データ・モデリングでビジネスと向き合う

2010年10月7日(木)
松田 安弘

データ・モデリングをいつ実施するのか

データ・モデリングは、システム開発工程における、どの段階で実施するべきでしょうか。開発工程と照らし合わせながら、見ていきましょう。

システム構築には、大きく分けて、企画、開発、実装、運用という4つのフェーズがあります。データ・モデリングは、このうち、データベースへの実装/運用フェーズよりも前段階である、企画/開発フェーズで行います。

まず、企画フェーズにおいて、ビジネスで利用するデータを、漏れなく洗い出します。こうして、データとビジネスの間の、流れと関係を、ざっくりとモデル化しておきます(概念データ・モデリング)。

次に、開発フェーズの前半、基本設計/詳細設計の段階で、ビジネスのルールに合わせてデータを整理/統合したモデルを作成します(論理データ・モデリング)。さらに、論理データ・モデルをベースに、実装しても問題が発生しないように調整し直します(物理データ・モデリング)。

データベースの実装に関わっている方には馴染みが深い、テーブル、インデックス、テーブル・スペースといった物理的な格納構造の設計は、いわゆる「物理データ・モデリング」です。この青写真である「論理データ・モデリング」を、その前段階で行わなければなりません。

図5: 開発工程とデータ・モデリング(クリックで拡大)

データ・モデリングは「どう作るのか」ではなく「何を作るのか」が大事

3つのデータ・モデリング、すなわち、(1)概念データ・モデリング、(2)論理データ・モデリング、(3)物理データ・モデリングについて補足します。

(1)概念データ・モデリング

システム開発では、システムの企画段階で、「システム化の対象範囲」を決めます。しかし、業務の流れを可視化する「業務フロー」を見ても、データの流れまでは分かりません。ここで、概念データ・モデリングを使います。

概念データ・モデリングでは、システムの企画段階で、システム化の対象範囲にあるデータの発生から行き先までを図式化します。業務とデータの流れなど、業務フローでは把握できない情報を、全体的に俯瞰(ふかん)できるようになります。

(2)論理データ・モデリング

論理データ・モデリングでは、概念モデリングで作成した概念データ・モデルをベースに、システム化の対象範囲にあるデータを、細かく整理します。

具体的には、データを整理し(正規化)、重複を排除し(最適化)、誰でも使えるように項目を直し(一般化)、さらに、将来的なビジネスの変化に迅速に対応できるように「安定化検証」を行います。

論理データ・モデリングで重要なことは、概念データ・モデリングと同様に、ビジネスの視点でデータを整理することです。ビジネスがどう転んでも対応できるように、シンプルなデータ構造にすることも重要です。

(3)物理データ・モデリング

物理データ・モデリングでは、「きれいにデータを構造化しても、結局動かないのではしょうがない」という"システムの視点"に立って、処理効率などを考慮し、データ・モデルを調節します。

いずれにしても、設計/開発の段階で、データ・モデリングを活用し、揺るぐことのない、将来の変更にも柔軟に対応できるデータ構造を作っておくことが重要です。こうすることで、システム開発時の生産性だけでなく、保守時の生産性が劇的に高まります。これは、システムの価値が向上するということに他なりません。

今回は、データ・モデリングの概要を、ざっと説明しました。次回は、論理データ・モデリングの中でも一番重要な、データ整理フェーズである「正規化」に焦点を当てます。一般的な正規化技法を紹介するとともに、誰がやっても同じ品質のデータ・モデルを短時間で作れる技法として、アシストが提唱するモデリング技法「正規化簡便法*1」を紹介します。

  • [*1] アシストが開発した4つのモデリング・メソッド「Tetra-Method」に基付いた正規化手法。株式会社SDIの佐藤正美氏によるTM(T字形ER手法)を参考にしている。

データ・モデリングに限らず、ビジネス(会社の仕組み)をよく理解した上で、ユーザーにとって本当に使いやすいシステムを構築できる人材は、非常に貴重です。ビジネスが分かるエンジニアを目指し、お互い頑張りましょう。

株式会社アシスト コンサルティング室 シニア・コンサルタント

データモデリング分野やビジネスモデリング分野のコンサルティングに従事。支援実績は、製造業からサービス業と、顧客の幅と数とも多い。現場主義に徹することとがモットー。最近は、原点に立ち返り、データモデルでビジネスを語ることを現場で訴求している。

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