Rubyを用いたビジネス事例、今年の大賞は ――「第3回 Ruby biz Grand prix」レポート
去る2017年12月14日、帝国ホテルにて島根県が主催する「第3回 Ruby biz Grand prix」が開催された。Rubyを使ってビジネスの領域でイノベーションを起こした商品やサービスを募集し、大賞、審査員特別賞、FinTech賞、ソーシャルイノベーション賞を選出する。大賞(2点)の賞金は100万円、審査員特別賞(3点)の賞金は30万円。
島根県はIT分野の研究開発に力を入れている。Rubyを開発したまつもとゆきひろ氏が島根県在住でもあることから、Ruby biz Grand prixを主催するだけでなく、Rubyの国際会議「RubyWorld Conference 2017」を松江市で開催するなど、Rubyの普及やビジネス利用の拡大にも注力している。
なお、今回のRuby biz Grand prixに応募した29の企業とサービスの概要は「エントリー企業一覧ページ」に掲載されている。この中から各賞に選ばれたのは以下の11点だった。
Ruby biz Grand prixの選考基準は「Rubyを使った自社商品・サービス等で、新規性、独創性、市場性、将来性に富んでおり、今後継続的に発展が期待できるビジネス事例」というもの。大賞には以下の2点が選出された。
- コンピテンシークラウド(株式会社あしたのチーム)…クラウドの人事評価システム
大賞に次ぐ審査員特別賞として選出されたのは、以下の3点。
- esa(合同会社esa)…ドキュメント共有サービス
- オーディオストック(株式会社クレオフーガ)…BGMや効果音素材のマーケットプレイス
- Repro(Repro株式会社)…モバイルアプリ向けのグロースハックツール
Fintech賞は「最先端技術と金融サービスを結びつけ、従来にはなかった革新的な潮流をRubyで実現、未来を切り開いているサービス」を2点選出した。
- Coincheck(コインチェック株式会社)…仮想通貨の取引所
- URIHO(株式会社トラスト&グロース)…中小企業向けの売掛保証サービス
ソーシャルイノベーション賞は、「多様な生活や働き方を創発するなど社会的意義の高い分野での課題解決を図り、未来を切り開いているサービス」を4点選出した。
- いこーよ(アクトインディ株式会社)…親子のお出かけ情報サイト
- 全国タクシー(JapanTaxi株式会社)…スマートフォン向けのタクシーの配車アプリ
- SmartHR(株式会社SmartHR)…クラウド型の労務管理ソフト
- Job-Hub(株式会社パソナテック…クラウドソーシングなど3つのサービス
大賞受賞者と審査委員長のスピーチ
各賞の受賞者のスピーチでは、RubyやRuby on Railsでの開発のしやすさ、楽しさや柔軟性が多く挙げられた。またRubyのコミュニティが活発であること、開発者の側からも作成したライブラリをgemとして公開するなどコミュニティへ貢献してきたことも複数の受賞者から語られていた。
高橋 恭介代表(あしたのチーム)
グランプリを受賞した、あしたのチームの高橋 恭介代表は壇上で「今年一番のサプライズ」と驚きを表した。「コンピテンシークラウド」を「おせっかい」がキーワードのクラウド型人事評価サービスであると紹介。「長い間、賃金を下げる目的で使われてきた人事評価を変革し、生産性を向上させた従業員の賃金を正当に上げ業績アップにつなげるために利用してほしい」と語った。
そして、創業から7年間での導入が300社にとどまっていたところ、Rubyに切り替えてから2年半で800社が導入した実績を挙げ、「開発チームはRubyのおかげで変革できた」と感謝を表した。
林 鷹治代表(WOVN.io)
同じくグランプリを受賞したのはミニマル・テクノロジーズの「WOVN.io」。「Webサイトを5分で多言語化できる」が売り文句で、Webサイトを多国語対応させるためのさまざまなツールを提供している。2014年に林 鷹治代表が1人でWOVN.ioを開発した際は、Rubyが持つ生産性の高さに支えられ短期間でローンチできたという。今では世界中の10か国以上からRubyが好きなエンジニアが集まっている会社に成長。「優秀な人材を世界中から日本に集めたいならばRubyが必須」とコメントした。
WOVN.ioは国際化(i18n)ライブラリをgemとして提供するなど、Rubyコミュニティへの貢献も大きい。今後はWebサイトを多言語化する機能を提供するだけでなく、マーケティング用のプラットフォームとして成長させていきたいと抱負を語った。
マツモトサトシ取締役(株式会社Misoca)
前回大賞を受賞した、請求書作成サービス「Misoca」のマツモトサトシ取締役によるプレゼンも行われた。大賞の賞金は開発合宿に活用、環境を変えることでモチベーション高く開発を行えたという。また開発メンバーの採用においては大賞の受賞をアピールできたことで応募が増え、効果を大いに感じたと語った。さらにRubyKaigiにも出展するなど、Rubyコミュニティへの貢献も行ったとのことだった。
審査委員長 まつもとゆきひろ氏
最後に、審査委員長のまつもとゆきひろ氏が講評を行った。審査は今年も困難を極めたそうで、このグランプリは1つの尺度で比較できるものではないことを理由に挙げた。「審査員が得点を付けて合計するような選考方法では、さまざまなバックグラウンドを持つ審査員全員にほどほどに受けるものが高得点になってしまい、この賞の趣旨に反してしまう。長い議論の末に賞が決まった」と述べた。
続いてまつもと氏が挙げたのは「ハック」というキーワードだ。「一見不可能なことを技術で可能にするのがハックであり、今回Ruby biz Grand prixに応募した各社は、それぞれの分野でハックによって不可能を可能にしてきた。それをRubyで実現できたことが嬉しい」と語った。
以前はRuby on Railsで開発したというだけでRubyを使っているとアピールできたが、今やスタートアップ企業がWebアプリケーションをRuby on Railsで開発することは珍しくない。選考にあたっては、開発コミュニティへ還元している、社会的なインパクトが大きいビジネスを展開しているなど、プラスアルファを複数持つことを重視したという。
最後にまつもと氏は、今回受賞した企業が日本や、ひいては世界を良くしていくためにハックで不可能を可能にする企業であることと、彼らに続く企業が登場してくることへの期待を述べて講評をしめくくった。
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