インスペクションとは何か?
インスペクション、レビュー、ウォークスルー
インスペクション、レビュー、ウォークスルー等、呼称がいろいろあります。一方でインスペクションと呼ばれているものが、他方ではレビューと呼ばれていることもあります。インスペクションがもっとも公式で、レビュー、ウォークスルーの順でカジュアルになっていくという点は比較的共通しているようです。
何をもって「公式」とするかは難しいところですが、手順の定義の有無、指摘された欠陥を修正するかどうかの判断、フォローアップ、工程移行の判断材料として利用する等、担当者の判断でボトムアップにやっていくのか、責任者がトップダウンに決めるのか、というあたりが非公式、公式の違いと考えておくと大きくずれないでしょう。
筆者の経験から、それぞれの言葉の示すイメージを伝えると、インスペクションは基本的に欠陥指摘が中心で、議事録の作成方法や欠陥密度の測定項目等が明確に決まっています。また十分経験のあるメンバの参加が前提となり、工程移行審査に使われることもあります。ウォークスルーは作成者が自身の判断でチェックを依頼し、指摘項目を反映するかどうかも作成者が決めます。また、欠陥の指摘だけではなく、よりよい実現方法を検討する点がほかと異なります。レビューはインスペクションとウォークスルーの間に位置づけられることが多く、必ずしも欠陥の指摘のみに限定されないこと、指摘を成果物に反映させるかどうかは、作成者ではなく参加メンバや責任者が決めます。
長期的には名称によって区別しながら効果と限界を明らかにし、対象ソフトウエアやプロジェクトに応じて選択していくことが重要ですが、現時点では名称による区別のみで、形態、効果、限界をすぐに共有するのは難しいため、ご自身が意図している形態、効果(必要であれば限界)を補足しつつ、伝えることをお勧めします。
なお、国際会議に参加している企業の実務者や研究者に立ち話レベルで聞いてみた範囲からわかる海外の事情として、米国やヨーロッパでもインスペクション/レビューの使い分けは明確ではないという意見が多くありました。
レビュー、インスペクションに関連する文献の一覧は次回以降で紹介しますが、IEEE 1028 Software Review and Auditでは、マネジメントレビュー、テクニカルレビュー、インスペクション、ウォークスルー、監査(Audit)が定義されています。何らかの標準を参考にしたい場合には役に立つでしょう。
特集「インスペクションの世界」のねらい
品質向上をテストだけに頼ることは効率的ではなく、インスペクション/レビューのような早い段階で欠陥を指摘する活動や欠陥予防の活動の重要性がさまざまなところで指摘されています。しかし、インスペクション/レビューの効果を底上げするための技法やスムーズな導入にむけた施策等がプロジェクトリーダ、エンジニアの間で十分共有できているとはいえない状況です。
今回の特集は、インスペクション/レビューを広めるため筆者がゲストエディターとして、企画案、構成案を作成し、執筆者へのファーストコンタクトを担当しました。内容は、幅広く、最新動向が含まれるよう留意し、第三者インスペクション、レビュー入門、各社の事例、他事例から学べることを目指しました。
シンポジウム、カンファレンス、学会の研究会をはじめとして、インスペクション/レビューは活発に議論されています。「インスペクション/レビューで言いたいことがある」という方は、ぜひとも、そのようなシンポジウムやカンファレンスでの外部発表をご検討ください。ぜひ一緒にインスペクション/レビュー活動を盛り上げていきましょう。
[参考文献]
Boehm B. W.『Software Engineering Economics』Prentice Hall(発行年:1981)
松村 知子、門田 暁人、森崎 修司、松本 健一、「マルチベンダ情報システム開発における障害修正工数の要因分析」情報処理学会論文誌, Vol.48, No.5, pp.1926-1935(発行年:2007)