要求仕様書の標準化プロセス

2005年11月9日(水)
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)

概略費用


   要求分析フェーズで重要なのは概略費用を算出することです。意思決定者は、この金額を元にシステム化を行うかどうか、もう少しシステム化範囲を絞って費用削減するかなどの判断を行います。ゴーサインが出ると、予算化してプロジェクトが正式にスタートすることになります。

効果(定性/定量)


   システム化を行うかは投資対効果の観点で判断されます。効果には定性効果と定量効果がありますので、それぞれ分けて記述します。定量効果は数値や金額で表すことのできるものです。事務作業時間を年間1000時間短縮、要員3名削減、印刷用紙10000枚削減、年間保守費用400万円削減などの数値効果を金額換算して書き出します。

   多くの場合、予想される定量効果だけでは投資対効果のバランスが満足しません。それはシステム化にはお金に直接換算しにくい定性効果が大きいからです。例えば、決算書の作成が10日早まるといえば、どの経営者も喜んでくれるでしょう。

   しかし、この効果を金額換算するのは少し難しいでしょう。金額というよりも、企業イメージ向上、投資家に対するサービス向上、経営判断の迅速化という効果が主体だからです。このほかにも、従業員のモチベーション向上、取引先に対するサービス向上、新卒採用時のアピールなどの様々な定性効果が考えられます。


体制図


   この段階では、プロジェクトの体制図に担当者まで入れて記述するのは難しいでしょう。プロジェクト成功のためにどの組織がどのように関与するか、コンサルタント会社や開発会社などがどのように関わるかなどを組織主体の体制図とし、プロジェクトのゴーサインが出たときに具体的な担当者を決定してプロジェクトをスタートします。


概略スケジュール


   要件定義では納期を決めなければなりません。やるとなったらできるだけ早くというのがユーザの希望でしょうが、実現可能な納期でなければスタート前から失敗プロジェクトとなります。概略スケジュールを書いて、どのくらいの開発期間が必要かを判断し、経営ニーズと照らし合わせて納期を決定します。


まとめ


   業務システムの開発効率を高めるために、開発ドキュメントの標準を定める必要性はどの会社も感じている課題です。しかし開発言語や開発手法が多様化し、次々と新しい技術が出現する中で全社的な標準を作成し、それをメンテナンスしていくのはかなり困難な作業です。だからといって何もしないままでは、いつまでたってもソフトウェア業界は旧態依然のままといわれ続けます。

   本連載で紹介したように、ソフトウェア開発においても業界標準規約はあります。しかし標準規約は抽象的、網羅的なのでそのままでは現場で使えません。そこで弊社では、実践的なドキュメント標準「DUNGEON」を作成して利用しています。8回の連載で、要求分析から総合テストまでに必要となる一連のドキュメントを紹介しました。これらがみなさんの生産性向上に少しでも参考になることを願っています。

著者
梅田 弘之(うめだ ひろゆき)
株式会社システムインテグレータ

東芝、SCSKを経て1995年に株式会社システムインテグレータを設立し、現在、代表取締役社長。2006年東証マザーズ、2014年東証第一部、2019年東証スタンダード上場。

前職で日本最初のERP「ProActive」を作った後に独立し、日本初のECパッケージ「SI Web Shopping」や開発支援ツール「SI Object Browser」を開発。日本初のWebベースのERP「GRANDIT」をコンソーシアム方式で開発し、統合型プロジェクト管理システム「SI Object Browser PM」など、独創的なアイデアの製品を次々とリリース。

主な著書に「Oracle8入門」シリーズや「SQL Server7.0徹底入門」、「実践SQL」などのRDBMS系、「グラス片手にデータベース設計入門」シリーズや「パッケージから学ぶ4大分野の業務知識」などの業務知識系、「実践!プロジェクト管理入門」シリーズ、「統合型プロジェクト管理のススメ」などのプロジェクト管理系、最近ではThink ITの連載をまとめた「これからのSIerの話をしよう」「エンジニアなら知っておきたいAIのキホン」「エンジニアなら知っておきたい システム設計とドキュメント」を刊行。

「日本のITの近代化」と「日本のITを世界に」の2つのテーマをライフワークに掲げている。

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