日本ユニシス「スマートタクシー」に見る、アジャイルによるサービスビジネス開発事例のポイント

2012年9月13日(木)
篠田 健(しのだ たけし)

技術選定と技術概要

方針

前後しますが、ここでは採用技術の選定について述べます。

「スマートタクシー」では、できるだけ既存の仕組みや装置を組み合わせる事で、開発コストの圧縮と一定の品質を確保できるよう工夫しています。

タクシーの端末と配車センターの採用技術

タクシーにはAndroidタブレットを搭載し、クラウド上に配備されたシステムと携帯電話網を介したインターネットを経由して通信します。オペレータ用の端末には開発が容易なWeb画面とし、地図や道路情報を活用したルート検索などは電子地図専門企業が提供するSaaSやアプリケーションを活用しました。それら既存の仕組みをできるだけ活用する事で、初期コストの低減を図り、例えば高速な携帯電話網を活用する事で二次的なビジネスへの発展を模索する事が出来ます。

配車センターの仕組みはRubyおよびRuby on Railsにより開発しました。昨今のWeb周辺技術はOSS主導によるものが増えており、参照できる情報も非常に多いです。

OSSは大規模サイトシステムで多くのプログラマにより練られるように開発されて進化しており、各種の知見や技術が投入されています。Rubyやその周辺技術は、Webシステム開発のための技術が豊富に投入されているOSSのひとつでした。また、言語の表現力の豊かさや「楽しい開発」といった言語コンセプトなどから開発者マインドを柔軟にする効能もありました。

タクシー端末技術概要

タクシー端末(図2)はできるだけ、ITリテラシーが高くない乗務員でも利用できるよう、できるだけ簡便になるようにUIが考慮されています。また安全にも関わるため、ボタンや文字は大きくなるようにデザインされており、各種機能はボタン一つで実行できるような作りにしました。

端末は電子地図、カーナビゲーションシステムと連動しています。GPSの取得情報をカーナビゲーションシステムにより、道路情報を考慮した形で補正され、サーバーに定期的に送信しています。

端末の動作条件は一般的なコンピュータよりも悪く、誤操作や予測不能な原因による電源断、天候やビル間の通信状況の悪化などによって通信が必ずしも安定しません。そのため、ステータスなどはできるだけ端末で持つのではなく、サーバー側で管理するようにし、通信状況の回復を待って端末を復元するようにしています。

また、いわゆる「パケット使い放題」のサービスはコストが高くなるために利用しにくいのが現状です。従量課金でできるだけ安価に通信できるよう、通信内容は絞った形となるように通信プロトコルを設計しました。

図2:タクシーに搭載されたAndroidタブレットで見るスマートタクシーの画面

サーバー技術概要

乗客からの電話は、自動的に電話番号と顧客名簿とがマッチングされる仕組みで配車センターに着信します。

配車センターではWebによって構築された配車業務画面を通じて、走行時間から最適なタクシーを自動、もしくはオペレータの手動によってタクシーが選定されます。選定されたタクシーへは携帯電話網を使ったインターネット経由で迎車場所がタクシーに搭載されたAndroidタブレットへと送られる仕組みです。

Androidアプリケーションと電話番号通知を除いた部分は全てRuby1.9で開発しました。
オペレータ用の画面はRuby on Railsを活用しています。タクシーとの通信部分はTCPおよびUDP を利用しており、Ruby1.9により専用のサーバプロセスを開発しました。

おわりに ~サービスビジネスでの開発手法について~

本事例は、サービスビジネスとして日本ユニシスが開発費を出し、複数のお客さまに提供しているサービスとなります。今後も、携帯電話網を使った強みを生かした、様々なサービスの展開を計画しています。また、本事例がビジネス層を通じて広まるにつれて、自分の課題解決に使えないかといった別分野からの問い合わせも徐々に頂いています。

受託開発ではなかなか見られないタイプのシステムの発展を目の当たりにし、面白く感じています。受託開発とは価値を顧客に提供するというと同じだが、プロセスはそれぞれのビジネスの手法に沿ったやり方を採用することが、面白くビジネスを展開し価値あるシステムを提供するためには必要であると考えます。

ただ、やはり流行の開発手法を採用するだけではなく、その基盤となる考え方や開発技術も同時に追随していく必要があり、開発組織として日々素振りを欠かさない事が大切であると実感します。

素晴らしいOSSも適切に採用しなければ技術的なリスクばかり高まりますし、開発プロセスも技術的な援護射撃が無ければ日々疲弊するのみになるでしょう。多様化する要求に柔軟に応えるためにも、受託開発にのみ適した開発や技術のセットを見直す良いきっかけになったと思います。

【お知らせ】JISAシンポジウムに日本ユニシスの社員が登壇します

9月21日(金)に行われる、JISA(一般社団法人 情報サービス産業協会)が開催する「第2回構造改革シンポジウム」に日本ユニシスの社員が講演します。「Tablet Solution Award 2012」でのグランプリ受賞についても触れる予定ですので、興味のある方はぜひご参加ください。
→ JISA「第2回構造改革シンポジウム」開催のご案内(9/21)

【関連リンク】

(リンク先最終アクセス:2012.09)

著者
篠田 健(しのだ たけし)
日本ユニシス株式会社

日本ユニシス株式会社 アドバンスド技術部 Webビジネス技術室 所属
1981年生まれ。入社後、技術支援および研究部署に所属し、OLTPミドルウェアおよびBPM・EIP製品の技術支援や調査業務に関わる。現在は、Rubyを中心としたシステム開発を推進。

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