DATUM STUDIOが「産学連携」と「AIのビジネス活用」をテーマに「AIアカデミックネットシンポジウム」を初開催!
2017年6月23日、データ解析事業を幅広く展開するDATUM STUDIO株式会社が主催するセミナー「第1回 AIアカデミックネットシンポジウム」が、ハイアットリージェンシー東京エクセレンスシンポジウム会場にて開催された。多くの企業がAIのビジネス活用への取り組みを開始したいと考えるなか、データサイエンティストやディープラーニングのエンジニア不足が問題になっている。この課題を解決するには産学連携が欠かせないが、本シンポジウムでは大学や研究機関から多くのスピーカーを招き、多彩なAIの研究内容とビジネス化の接点について考察するセッションを行った。定員100名の会場を埋めた参加者は、熱心に耳を傾けていた。
通常のAIセミナーとは異なるプログラム
最近のAI関連セミナーの傾向としては、今後のビジョンを解説するコンサルや行政系のスピーカーとテクノロジーを解説するアカデミックなスピーカー、そのテクノロジーを導入した成功体験を語る企業系のスピーカーという構成が多い。取り上げられているテクノロジーも、画像認識などのディープラーニングが主流だ。
しかし、「AIアカデミックネットシンポジウム」のプログラム構成は特徴的だった。午後からの開始で、7本の講演と1本の対談が並ぶ高い密度で、スピーカーはほぼ大学に所属する研究者。彼らの専門分野も幅広く、コーパスや量子コンピュータの手法である量子アニーリング、2値化ディープラーニング、コンピュータ将棋のアルゴリズムなど、ひと口にAIと言っても多様なテクノロジーとさまざまな社会との接点があることが理解できた。また、通常のセミナーでは語られないようなビジネス化の失敗体験なども語られた。
これは参加者にとっても有益なことだ。現在、ビジネスにAIを取り入れて業務効率を改善したい、新しい収益源を開拓したいと考える企業は多いだろう。しかし、最初は具体的にどんなテクノロジーをどんな事業に取り入れるべきかのイメージが湧きにくい。さまざまなAIテクノロジーに触れて、それを専門にする研究者を知ることができれば、今後の取り組みについて考えるための重要なヒントになる。
以降では、各講演内容をダイジェストで紹介していく。
「第1回 AIアカデミックネットシンポジウム」のプログラム
- ディープラーニングのビジネス活用事例 浅川伸一(東京女子大学情報処理センター)
- 機械学習の応用研究事例 赤穂昭太郎(産業総合研究所人工知能研究センター)
- 量子アニーリングこれまでとこれから 田中 宗(早稲田大学高等研究所准教授・JSTさきがけ研究者)
- ディープラーニングの学習から実装まで 中原啓貴(東京工業大学工学院准教授)
- 対談 ビジネスアナリティクスとAI 渋谷直正(日本航空アナリスト)×里 洋平(DATUMSTUDIO取締役)
- コンピュータ将棋を背景とするAI発展の歴史 瀧澤武信(早稲田大学 政治経済学術院 教授)
- 「魅力を数値化する」ビジネスコンテツ解析の実例 山崎俊彦(東京大学大学院情報理工学系研究科准教授)
- 人工知能分野の中の自然言語処理 奥村 学(東京工業大学科学技術創成研究院教授)
量子コンピュータから2値ディープラーニングまでの多彩な講演
最初に登壇したのは、東京女子大学情報処理センターの浅川伸一氏。「ディープラーニングのビジネス活用事例」というタイトルで、「常は語られることが少ない失敗例からも学ばねばならない」述べた。例としてAIで意味を扱う際に、言葉を演算可能なベクトルモデルとして扱う「word2vec」による日本でのビジネス利用の失敗を挙げた。7億の単語をデータとして与えると有効な成果を得られるのだが、データの抽出元である日本語のWikipediaのデータボリューム不足から精度が得られなかったためビジネス化が取りやめられた。教師有り学習はこのように多量のデータが必要だが、一方、現在教師なし学習の「敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative Adversarial Networks)」が注目を集めていると紹介した。GANでは1つのニューラルネットワークが複製を行い、もう1つのニューラルネットワークがその成否を見抜くという形で学習が行われる。「最近はGANの論文数が爆発的に増加している」と語った。
続いて、産と学を橋渡しする役割を担う産業技術総合研究所人工知能センターの赤穂昭太郎氏が「機械学習の応用研究事例」と題して、赤穂氏が取り組む機械学習の研究「スパースモデリング」を紹介した。スパースモデリングは少ないデータで全体を明らかにする取り組みで、天文学への応用では少ない望遠鏡データからの巨大なブラックホールの観測や、医学では長い時間がかかる脳ドックの検査時間の短縮などに利用される。「ビッグデータとは対極のディープデータから多くの情報を引き出したい。これは、マーケットシェア分析などに使える」と述べた。自動車のあるブランドから別のブランドへのシェアの流れを短時間の動きと四半期単位の動きを分析することで、データには現れていない移動の内容を分析することが可能だという。Googleのページランキングも同様の方法で分析されているそうだ。
次に登場した早稲田大学高等研究所准教授、JSTさきがけ研究者の田中 宗氏は「量子アニーリングのこれから」と題し、汎用的な量子コンピュータではなく、最小コスト、最大利益を発見するための組み合わせ最適化問題に特化した量子アニーリングの可能性を解説した。量子アニーリングは自然現象の量子ゆらぎを利用して高速な計算を可能にしている。1980年代の日本発祥の理論で、最初の量子アニーリングマシン「D-Wav」eは20年後にカナダで発表され、Googleなどで導入されて一部の問題は1億倍の速さで計算されたという。現在、組み合わせ最適化問題の専用マシンには国内外の企業や研究機関などが多数参入しているところで、次代の量子アニーリングマシンの登場、ソフトやアプリ面での研究の進歩が待たれている。
東京工業大学工学院准教授の中原啓貴氏は「ディープラーニングの学習から実装まで」という演題で、ディープラーニングの2値化について解説した。GPUの能力向上によりディープラーニングの応用拡大が望まれるが、チップの電気使用量と排熱の問題がこの利用促進を阻んでいる。1cm×1cmのチップで17Wの電力が必要で、熱は90℃にも達するため巨大なファンが必要だ。GPUは高温になると処理速度に抑制がかかってしまう。そこでプログラムできる集積回路のFPGA(Field Programmable Gate Array)に2値化して回路数を減らしたニューラルネットワークを入れ込むことで、計算のメモリ量、電力を削減できるという。しかしFPGAは回路設計に時間がかかるため、中原氏が作成中の統合開発ツール「GUINESS」ならGUIでFPGAの回路設計ができるそうだ。デモモデルでディープラーニングを実行したところ2Wの電力で済み、CPUの1000倍、GPUの5倍速いと注目の技術を紹介した。
コンピュータ将棋が採用した多彩なアルゴリズム
コーヒーブレークを挟んで登壇したのは、早稲田大学政治経済学部教授の瀧澤武信氏。瀧澤氏はコンピュータ将棋協会の会長でコンピュータ将棋に関する論文も多い。「コンピュータ将棋を背景とするAI発展の歴史」と題して、まず「コンピュータ将棋の開発は1974年から始まった」と紹介し、「将棋の一局では平均10の226乗の手が考えられる」と解説。コンピュータ将棋の歴史の中でmix-max原理、alpha-beta法、実現確率探索などさまざまな推論技術が採用されてきたことを紹介した。選手権で何度も優勝したBonanzaは教師あり学習で偏微分方程式を解く仕組みだし、今年電王戦で佐藤天彦叡王(第74期名人)を下したPonanzaは教師なし学習を使用している。このようにAIの進歩に伴ってさまざまなアルゴリズムを取り入れたが、コンピュータ将棋が強くなりすぎたため協賛金が集まりにくくなり、ビジネスとしてはうまくいっていないようだ。しかし、さまざまな分析方法を採用してきたコンピュータ将棋の技術は今後、他分野への応用が期待されていると結んだ。
続いて、東京大学大学院情報理工学系研究科准教授の山崎俊彦氏が登場し「『魅力を数値化する』ビジネスコンテンツ解析の実例」というタイトルでセッションを行った。山崎氏が研究するのは「魅力」の定量化だ。一般的に魅力の有無は定量化が難しいが、Tedコンファレンスでは個々のプレゼンが支持されたかどうかを示す「Votes by Audience」という指標があり、この映像の解析と指示指標の相関をディープラーニングで学習することで、魅力的な話し方の要素が判断できるようになると述べた。これを使用してスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのプレゼンがどんなポイントで魅力的なのかを判断するデモを行い、応用としてTVCMが覚えてもらえるかどうかの判断も可能だと述べた。これからのAIはWhatの認識からHow/Whyの定量化に向かうだろうと結んだ。
最後に登壇した東京工業大学科学技術創成研究院教授の奥村学氏は「人工知能分野の中の自然言語処理」というタイトルで、AIで自然言語をどのように理解し、その成果を利用するかを紹介した。基本は情報抽出で、構造化されていないデータから構造化されたデータを構築することだ。人事異動の記事から「誰がいつどの会社を辞めたか」を抽出アーカイブして配信したり、社内で保有するエレベーターの修理日報から修理情報を抽出保存して、Q&Aを作成したりできる。そのほかにもTVでtweetをテロップのように表示する際に自動で重複しないように選択することや、野球のイニング速報の自動生成も可能だ。最近では英作文など記述式答案の自動添削や長文を箇条書きに要約したりなどが可能になりつつあるという。
ゲスト対談:シチズンデータサイエンティストは誕生するか?
順番は異なるが、多くの企業が抱える疑問と今後の取り組みのヒントとなった日本航空のアナリスト渋谷直正氏と、主催のDATUM STUDIO取締役 里洋平氏によるゲスト対談の模様を紹介する。テーマは「ビジネスアナリティクスとAI」。なお、渋谷氏は2014年にデータサイエンティストオブザイヤーを受賞しており、現在日本航空のWeb販売部、1on1マーケグループに所属し、jal.co.jpの解析とリコメンドなどを担当している。
・ビジネスから見たAI里:AIが世間の注目を集めていますが、ビジネスから見たその価値はなんでしょう?
渋谷:日々の単純作業が楽になることと、人間にはわからないことを発見してくれるという2点に期待しています。
里:作業の効率化に使える場面は多いですね。AI利用ではここにビジネスチャンスがあります。
渋谷:そのためには新しい技術を追いかけるよりもマーケッタサイドの着眼が重要です。いまAIブームで、AIを使うことが目的化しています。企業トップからの指令で取り組まれていることが多いのですが、目的と手段が逆転しています。本来解決したい課題が先行するべきで、その一手段としてAIを知っていることが重要です。
里:手段・手法としてどうAIを使用すべきかについては、日ごろ技術とビジネスについて勉強している我々に聞いていただければお役に立てると思います。
里:AIはブラックボックスで計算過程は見えませんが、結果として得られる精度は高い。どちらを重視するかでビジネス利用も変わってきます。
渋谷:ケースバイケースです。私はROIで考えています。90%と70%の精度のシステムがあった場合、マーケティングの利用では結果の数値がダウンしていればその意味を聞かれるため、精度よりも説明力が問われます。もちろん精度も高い方が良いのですが、多くの人に利用されるにはブラックボックスの解消がもう少し進んでくれることが重要です。
里:確かに選択はケースバイケースですよね。社内説得を重視すべきか、中身はよくわからなくても未来予測の精度を求めるのか。データ分析の精度が求められる業務としては需要予測による在庫最適化や、Web構築時の顧客生涯価値の予測などが挙げられます。 ・AIの今後
渋谷:これからの利用は日本航空でもいろいろ模索しているところです。顧客に直接接点となる部分への導入はなかなかハードルが高いのですが、チャットボットにトライしています。しかし、精度には改良の余地があります。AIを育てる、正解を教えるのに工数がかかります。そして、自動応答でお客様にご満足いただけるかという問題もあります。飛行機のオートパイロット技術は進んでいますが、お客様は人間のパイロットが搭乗していない飛行機でもお乗りになるでしょうか? ですから、AIの導入はバックエンドからになると思います。POS、仕入れ、Webデータなどコード化されたデータの分析にAIをExcelの代わりに使用していきます。従来データサイエンティストでなければできなかったデータ分析が一般のビジネスパーソンが進化したツールで分析できるようになる。ガートナーの言うシチズンデータサイエンティストが誕生してくると思います。もちろん、本職のデータサイエンティストがいなくなるわけではありません。分析に詳しくないユーザーの分析を監査・指導する役割が大きくなっていくでしょう。
里:正しい方向性だと思います。私たちの仕事としては、企業の分析チームの立ち上げや研修などのニーズも増えてくると思います。
直接大学教授と対話できる!
レアな機会となった懇親会も盛況
セミナー終了後は、フロアを移動して懇親会が開催された。普段の生活や仕事をしている中では、なかなか大学教授と対話できる機会はないだろう。懇親会では、参加者が積極的に教授陣と対話し、白熱した議論が交わされていた。
また、参加者同士の交流も盛んだった。異業種のAI担当者同士ということもあり、こちらでも積極的な意見交換が行われていた。
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