オープンソースERP「Adempiere」の概要

2011年1月17日(月)
久保田 大輔

はじめに

はじめまして。この連載では、オープンソースのERPである、Adempiereについて解説します。第1回は、概要の説明です。2回目以降は、Adempiereのインストール方法や操作方法、開発方法などについて説明する予定です。

オープンソースERP

オープンソースERPというものが存在していることをご存じでしょうか。IT業界にいる方なら、"オープンソース"という単語や"ERP"という単語を一度は聞いたことがあると思います。実際にオープンソースのソフトウエアを使って開発していたり、ERPの導入プロジェクトにかかわっていたりする人もいると思います。

しかし、"オープンソース"と"ERP"という2つの単語を組み合わせた、"オープンソースERP"となると、そのようなソフトウエアがあることを知っている人は少ないのではないでしょうか。

専門家の方に対しては説明は不要だと思いますが、まずは念のため"オープンソース"と"ERP"について簡単な説明をします。

オープンソース

オープンソースとは、簡単に言うと、ソフトウエアの設計図とも言えるソース・コードが公開されているソフトウエアのことです。

ソース・コードが公開されていることにより、誰でもソフトウエアのバグ修正や機能追加を行うことができます。ソース・コードから実行ファイルを作れるので、利用するためのライセンス料は基本的にかかりません。

Adempiereは、GPL(GNU General Public License) Version 2で公開されています。

ERP

"ERP"とは、Enterprise Resource Planing、日本語に直訳すると企業資源計画となります。企業が持っているさまざまな経営資源を管理することを目指したソフトウエアのことです。

"ERP"自体は、手法・概念を意味する言葉で、"ERPパッケージ"がERPを実現するためのソフトウエアです。簡単に言うと、業務管理ソフトウエアのことです。企業の情報を一元化して管理することにより、業務ごとに個別にシステムを動かす場合と比べて、重複や不整合を無くすことができます。

Adempiereは、中小企業向けのERPパッケージです。現時点では、まだすべての情報を管理できるほどの機能はないのですが、主要な業務管理機能は実装されています。

Adempiereとは

Adempiereは、2006年9月にオープンソースERPのCompiereから分岐して発足したオープンソースERPのプロジェクトです。Java言語で書かれていて、データベースにはOracleとPostgreSQLを使うことができます。

販売管理、購買管理、取引先管理、在庫管理、請求支払管理、会計処理、ワークフローなどの機能があります。これらの機能は、連載第3回と第4回で詳しく紹介する予定です。

Adempiereは、Compiereから分岐したプロジェクトですが、分岐した後は、独自に開発が行われています。Adempiere独自の機能としては、PostgreSQLへの対応や、ZKというAjaxフレームワークを利用したWebベースのUIなどがあります。

また、バグ修正や小規模な機能の実装など、1500件以上の修正が行われました(修正内容は、SourceForgeのAdempiere配布/開発ページにあるプロジェクトのBug Trackerで確認できます)。

現在も開発は継続的に行われています。MRP(Material Requirements Planning、資材所要量計画)の機能は、アルファ版ですが、Libero MRPというモジュールがあります。

最近注目の機能追加としては、ブルガリアのTrifon Trifonov氏の手によるMySQLへの対応です。MySQL対応は、まだ安定版とは言えないですが、このような機能追加が日々行われています。

図1: Adempiereにログインした直後の画面(クリックで拡大)

Adempiereの内部構造(Application Dictionary)

Adempiereは、CompiereからApplication Dictionaryと呼ばれる仕組みを引き継いでいます。これは、Adempiereのメニューやウインドウ、ウインドウ内のタブやフィールドなどをプログラムに直接書くのではなく、データベース内に保存して、それらのデータを基に画面を描画する仕組みです。

Application Dictionaryは、システム権限でログインすれば変更できるので、データの追加と保存ができる単純なウインドウなら、ソース・コードの修正をすることなく数分で作成できます。

また、非定型的なフォームやプロセスなどもApplication Dictionaryで管理できます。ただし、フォームやプロセスを作るにはコーディングが必要です。実際の作成手順は、この連載で説明する予定です(adempiere.jpにも簡単な説明があります)。

Adempiereプロジェクトについて(海外の状況)

Adempiereの開発はSourceForgeのAdempiere配布/開発ページで行われています。主要な開発メンバーは、マレーシア、ブルガリア、ドイツ、メキシコ、コロンビア、アメリカ合衆国などにいて、さまざまな国の開発者が世界中から参加しています。

本家Adempiereでは、コミュニケーションには主に英語が使われていますが、英語が母国語でない人もプロジェクトの掲示板に書き込みをしています。日本人でsourceforge.netのAdempiereプロジェクトに本格的に参加している人は、まだいない状態です。

掲示板への書き込みなら、実際の会話と比べれば、どちらかというと日本人向きと思いますので、英語が得意な方は、ぜひ本家Adempiereに参加してください。

日本の状況

Adempiereプロジェクトが発足したのは2006年9月ごろですが、2006年から数年間は、日本での活動はほとんど行われてきませんでした。しかし、2010年になってからは、東京で勉強会を行うなど、少しずつ参加者が増えてきています(前回の第5回勉強会は参加者が10名でした。参加者が一番多かったのは、第3回の15名です)。

導入支援サービスの提供と開発を行っている企業もあります。勉強会は、これからも定期的に開催する予定ですので、興味がある方はぜひ参加してください。

adempiere.jp

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