連載 [第2回] :
  Zabbix Summit 2024レポート

Zabbix Summit 2024から満を持して発表されたZabbixCloudの概要を紹介

2025年1月14日(火)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
Zabbix Summit 2024から、満を持して発表されたZabbix Cloudの概要を解説するセッション、およびBrowser Monitoringを説明するセッションを紹介する。

ラトビアの首都リガで開催されたZabbix Summit 2024から、初日のキーノートで紹介されたZabbix Cloudを解説するセッションと、もう一つの新機能であるBrowser Monitoringの概要を解説するセッションとを合わせて紹介する。

Zabbix CloudはHead of Productという肩書きを持つDmitrijs Lamberts氏が、Browser MonitoringはテクニカルサポートエンジニアのAleksandrs Petrovs-Gavrilovs氏が、それぞれプレゼンテーションを担当した。どちらもラトビア在住のZabbix社員だ。

Zabbix Cloud

Zabbix Cloudを解説するLamberts氏

Zabbix Cloudを解説するLamberts氏

Zabbixの運用におけるバージョンアップやパッチなどのメンテナンスの手間をゼロにできることが、Zabbix Cloudの最大のセールスポイントだ。また7段階の価格帯、5つのリージョンからスタートすることもAlexei Vladishev氏からは告知されていたが、それをさらに繰り返し説明した。このスライドでは無制限のメトリクスが収集できることが挙げられているが、メトリクスのためのデータストレージについてサイズに応じて課金されることは明記されておらず、やや説明不足と言えるだろう。

SaaSとして提供されるZabbix Cloudの利点を紹介

SaaSとして提供されるZabbix Cloudの利点を紹介

Zabbixのサーバーやさまざまなコンポーネントに対する運用管理の工数は不要となり、コンポーネントのアップグレードやパッチ適用についてはZabbixが責任を持って実行するという。またZabbix自体のバックアップも自動でスケジューリングされ、規模を拡大したい場合も必要に応じてコンソールから実行できるという。

Zabbix CloudのWebサイトからパラメータを入れるだけで必要なサイズを選択可能

Zabbix CloudのWebサイトからパラメータを入れるだけで必要なサイズを選択可能

この例ではZabbixクラスターの名前を決め、リージョンを選択し、監視するアイテム数と監視データ取得のインターバルから算出されるNVPS(New Value Per Second)のレベルを選択している。ここでは、Nanoと称される最小の構成では毎月$50のコストでZabbixのインスタンスを実行できる例が紹介されている。ノードの構成や拡張についても即座に変更が可能になっている部分は、いかにもクラウドサービスという感じだろう。

ストレージを拡大することでスケールアップも可能

ストレージを拡大することでスケールアップも可能

Zabbix本体のバージョンについてはメジャーなバージョンアップは必須となっているが、状況に併せてタイミングを調整することは可能だと説明した。

バージョンアップは必須だが、タイミングは調整可能

バージョンアップは必須だが、タイミングは調整可能

またテクニカルサポートについてはZabbix Cloudに関する説明のみと限定され、Zabbix本体に関する質問などは別途契約が必要だと説明した。ここにもZabbixの企業としての正直さが現れていると思われる。

テクニカルサポートはクラウドの部分のみに限定。本体に関する質問は別扱い

テクニカルサポートはクラウドの部分のみに限定。本体に関する質問は別扱い

クラウドサービスということで、多種多様な顧客の監視データがサーバー上で相乗りする形式ではなく、完全に分離されたインフラストラクチャーの上に実装されることも強調された。この点はセキュリティの観点から十分に気を遣っているようだ。

Zabbixのインスタンスは完全に分離した形式で実装される

Zabbixのインスタンスは完全に分離した形式で実装される

またクラウド上のサーバーに対するユーザーの特権を制限する内容も解説された。リモートコマンドの実行ができないこと、データベースの接続もODBC経由でMySQL、PostgreSQL限定、外部スクリプトの禁止などが説明された。

クラウド上の実装に伴う制限事項

クラウド上の実装に伴う制限事項

最後にロードマップとして今後の予定を解説。パートナー経由でリセールできるようにすること、オンプレミスのZabbixからのマイグレーション、長期の利用を確約した顧客に対する価格の設定、そしてZabbix Cloudに対する監査報告機能などが挙げられた。

Vladioshev氏へのインタビューでは「5年前に構想だけは発表していたサービスだが、完全に内容を確定してからサービスを提供するより、ユーザーの『使いたい』という声に応えてまだ未完成の部分(機能ではなくビジネス上の仕組み)があってもまずは公開し、使ってもらいながらサービスを良くしていきたい」というコメントもあった。ここでもまじめに顧客の要望に応えつつ、未完成な部分についてはフィードバックに合わせて修正していくというクラウドらしいソフトウェアを目指すという発想が活きている内容だと言える。

Zabbix Cloudのロードマップ

Zabbix Cloudのロードマップ

すでにZabbixのサイトには簡単に監視対象数とメトリクス数、監視のインターバル、さらにストレージサイズを入れるだけで最適な価格帯を選択できるカルキュレーターが用意されている。

構成から大まかな価格帯を知ることができるカルキュレーター

構成から大まかな価格帯を知ることができるカルキュレーター

これは以下のURLからアクセス可能だ。

●参考:Try Zabbix Cloud today

Browser Monitoring

次に行われたセッションではBrowser Monitoringが解説された。

ブラウザーの動作をアプリケーションから再現することでモニタリングを行う機能

ブラウザーの動作をアプリケーションから再現することでモニタリングを行う機能

その定義については「Browser Monitoring」または「Browser Synthetic Monitoring」という名称が使われているように、WebサイトはWebアプリケーションの性能をユーザーが行うアクションを合成してその性能を計測するというものだ。ユーザーネーム、パスワード、ログインボタン、購入ボタンなどのECサイトなどでは良く使われるコンポーネントをモニタリング側のツールが解析し、それをアプリケーションから操作、ブラウザーに反応が返ってくるまで計測することでモニタリングを行うという方法だ。

Webサイトをスクレイピングしてプログラムから操作する発想

Webサイトをスクレイピングしてプログラムから操作する発想

Browser Monitoringには単一のURLに対してその反応や表示速度などを計測する方法から、クリックパスと呼ばれるユーザーの行為をそのままシミュレーションしてブラウザーを操作し、その速度を計測する方法、モバイルからのアクセスをシミュレーションして計測する方法、HTTP(S)のリクエストを発行してその反応から死活管理を行うなどの方法が例として挙げられた。

Browser Monitoringの利用方法の例

Browser Monitoringの利用方法の例

この機能の実装にはZabbixサーバーまたはProxy 7.0以上、WebDriver、ヘッドレスのWebブラウザが必要要件として挙げられている。

Browser Monitoringの必要要件

Browser Monitoringの必要要件

またサーバー側にも新しい構成が必要であると説明。WebDriverURLとStartBrowserPollersがそれに当たると説明した。

Browser Monitoringの利用には新しいコンポーネントを追加が必要

Browser Monitoringの利用には新しいコンポーネントを追加が必要

ブラウザーを使って性能測定だけではなく、エラーなどの事象を確実にログとして残すためにスクリーンショットを取得する機能も用意された。

大きなサイズでのスクリーンショットをプログラムから取得することが可能に

大きなサイズでのスクリーンショットをプログラムから取得することが可能に

ブラウザー上のオブジェクトを操作することでブラウザーに表示された要素を認識、クッキーの認識やアラートの処理なども可能になるという。結果としてユーザーがセッションの中で遭遇するエラーやパフォーマンスデータの取得が可能になるという。

ブラウザーに表示されるオブジェクト、エレメントの操作によってモニタリングを実行

ブラウザーに表示されるオブジェクト、エレメントの操作によってモニタリングを実行

より詳細なメソッドに関する解説

より詳細なメソッドに関する解説

各種サイトからのデータをプログラムで収集するスクレイピングと同じ発想及び手法だが、データそのものを取得するのではなくそのデータが処理される性能を計測するというのが目的となる。単にデータを抜き取るスクレイピングとは違うというのがZabbix側の言い分だろう。その目的と手法については、社内のビジネス部門と予め合意を取っておく必要があるだろうし、ブラウザー側の仕様変更やデザインの更新時には追従していく必要はあるだろう。しかし、原始的ではあるもののWebサイトの構築言語やフレームワークなどに依存せずにできるというのが選択理由だろうか。この機能がどの程度、ユーザーに受け入れられるのかは注目していきたい。

スクレイピングをアプリケーションから実行して性能測定を実施

スクレイピングをアプリケーションから実行して性能測定を実施

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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