LF Energyミートアップ レポート 第2回

LF Energyのミートアップから日立製作所のプレゼンテーションを紹介

LF Energyのミートアップから日立製作所のプレゼンテーションを紹介する。

松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

6:00

The Linux Foundation配下、LF Energyのミートアップから日立製作所のOSPOメンバーが行ったプレゼンテーションを紹介する。

LF Energyのプロジェクトをデモを通じて紹介する」セッション

LF Energyのプロジェクトをデモを通じて紹介する」セッション

セッションを担当したのは日立製作所のDarshan Chawda氏と西島直氏の2名だ。

プレゼンを行うChawda氏(右)と後半を担当した西島氏(左)

プレゼンを行うChawda氏(右)と後半を担当した西島氏(左)

プレゼンテーションは電力需要の予測からグリッドの設計支援、送電のシミュレーション、AIによる運営支援、制御システム支援、電力グリッド専用のAIモデルなどを続けてデモを交えて紹介するという内容だ。

LF Energyのプロジェクトを実際の業務フローに従って解説

LF Energyのプロジェクトを実際の業務フローに従って解説

ここからはOpenSTEF、CoMPAS、Power Grid Model、AINETUS、OperatorFabric、GridFMなどを順番に説明した。

Jupyter Notebookで作成した機械学習のコードを見せる

Jupyter Notebookで作成した機械学習のコードを見せる

Grafanaで電力需要予測データを可視化

Grafanaで電力需要予測データを可視化

AIはエネルギー業界にとっては電力を多大に消費するアプリケーションになるが、電力の需要予測を行うことで最適化が実施できるとして良い面と悪い面を紹介。

AIを使うことの良い面と悪い面を紹介

AIを使うことの良い面と悪い面を紹介

AINETUSはAIを使って電力運用を支援するプロジェクトだ。電力需要が増えているにも関わらず送電線の容量が不足し電力を流したいのに流せない状況(輻輳)を解消するためには、送電設備への経路を変更するなどの処理が必要になる。その部分についてAIを使って対処方法とその理由などを生成するのがAINETUSの機能となる。

AINETUSの概要。2026年6月にLF Energyに参加した新しいプロジェクトだ

AINETUSの概要。2026年6月にLF Energyに参加した新しいプロジェクトだ

スライドでは送電線のトポロジーを表示して、どの送電経路を使えば需要に応える送電ができるのか? を解決するという内容を紹介している。

AINETUSのデモシナリオを紹介

AINETUSのデモシナリオを紹介

デモでは経路変更によって輻輳が解消されたという結果を紹介している。

AINETUSが生成した解決策を使って輻輳が解消されたことを示すスライド

AINETUSが生成した解決策を使って輻輳が解消されたことを示すスライド

GridFMは電力グリッドのシミュレーションにAIを使うという野心的なプロジェクトだが、公式ページの情報が少なく実態がどのようなものなのかは推測が難しい。少なくともIBM、AWS、Red HatなどのITベンダーに加えてアメリカのエネルギー省、ローレンスリバモア国立研究所、アルゴンヌ国立研究所などが参加していることから、エネルギー関連のプロジェクトとしては注目するべきだろう。

●参考:GridFM

GridFMの概要。下の2つの層が共通、その上の層は各社のアプリケーションという位置付け

GridFMの概要。下の2つの層が共通、その上の層は各社のアプリケーションという位置付け

GridFMの機能について解説したスライドでは「LLMのような機能を持つ」と記されているが、中身はLLMではないようだ。DataKitを使って電力グリッドの状態を表す合成データを生成し、GraphKitを使ってグリッドの物理構成などをグラフデータとして表現し、GridFMの実行はGraphKitが担うという構図のようだ。言語モデルとは異なり、物理の法則や構造、接続などをグラフデータとして使い、シミュレーションを行うというのがGridFMの機能だ。

GridFMの機能とDataKit、GraphKitの関係を表したスライド

GridFMの機能とDataKit、GraphKitの関係を表したスライド

大規模言語モデルは物理法則などの説明や要約には高い性能を発揮するが、その法則を使って演算する実行の部分には弱いというのは、物理構造や法則をニューラルネット内部にモデルとして保持し、それを使って演算を行うということが難しいからだろう。New York UniversityのYann LeCun教授が「フィジカルAIをやりたいなら、大規模言語モデルは諦めろ」と言っているのは、今の大規模現モデルにはこの部分が決定的に欠けているからだ。

GridFMのDataKitと他のソフトウェアとの比較

GridFMのDataKitと他のソフトウェアとの比較

この比較表自体が電力グリッドに関する知識がない筆者にとっては理解が難しいが、これまでの手法やソフトウェアと比較しても優位点が多いということだろう。

DataKit、GraphKitはどちらもPythonのライブラリとして提供される

DataKit、GraphKitはどちらもPythonのライブラリとして提供される

DataKit、GraphKitはそれぞれPythonのライブラリとして開発、公開されている。

●参考:https://github.com/gridfm

GridFMについてもデモの解説を実施したChawda氏だったが、最後のまとめとして、LF Energyのプロイジェクトが本番環境で使える品質を持っていることと各プロジェクトの概要を再度、振り返ってプレゼンテーションを終えた。

デモのまとめ。それぞれのプロジェクトは現場で使える品質を持っていると総評

デモのまとめ。それぞれのプロジェクトは現場で使える品質を持っていると総評

ここからは西島氏のプレゼテーションで使われた3枚のスライドを紹介したい。

OSSは社会インフラにおいても使われていることを紹介

OSSは社会インフラにおいても使われていることを紹介

日本語でのプレゼンテーションとして最初に使ったスライドではオープンソースがITから社会インフラストラクチャーにおいても重要な役割を果たすようになってきたと説明。オープンソースが企業の外部に存在するエコシステムであり、それに参加することは単に消費する役割から企業を超えた外部との協業による共同開発に移行すると説明した。しかし社会インフラの領域ではライセンス及びコンプライアンス遵守や成果物に対する長期間保守、標準化が必須となる。その際に企業としてどこまで責任を持てるのか? これについて各自が考えないといけないと単に無償のソフトウェアという位置付けよりも「問題が発生した時に誰が直すのか、その責任は誰が取るのか」までを考えることが電力グリッドなどのインフラストラクチャーにおいては重要だということだろう。

IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)の違いを説明

IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)の違いを説明

東芝はLF配下のCivil Infrastructure Platform(CIP)では大きな貢献をしているが、主に電力に限定しない組込系システムの長期保証をどうやって実装するのか? が目的だ。言ってみればCIPは組込系のOSレイヤーの持続性を担保するプロジェクト、LF Energyは組込系も含んだエネルギー業界のアプリケーションレイヤーのプロジェクトという違いがあるが、どちらも運用にフォーカスし、安定と安全を主な目的にしていることは重なっている。ITの分野でのオープンソースは技術的な革新を素早く行うための手法ではあるが、安全、安定というOT領域ではベクトルが異なると言わざるを得ない。このスライドで説明されているようにITでのオープンソースはツールなどが成果物となるが、OTでは業界標準と標準に従った実装を各社が行うということになる。それは成果物の責任を誰が取るのか? というオープンソースが最も苦手な部分をOTでは無視するわけにいかないからだ。ちなみにスライドのタイトルの「ITとOSではOSS戦略が異なる」は「ITとOTではOSS戦略が異なる」が本来の文であり、最初に出てくるOSはOTの誤字である。

OT領域でのOSPOの存在価値とは

OT領域でのOSPOの存在価値とは

西島氏自身が日立のOSPO所属ということで、IT業界以外にもOpen Source Program Office(OSPO)が設立されているとして自身の所属するOSPOが拡大していることを示すスライドでは、政府や製造業、そしてエネルギー業界でもOSPOが設立されていると説明した。しかしながら日本のエネルギー業界の会社名はなく、LF Energy発足のメンバーであるRTE、Alliander、Hydro-Quebec、Shellなどの名称が示されているだけだ。

このミートアップにも三菱重工業や東芝などのエンジニアがプレゼンテーションを行うわけでもない。日本のエネルギー業界では日立が戦略的にヨーロッパ市場を視野に入れてオープンソースを活用しようとしている意図は理解できるが、やはり電力会社に対してLF Energyの説明に行っても「機器を納入しているベンダーに先に説明に行って欲しい」と言われてしまうぐらいに外部のエコシステムとの接続という意図がないということだろう。

長期の安全と安定と責任保証というオープンソースが最も苦手とする領域に踏み込んで日本の電力グリッドがオープンソースを使うようになるためには、昨今の生成AIによるAI Slopをどうするのか? という悩ましい問題も存在している。数多くのオープンソースプロジェクトが生成AIによって書かれた機能追加やバグ修正のレビューに疲弊している段階で同じことがOTの領域のオープンソースで起こらない保証はない。

プレゼンテーションを行う西島氏

プレゼンテーションを行う西島氏

日本でも電力グリッドがデジタル化され、日々の生活のためにより良い機能と安定を望むことは市民としての希望ではある。しかしそれがLF Energyの主導するプロジェクトで実装されるかどうかは、電力会社ではなくベンダーがオープンソースを使い、貢献することにどれだけ価値を見出だせるのか? ここにかかっているだろう。引き続き注目していきたい。

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