GitHub Universe 2023、MSのCEOもサプライズで登壇した初日のキーノートを紹介
2023年11月8日と9日の両日、GitHubの年次カンファレンスGitHub Universe 2023がサンフランシスコで開催された。2日間に行われたプログラムの中から、初日の最初のキーノートセッションを紹介する。約45分間のプレゼンテーションはCEOであるThomas Dohmke氏によるプレゼンテーション、コードを書く部分にAIを使うデモ、テストやドキュメントなどへのAIの応用、そしてユースケースであるアクセンチュアを紹介する動画などを混ぜて練られた構成となっている。特に最後の部分でMicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏を招いてソフトウェア開発におけるAIの活用についてコメントを求めるなど、GitHubにとってもっともアピールしたいポイントがAIであることが強調されたキーノートとなった。
●動画:GitHub Universe 2023 opening keynote- Copilot in the Age of AI
IT系のイベントのキーノートで開始前にDJが盛り上げてレーザーライトとスモークマシンが使われることがしっくり来るのはGitHubくらいだろう。
登壇したCEOのThomas Dohmke氏は、今回の主題であるAIについて2020年の研究論文を引用して、「AIを使ってペアプログラミングの相手とすることは可能か?」という命題を紹介。その上で「GitHubはそれが可能だと信じるに至った、その結果を今日発表する」というのが起承転結で言うところの「起」である。
この論文はGitHub社内で「Coding Oracle Paper」と呼ばれているもので、経験の深い30名のエンジニアから提示された233の要件仕様について、93%についてはAIによって生成されたコードが正しかったという。このことはDohmke氏がAIを主軸にしてGitHubを進化させるというきっかけになったという。
そしてCopilotはすでにAIを使った開発のためのツールとしてもっとも業界に受け入れられているとして、利用しているユーザーのロゴを載せたスライドを見せ、その拡大を強調した。
そして目指すのは単なるコードを書く補助ツールではなく、AIを活用したデベロッパープラットフォームであるとしてステージを後にした。
次に登壇したのはAllison Weins氏。ここからGitHub Copilot Chatの解説とデモに移った。
デモはGitHubのAPIを使ってGitHubユーザーが最初に行ったコミットをプロファイルとともに表示するという簡単なアプリケーションだ。途中まで開発したアプリに修正を加えていくという内容で、CEOのThomas Dohmke氏のデータを用いてCopilotの助けを借りながらコードを修正し、最終的に完成させるところまでを見せた。
ちなみに題材となったMyfirstcommit.comは実際にサイトとして稼働しているので、以下から自身のIDで実行してみて欲しい。
●参考:https://myfirstcommit.com/
この機能はVisual Studio CodeだけではなくVisual Studioでも利用可能であることが発表された。同時にスマートフォンのアプリケーションからも実行できることも発表された。デモではチャット画面だけではなくコードの編集画面から直接Copilotを呼び出してコードを生成させ、即座にソースコードに反映させることもできる使い勝手の良さを強調していた。
そして2023年12月にはGAとして全ユーザーに機能が解放され利用可能になると説明した。
次に登壇したKedasha Kerr氏はコード生成だけではなくデベロッパーが作る単体テストコード、書いたコードの概要を書く部分にもAIを応用できることをデモで紹介。ここで単に要件仕様に沿ってコードを生成するだけではなくそのコードのテスト、そして書いたコードに対する説明文を生成するというプログラマーからみればめんどうなタスクについてもAIが使えることを解説した。
そしてgithub.comにおいても同じ機能が利用可能になることも合わせて説明した。これはGitHub上でオープンソースソフトウェアの開発を行っているコミュニティにとっては朗報だろう。
細かい機能強化では、github.comにおけるコードの脆弱性判定だけではなく修正内容も提示してくれること、シークレットスキャンニング機能についてもベンダー独自の体系で作成されるAPIキーなどのマッチングのための正規表現のコードを生成してくれるなど、デベロッパーがめんどうと思う部分にもAIを応用していることを解説した。
その後に登壇したのはColin Merkel氏だ。Merkel氏はユーザーIDのスイッチがワンクリックで可能になったことを最初に説明し、業務とプライベートでIDを使い分ける必要がある多くのオープンソースコントリビュータからの要望に応えたことを示した。
単にGPT-4を使ってコードを生成するだけではなく、企業が持つ個別のデータを使ってカスタマイズできることを示すためにURLの短縮機能を例に挙げて解説。ここでは一般的なURL短縮のためのライブラリーを使ったコードとGitHub社内で使われている専用のURL短縮ライブラリーのリポジトリーを追加して生成することで、同じ機能要件であっても違うコードが生成可能であることを実演して見せた。
またコード生成だけではなく、企業が利用するさまざまなCI/CDやモニタリングなどの外部ツールとの連携によってソフトウェア開発の全工程においてAIが使えるようになるとして、Copilotのパートナープログラムを紹介。New RelicやLaunchDarklyに混ざってRed Hatもパートナーとなっているのがわかる。
ここでCopilotを先行して導入したアクセンチュアの動画を見せ、5万人のデベロッパーが毎日、Copilotを使ってコードを書いていることが解説された。
そして再度、Thomas Dohmke氏が登壇。ここから新しいCopilotの価格を発表するフェーズとなった。
すでに公式サイトでは組織向けとしてCopilot Businessが月額19ドル、Copilot Enterpriseが2024年2月からという注意書き付きで月額39ドル、個人向けが月額10ドル、1年一括支払いで100ドルという価格になることが発表された。
起承転結で言えば「起承結」までが終わった型になるが、「転」つまりサプライズとして呼び入れたのがMicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏だ。
Nadella氏はGitHubを買収した5年前からMicrosoftがGitHubの方向性に合わせてデベロッパーフォーカスになってきたこと、これから自然言語によるコード生成が主流になってくること、そしてCopilotが次のIDEになるなどを語った。
そして最後にOne More Thing…というAppleのSteve Jobsの演出を真似て説明したのが、「Copilot Workspace」だ。これがGitHubの次のビジョンであると語ってキーノートを終えた。
ここでCopilot Workspaceを説明した動画が再生された。これはWebサイトの仕様変更を行うという内容だ。具体的にはGitHubのリポジトリーに対するコントリビュータを一覧表示する際にアイコンだけではなくハンドル名を表示する機能を追加したいという要望に対して、Copilotが修正案を提示、そのためのコードを生成するまでを見せた。その後、文字の色を金色にするという修正をマニュアルで追加し、コードをビルド、テストとして実行、コードへのマージまでをCopilotとの会話によって行うというもので、ソフトウェア開発のすべてのプロセスにAIによる支援が可能であるというデモとなった。
その後にメディア向けに補足するためのQ&Aを開催。ここでもAIによるソフトウェア開発の次の姿を強調した形となった。
GitHub Universeで最も伝えたいことを45分に集約し、MicrosoftのCEOを招くことで最大のインパクトを狙った形となったキーノートセッションとなった。この後のセッションはこれを実証するためにさまざまな角度からGitHubのエンジニアが解説を行い、パートナーはその方向性に沿った付加価値を提供するという内容となったと言える。その意味では象徴的なキーノートと言えるだろう。
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