現実のネット設計はこう違う
机上計算と現実のネット設計の違い
これまで3回にわたって、主に技術の側面からネットワーク設計/構築の現場ノウハウを解説してきました。最終回となる今回は、技術面に加えて、エンジニアやSI企業の立場からユーザーへの提案(プレゼンテーション)はどうあるべきなのかをクローズ・アップします。
まず、ネットワークの設計段階で注意したいポイントは、ネットワーク機器の選定です。この際に、機器のスペックを読んで理解できなければなりません。機器の選定にはスペックを調べて検討する必要があるからです。
例えば、ロード・バランサや各種スイッチでは、GbpsやMbpsというスペックを目にします。bps(Bits Per Second)は、1秒間に数値あたりのデータを転送できるという目安になります。1Gbpsという表記は、1000Mbpsと同じです。SDカードやUSBメモリのデータ転送量の場合には、1Gbpsを1024Mbpsのファイル転送量として計算しているケースがあり、注意が必要です。
サーバーやロード・バランサなどではTPS(Transaction Per Second)という単位も目にします。これは、1秒間に処理することが可能なトランザクション数となります。トランザクションとは、データベース・サーバーやプログラミングではよく耳にしますが、複数の命令や制御(ここでは複数の通信)を1つにまとめ、そのまとまった1単位で成功失敗を判断する技術となります。
簡単に言うと、ロード・バランサなどでは、SSLの同時処理が可能な数を表現する場面でTPSが使われます。FW(ファイア・ウォール)機器であれば、VPNのトンネル数や同時セッション数といった機器の計測値がTPSで表記されます。もちろん、TPSも単位が大きければ大きいほどよく、限界値が上であることを意味しています。
カタログ数値はあくまでも参考値
これらの数値は「カタログ・スペック」であり、さまざまなベンダーが最も良い条件で計測を行った結果です。つまり、ある意味「車の燃費」と同じです。燃費は、気候や路面状態、アクセル開度から、タイヤの条件までが最高の状態で車を走らせた場合の算出数値です。カタログ・スペックは、これに似ています。
ネットワーク機器では単体での動作で調査しているものも多く、多数のVLANを収容した状態での計測、特定ファームウエアを用いた計測、MACアドレス・テーブルが少ない状態での計測だったりします。ロード・バランサの場合は、1個のクラスタでNATバランシングを行うなど最もパフォーマンスが出る状況下での限界値(の場合がある)を表記しているということを理解しておきましょう。
物理的な要因が性能に影響を与える
また、物理的な要因から影響を受けることにより、机上計算では簡単に答えが出ないこともあります(図1)。
まず、性能問題です。ネットワーク/サーバー機器は、機器を収容するラックの種類や設置状態によって性能が変化します。特に、空調(空気の流れ)は重要です。あらかじめ、個々の機器がどこから風を取り込み、どこから排気/放熱する仕組みになっているのかを理解しておく必要があります。
空気の流れを理解することで、ラックにすき間なく詰め込めるのか、空きスペースを作る必要があるのか、向きはどうするのか、など、ラック設計の方針が固まります。ラックの収容効率はデータセンター運用の月額費用に直結する問題として、よく考えておかなければなりません。
次に、相性問題もあります。機器の組み合わせや選定においては、性能や設計以上に「実績」が重要なポイントとなります。ネットワーク機器同士の相性や、各種サーバーのNIC(ネットワーク・カード)とのネゴシエーション問題などは、情報が少ないです。同一メーカーの機器同士でも、製造年やファームウエアなどで不具合が発生することがあります。
机上計算は、すべての要件を把握した前提に立てば、正確な数値を出すことができます。しかし、1ラックあたりにどれだけの電力使用が許されているのか、ケーブルはどのくらいの太さでどの程度曲げることができるのか(ケーブル・テンションと距離)といった物理的な条件も併せて算出基礎としなければ、最終的なコストは導き出せません。
このように、少し挙げただけでも、現場での利用状況と見積時の机上計算では、大きな差異が発生しやすい傾向にあります。実際に現場での経験/実績数が多いエンジニアが、さまざまな観点から考慮し、運用管理コストまでを含めて把握することで、初めてプロフェッショナルな提案が可能になります。
次ページからは、実際のネットワーク設計で注意すべき具体的なポイントを解説します。