楽天技研の代表「機械学習を中心に全てのコンピュータの教科書は書き換えられるべき」と語る
2015年11月21日の土曜日に楽天株式会社のエンジニアたちが主催、企画し、実際に登壇もするRakuten Technology Conferenceが今年も開催された。今回は楽天が二子多摩川に移転して初めてのカンファレンスだが、1000名以上の参加者、100名以上の社員が一堂に集まっての盛況となった。
今回のテーマは「IoT、AI、DevOps」という3つの軸に絞っての開催となり、各セッションもその軸にそったものが数十用意されていた。楽天の社員によるセッションでは毎回必ず「We are Hiring !」という人材募集のスライドが最後に用意されていたようで、夕刻のBeer Bashと呼ばれる懇親会でも赤い帽子に「HR」(人事部)と書かれた帽子を身に付けた社員が会場のあちらこちらで見かけられたように、楽天にとっては社員の日頃の成果発表の場であるとともに人材を確保するための場なのだと思わせる光景であった。
そんな中過去8回開催されているこのカンファレンス(今回で9回目)の中心人物であると同時に楽天技術研究所の代表である執行役員 森正弥氏にインタビューを行った。以下はその抜粋である。
ーーー今回のテーマであるIoT、AI、DevOpsはどうして選定されたのですか?
カンファレンスのテーマは今時点での技術動向や社内のエンジニアの興味の度合い、ビジネスのニーズなどから選定しています。社内では定期的にエンジニアによる勉強会である楽天Tech Talkというのを開催していまして、その中で発表されるテーマについては常にチェックをしています。そこで挙がってくるテーマの中でIoT、AI、DevOpsというものが多かったということもあります。
ーーー楽天技術研究所の役割はなんでしょう?
楽天技術研究所のゴールは「業務プロセスを改革すること、ビジネスインパクトを出せること」です。なので基礎研究でも無ければ、応用研究でも無く自由に色んなことをやっている人が居てそれぞれがビジネスにインパクトを与えられることを目標として活動をしているということです。なので結果を出すということが必要なんですね、評価はその結果次第ということです。実際にオープンソースの分散ファイルシステムであるLeoFSも長い時間開発を行っていますが、その時その時でちゃんと結果を出していますよ。
ーーーLeoFSに関して言えば既に様々なオープンソースの分散ファイルシステムがある中であえて作ろうと思ったのはどうしてなんですか?
それはそういうものが欲しいと思った時に使えるソフトウェアが無かったから自分たちで作った、に尽きます。ただ実際には社内で開発されたものがスグに社内で採用されるという保証は無いのです。ですので商用ソフトもオープンソースのソフトも社内で開発されたソフトも一様に評価されたうえで使われます。そういった競争の上でエンジニアたちは鍛えられているという面もあります。
ーーー機械学習に対する期待が大きいのは理解しますが、まだまだ未成熟なのでは?
先ほどロシアの旅客機の爆破のニュースの横に航空券安売りの広告が出てる例を挙げてまだ機械学習は未成熟なのでは?という話がありましたが、そんなのはもう10年も前に解決されている問題で、それが未だに実装されていないのは単にその広告を出している企業の怠慢でしょう。それがすなわち機械学習の限界ということではありませんよ。実際に私個人は機械学習は物凄いイノベーションだと思っています。ですので、世の中のコンピュータサイエンスの本や教科書は全て機械学習の部分を取り入れて書き直されるべきだとまで思っています。それぐらいのインパクトがある発明です。ただ、機械学習されたものをデバッグ出来ないというのは確かにその通りですが、今では強化学習という手法で常にフィードバックを行ってより良い結果を出すというようになっています。
また完全でないからダメだという部分に関しては、例えば機械学習がある処理を行って60%の正解を出したとします。でもその処理自体は人間では同じ量の処理を行うことが実質的にできないとしましょう。その時に「6割の正解率だからダメだ」とするのか、そもそも人間に出来ないモノを6割の正解率でやってくれたから良いとするのか、という問題なのです。人間は人間の失敗には寛容だが機械の失敗には厳しいという側面もありますよね。なのでそれをどういう風にビジネスに応用するのか?という判断が常に必要なのだと思います。
ーーー研究所としては100名の体制で世界5か所に配置されているわけですが、ビジネスの現場との接点はどうなっているのですか?
楽天技術研究所には「Co-Working」という仕組みがありまして、これは実際に現場のビジネスをやっている組織に席をおいてそこで研究をするというものです。これはプロジェクトがあるからその期間だけというものではなくでとにかくそこに席を置いてそこにいる現場の人たちとコミュニケーションを持ちながら研究を進めるというやり方です。こうすることによって実際の現場のことも知りながら、ビジネスにインパクトを与えるようなモノを作ることができるようになると思います。
楽天技術研究所の研究者に言ってるのは、単に作ったものが使われるだけではダメだ、企業の研究所にいる限りはその業務プロセスを改革するまでやりきること、それを目指して欲しいと最初の面接の時にもはっきり言うようにしています。企業の研究所にいるというのはそういうことを意味しているはずですから。
なお、セッションの中では東京大学の松尾豊准教授によるディープラーニングの講義も行われた。AIの進化の歴史、Googleなどによるディープラーニングによるブレイクスルー、そして日本の産業界への適応まで幅広く現時点でのAIの動向を俯瞰する内容で、もう少し突っ込んだ話が聞きたかった気もするが、1000人を超える参加者にはちょうど良い塩梅だったのかもしれない。
楽天技術研究所は象牙の塔の中にある組織ではなく、ビジネスにインパクトを与えるための技術を開発するという理念に基づいていると言い切る森氏によれば、今回のカンファレンスで一区切りつけて来年の10回目、10周年のイベントは全く違うものになる可能性があるという。来年のカンファレンスではどのような技術に楽天が注目するのか、注目したい。
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