連載 :
  インタビュー

ZabbixのCEOに訊く、普通の会社が普通じゃない理由

2015年10月2日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

2015年9月に開かれたZabbix Conference 2015の後にZabbixの本社を訪ね、CEOであるアレクセイ・ウラジシェフ氏、日本法人であるZabbix Japan LLCの代表、寺島広大氏にインタビューを行った。

リガからバスで30分程の郊外にあるZabbix本社。こじんまりとした雑居ビルで一階にはリカーショップがある
リガからバスで30分程の郊外にあるZabbix本社。こじんまりとした雑居ビルで一階にはリカーショップがある

まず最初の質問は、ZabbixがいわゆるアメリカなどのIT企業とかなり異なる特異な企業であるその理由だ。今回のカンファレンスでも大げさなプレゼンテーションも無く淡々と次期バージョンの説明を行い、会場からの質問に答え、時に反省し、ユーザーの意見を取り入れる様は大仰な演出が当たり前のIT系カンファレンスとは様子が異なっていた。

ーーーなぜZabbixは普通のアメリカのIT企業のようでは無いのでしょう?

それは私たちが普通の会社だからです(笑)。実際に私たちがやっていることは、良い製品を作る、これだけで、これは創業の時から何も変わっていないのです。毎年の売り上げを報告しなければいけない投資家が居るわけでもありませんし。カンファレンスもいわゆる売り込みを行う場ではありませんし、大げさな演出もありません。ユーザーと出会って意見を聞く、そういう場になっています。いわゆるアメリカのIT企業とは違って、ごく普通の会社なのだと思います。ただ、オープンソースソフトウェアを開発しているという部分が違うのかもしれませんが、逆にオープンソースソフトウェアを開発しているからこそ、ユーザーの声を聞き、意見を交わすスタイルになっているのではと思います。

インタビューに応えてくれたCEOのアレクセイ・ウラジシェフ氏
インタビューに応えてくれたCEOのアレクセイ・ウラジシェフ氏

ーーーそのオープンソースソフトウェアを開発するという部分も少し違っていますよね。Zabbixはコードの開発を100%Zabbix社員が行っています。通常のオープンソースソフトウェアのように外部のコミュニティメンバーが開発したコードを取り入れるということは非常に少ないのではと思いますが、それ何故ですか?

そうです。我々はソフトウェアの品質を非常に重要視しています。コードの書き方やガイドライン、コードを書く際のプロシージャなど社内で設定しているルールに沿った開発を行っています。それによってより品質の高いソフトウェアを開発できると信じています。他のオープンソースソフトウェアにおいても大きなデシジョンメーキングをする際は非常に少人数の人間がその方向性やビジョンに沿って判断を下すことが当たり前だと思いますが、Zabbixの場合はそのチームが我々の社内の人間である、ということなのです。

静かで落ち着いたクリーンなオフィス。これはマーケティング部門のブース
静かで落ち着いたクリーンなオフィス。これはマーケティング部門のブース

ーーー実際にオープンソースソフトウェアとして公開していることでライセンスの売上は無いわけですが、Zabbixの売上のポートフォリオを教えてください。

我々の会社の売上は3つの柱から成り立っています。ひとつはテクニカルサポート。これはレベルが幾つかあり、それによってサポートの内容が異なります。それから有償のトレーニングです。Zabbixの使い方や導入などをユーザーに教えるものになります。またスポンサードデベロップメントというZabbixに機能を追加するための開発を顧客から有償で請け負うものがあります。またコンサルティングなどもありますが、サポート、トレーニング、それからスポンサードデベロップメントが売上の主な構成となります。実際に請け負って開発された機能も全てオープンソースソフトウェアとして公開されます。

ーーーしかし売上に関しては具体的な数字は過去に日本で行われたカンファレンスでもみたことがありません。具体的に日本市場での数値目標みたいなものはあるんでしょうか?

寺島氏:実際には売上などこの数値をゴールにといったものは有りませんね(笑)。しかも国内でダウンロードしてZabbixを使っているユーザーがどれだけいるのかもあまりちゃんと把握できていないので。しかし毎年売上は上がっていますし、ビジネスは拡大しています。日本はいま5名の体制ですが、そろそろセールスやマーケティングなどを増強しようかとは思っています。

左から日本法人代表、寺島広大氏、CEOウラジシェフ氏、日本法人マーケティング担当、寺島友美氏
左から日本法人代表、寺島広大氏、CEOウラジシェフ氏、日本法人マーケティング担当、寺島友美氏

ーーー日本市場に対しての目標は何なのでしょう?

具体的に言えばもっとZabbixの認知度を上げたいとは思っています。これは日本に限った話ではありませんが、まだまだZabbixを知らない企業がいますし、いわゆるソフトウェアだけではなく様々なデバイスのモニタリングにも活用できることが知られていません。カンファレンスの事例でもあったようにヘルスケアのためのデバイスのモニタリングなどまだまだ知られていないと思います。またZabbixと一緒にビジネスを行ってくれるパートナーの開拓も同時に進める必要があると考えています。ZabbixはサーバーなどのITリソースのためのモニタリングソリューションだけではなくもっと応用範囲が広い柔軟なソリューションであるというメッセージを広めたいですね。

過去のイベントの写真などを並べたパネル。日本でのイベントも貼り出されていた
過去のイベントの写真などを並べたパネル。日本でのイベントも貼り出されていた

ーーー今回、アメリカの東海岸、ニューヨークに支社を開きましたが、他の地域、例えば西海岸や中国などに支社を開く予定はありますか?

アメリカは常に魅力的な市場でしたし、東海岸は金融や保険などITに先進的なユーザーが多いので今回、支社を開くことに決めました。ニューヨークだと時差の関係で西海岸よりもサポートがしやすいという側面もありましたし、実際に行く場合も近いんですよね。実際にはユーザーの多いブラジルはどうか?という議論もありましたが、今回はニューヨークということになったわけです。

三つ編みのアゴヒゲにカンニバル・コープスのTシャツのリハーズ・オルプス氏。カンファレンスでは暗号化の解説を担当
三つ編みのアゴヒゲにカンニバル・コープスのTシャツのリハーズ・オルプス氏。カンファレンスでは暗号化の解説を担当

ーーーZabbixが考えるチャレンジ、課題とは何でしょう?何か解決しなければいけない問題がありますか?

このオフィスを見てもらってもわかると思いますが、我々の組織は少人数でやっていることもあってオープンでトランスペアレント(透明)なコミュニケーションを実現できていると思います。ただ、これが日本やニューヨークだけではなくもっと他の地域に拡大した時に今と同じオープンさと透明さを持って仕事を進められるかどうか?に関しては課題になるだろうなとは思っています。

オフィスに貼られている良いデザインを実現するための10の法則
オフィスに貼られている良いデザインを実現するための10の法則

実際にオフィスを訪れてみると乱雑さはあまりなくすっきりとしたたたずまいに静かな空気が流れている感じでほとんど雑音が無いのが特徴的であった。ただし余暇として設けられているピンポン台には過去数年分のトーナメントの結果が残されているなど、リラックスする時には徹底的に行う姿勢が感じられた。

普通の会社でありながら、普通ではないZabbix。来年のカンファレンスに今回の対話の成果が表れるのか、興味深く見守りたい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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