見える化と個人情報保護法から考えるCRMの実践手法

2006年3月23日(木)
匠 英一

生産と消費の見える化の関係づくり:トレーサビリティ

運送荷物の位置情報や食品の生産者情報をWebや携帯電話を利用して顧客側に見せるトレーサビリティの仕組みが、2年ほど前から先進的な運送会社や生協などで実験的に実施されている。

現在はまだQRコードによるものだが、コストの面がクリアになれば近くICタグを利用していくことが考えられている。また、教育方面でも携帯で親に 子どもが塾をでたことを自動的に知らせるような実践方法もあり、ICタグの利用は多様なサービスの可能性がでてくるだろう。

このときには、輸送や生産のプロセスが消費者側に「見える化」できるというサービス価値があるわけだが、コストとの関係で高級な商材でないと採算にあわないこと、個人情報にふれるなどのクリアにすべき問題も多い。

生産と消費の見える化の関係づくり:顧客の声

日本のメーカが回復の兆しをみせる中で、注目されてきているのが「顧客の声(VOC:Voce of Customer)」の収集を徹底化し、製品企画・開発部門に顧客の声を活用していくCRMの実践だ。従来はクレームやサポート対策としてのコールセン ター活動、つまりは限定付きのCRMしか実践できていなかった。

現在では生産と消費の連携を一歩進めて、自動のイエローカードのような仕掛けでリアルタイムの企画・改善を全社的に協力しながら推進していくことが できる。また、販売と生産部門の壁を除く組織改革も同時並行で実施するなど「顧客の声」を120%いかしての改善運動が進行しているところに新しいメーカ 型CRMの特徴がある。

従来、メーカ側の従業員は、満足度調査などをどうしても外部のスタッフに任せて、その結果を知るしかなかった。しかし大きく転換するきっかけを作っ たのはネット環境の変化である。商品利用の生情報をWebなど通じて企業側で収集したり、マニュアルの動画化などの工夫をしたりすることで、生産現場と消 費者の双方から直接簡単にやり取りができるようになったことだった。

しかし、単にブロードバンドのITシステム化が進行したのではない点に注意が必要だろう。成功へとつながった企業には、次に述べる「eコミュニティ」という顧客戦略があったのである。

生産と消費の見える化の関係づくり:eコミュニティ

コミュニティという言葉は、E・ヴェンガー著「実践のコミュニティ」で注目され、化粧品の口コミサイト(アットコスメ)、インターネットによる書籍販売(アマゾン)などがeビジネスの成功モデルで知られている。

だが、そもそもeコミュニティがなぜCRMと関係するものなのか。

そのポイントは、顧客・消費者間の相互の情報交換にある。とくに口コミの影響については筆者著の「心理マーケティング」で詳しく述べているが、消費 への意欲・能力は女性の方が男性より大きいことからすると、eコミュニティの成功条件は、まず女性を対象にしたものだといえよう。マーケティング論では ソーシャルネットワークという言葉のほうが好まれるようだが、いわんとすることは同じである(山崎秀夫著「ソーシャルネットワーク・マーケティング」な ど)。

ファンクラブ的なものや会員制のサービス、趣味仲間の集まりなど、形態は様々だが、そこにblogなどが活用されはじめることで、企業の発信する情報とは別に顧客側の本音や感情的な思いなどが表現されることになる。

これを中立的な立場で個別の商品単位で収集してメーカに分析結果を売るというビジネスで成功したのがアットコスメだった。化粧品は使ってみなくては わからない商品であり、しかも自分とよく似た人の使用情報がほしい。すでに100万人近くの会員メンバーがいれば、そうした情報がすぐ得られることで商品 選択の基準を事実上提供していることになる。また星印の数で商品ランクをあらわすなどの工夫をしている映画サイトも多いが、顧客の評価情報を基本にしてい る特徴は同じである。

デジタルハリウッド大学 デジタルコミュニケーション学部 教授

90年に(株)認知科学研究所代表取締役に就任し、以後大手PCベンダーのコンサルティングや国家認定のIT 資格試験の受託開発、サテライトオフィス企画などに従事。95年に(株)ヒューコム入社後、インターネット事業を推進。公的な役職として、ネットワーク協 議会Eビジネス委員会座長、日本インターネット協会幹事等歴任。2003年に早稲田大学客員研究員に就任。2005年にデジタルハリウッド大学 教授に就任。現在CRM協議会の運営や大手ベンダーなどのCRMコンサルティング・研修業務をヒューコム社の主席コンサルタントとして従事。

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