティを拡大していきたいと説明してプレゼンテーションを終えた。最後のQ&Aで「この来日期間中に電力会社とは何社ぐらいミーティングを行う予定ですか?」と質問したところ、「予定はない」と回答。また日本のLFの代表である福安氏からは「電力会社にはLF Energyの提案をしているが、提案をしても『そういうことはベンダーに言ってくれ』と言われてしまう」とThornton氏をサポートする回答を得た。電力会社はあくまでもソフトウェアはベンダーが作るものという意識が高く、オープンソースソフトウェアについてもベンダーが持ってくるモノという感覚なのだろう。
参加者も少なく今回のプレゼンテーションも日立からのみという状況でベンダーを含めて大きなコミュニティを作るという状況には程遠いと言える。LF Energyはパキスタンなどのこれからインフラストラクチャーを刷新したい国や地域に特化して訴求すれば利用は拡がるかもしれないが、それではスポンサーが集まらない。
以前のKubeConでインドの病院システムをすべてオープンソースのアプリケーションで稼働させたという例が紹介されたが、それも病院のシステムを販売している企業がいないからできたことであり、商用ソフトウェアがすでに稼働している場合はそのビジネスを潰すことに他ならない。ヨーロッパはデジタル主権を御旗にオープンソースを最大限に活用していく方向は変わらないだろうが、アメリカや日本のように既得権を持っているビジネスが存在する時にLF Energyの存在価値は何か? 稼働済みのシステムをリプレースするコストに見合う利益をあげられるのか? を問う必要があるだろう。
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