Zabbix Summit 2024から満を持して発表されたZabbixCloudの概要を紹介
ラトビアの首都リガで開催されたZabbix Summit 2024から、初日のキーノートで紹介されたZabbix Cloudを解説するセッションと、もう一つの新機能であるBrowser Monitoringの概要を解説するセッションとを合わせて紹介する。
Zabbix CloudはHead of Productという肩書きを持つDmitrijs Lamberts氏が、Browser MonitoringはテクニカルサポートエンジニアのAleksandrs Petrovs-Gavrilovs氏が、それぞれプレゼンテーションを担当した。どちらもラトビア在住のZabbix社員だ。
Zabbix Cloud
Zabbixの運用におけるバージョンアップやパッチなどのメンテナンスの手間をゼロにできることが、Zabbix Cloudの最大のセールスポイントだ。また7段階の価格帯、5つのリージョンからスタートすることもAlexei Vladishev氏からは告知されていたが、それをさらに繰り返し説明した。このスライドでは無制限のメトリクスが収集できることが挙げられているが、メトリクスのためのデータストレージについてサイズに応じて課金されることは明記されておらず、やや説明不足と言えるだろう。
Zabbixのサーバーやさまざまなコンポーネントに対する運用管理の工数は不要となり、コンポーネントのアップグレードやパッチ適用についてはZabbixが責任を持って実行するという。またZabbix自体のバックアップも自動でスケジューリングされ、規模を拡大したい場合も必要に応じてコンソールから実行できるという。
この例ではZabbixクラスターの名前を決め、リージョンを選択し、監視するアイテム数と監視データ取得のインターバルから算出されるNVPS(New Value Per Second)のレベルを選択している。ここでは、Nanoと称される最小の構成では毎月$50のコストでZabbixのインスタンスを実行できる例が紹介されている。ノードの構成や拡張についても即座に変更が可能になっている部分は、いかにもクラウドサービスという感じだろう。
Zabbix本体のバージョンについてはメジャーなバージョンアップは必須となっているが、状況に併せてタイミングを調整することは可能だと説明した。
またテクニカルサポートについてはZabbix Cloudに関する説明のみと限定され、Zabbix本体に関する質問などは別途契約が必要だと説明した。ここにもZabbixの企業としての正直さが現れていると思われる。
クラウドサービスということで、多種多様な顧客の監視データがサーバー上で相乗りする形式ではなく、完全に分離されたインフラストラクチャーの上に実装されることも強調された。この点はセキュリティの観点から十分に気を遣っているようだ。
またクラウド上のサーバーに対するユーザーの特権を制限する内容も解説された。リモートコマンドの実行ができないこと、データベースの接続もODBC経由でMySQL、PostgreSQL限定、外部スクリプトの禁止などが説明された。
最後にロードマップとして今後の予定を解説。パートナー経由でリセールできるようにすること、オンプレミスのZabbixからのマイグレーション、長期の利用を確約した顧客に対する価格の設定、そしてZabbix Cloudに対する監査報告機能などが挙げられた。
Vladioshev氏へのインタビューでは「5年前に構想だけは発表していたサービスだが、完全に内容を確定してからサービスを提供するより、ユーザーの『使いたい』という声に応えてまだ未完成の部分(機能ではなくビジネス上の仕組み)があってもまずは公開し、使ってもらいながらサービスを良くしていきたい」というコメントもあった。ここでもまじめに顧客の要望に応えつつ、未完成な部分についてはフィードバックに合わせて修正していくというクラウドらしいソフトウェアを目指すという発想が活きている内容だと言える。
すでにZabbixのサイトには簡単に監視対象数とメトリクス数、監視のインターバル、さらにストレージサイズを入れるだけで最適な価格帯を選択できるカルキュレーターが用意されている。
これは以下のURLからアクセス可能だ。
Browser Monitoring
次に行われたセッションではBrowser Monitoringが解説された。
その定義については「Browser Monitoring」または「Browser Synthetic Monitoring」という名称が使われているように、WebサイトはWebアプリケーションの性能をユーザーが行うアクションを合成してその性能を計測するというものだ。ユーザーネーム、パスワード、ログインボタン、購入ボタンなどのECサイトなどでは良く使われるコンポーネントをモニタリング側のツールが解析し、それをアプリケーションから操作、ブラウザーに反応が返ってくるまで計測することでモニタリングを行うという方法だ。
Browser Monitoringには単一のURLに対してその反応や表示速度などを計測する方法から、クリックパスと呼ばれるユーザーの行為をそのままシミュレーションしてブラウザーを操作し、その速度を計測する方法、モバイルからのアクセスをシミュレーションして計測する方法、HTTP(S)のリクエストを発行してその反応から死活管理を行うなどの方法が例として挙げられた。
この機能の実装にはZabbixサーバーまたはProxy 7.0以上、WebDriver、ヘッドレスのWebブラウザが必要要件として挙げられている。
またサーバー側にも新しい構成が必要であると説明。WebDriverURLとStartBrowserPollersがそれに当たると説明した。
ブラウザーを使って性能測定だけではなく、エラーなどの事象を確実にログとして残すためにスクリーンショットを取得する機能も用意された。
ブラウザー上のオブジェクトを操作することでブラウザーに表示された要素を認識、クッキーの認識やアラートの処理なども可能になるという。結果としてユーザーがセッションの中で遭遇するエラーやパフォーマンスデータの取得が可能になるという。
各種サイトからのデータをプログラムで収集するスクレイピングと同じ発想及び手法だが、データそのものを取得するのではなくそのデータが処理される性能を計測するというのが目的となる。単にデータを抜き取るスクレイピングとは違うというのがZabbix側の言い分だろう。その目的と手法については、社内のビジネス部門と予め合意を取っておく必要があるだろうし、ブラウザー側の仕様変更やデザインの更新時には追従していく必要はあるだろう。しかし、原始的ではあるもののWebサイトの構築言語やフレームワークなどに依存せずにできるというのが選択理由だろうか。この機能がどの程度、ユーザーに受け入れられるのかは注目していきたい。
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