AppDynamicsのCEO、DevOpsにはビジネス視点が必要と強調

2015年8月12日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

アプリケーションパフォーマンスモニタリングのソリューションを開発販売する米国AppDynamics社の創業者兼CEOのジョティ・バンサル氏(Founder & CEO, Joyti Bansal)が来日、2015年7月30日、31日の両日、都内のアメリカ大使館の会場を使ってセミナーを開催した。セミナーには2日間で約150名が参加し、日本法人であるアップダイナミクスジャパン合同会社のカントリーマネージャーの内田雅彦氏の司会のもと、バンサル氏によるプレゼンテーションと内田氏によるデモ、顧客事例として株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)のインフラエンジニア、種村和豊氏によるGDOでの利用事例の紹介なども含め、4時間に及ぶプレゼンテーションを行った。

従来型の運用監視ツールは消えていくだろう

冒頭からバンサル氏は、「ソフトウェアデファインドビジネス(Software defined Business)」という言葉を用いて、全てのビジネスがネットやモバイル端末を活用したアプリケーションによって「デジタルビジネス」として転換され始めていることを紹介。ここではディズニーランドの例を挙げ、これまでは入園の際に長い待ち行列を我慢しなければいけなかったものが既にスマートフォンやセンサー、Webベースのアプリケーションによって待ち行列はよりパーソナライズされた快適なユーザー体験に転換されており、このようなユーザー体験を提供できない企業は競争に負けることになると強調した。その際に最も大事になるのが、OSやサーバーなどのインフラではなくユーザーとダイレクトに接するアプリケーションであり、そのアプリケーションを成功に導くためにDevOpsによるアジャイルなアプリ開発とエラスティックなクラウドのインフラだけではなく「そのアプリはどれだけビジネスに貢献しているのか?」「そのアプリに不具合が出るとどれぐらいの損失が出るのか?」までを確認できることが必要であると語った。

それを指してAppDynamicsではDevOpsだけではないビジネスまで一気通貫で可視化出来る「BizDevOps」が必要であり、それがAppDynamicsの持つ「アプリケーションインテリジェンス」のソリューションによって可能になると説明した。更に従来のインフラやミドルウェアだけを監視する運用監視ツールベンダーについて「2017年までに運用監視ツールベンダーのトップ4、HP、IBM、BMC、CA Technologiesのうち2社は既存顧客からの存在価値を失うことになるだろう」と予告した。

では従来型の運用監視ツールとAppDynamicsは何が違うのか?このセミナーに先立ち、個別にバンサル氏と内田氏にインタビューを行った。ここではその内容を紹介したい。

カントリーマネージャーの内田氏とCEOのバンサル氏

図1:カントリーマネージャーの内田氏とCEOのバンサル氏

———まずAppDynamicsが提唱するアプリケーションインテリジェンスとは何か?を教えてください。

これはAppDynamicsが作った単語なんですが、これまではIT Operation Management(IT運用管理)と呼ばれていた領域になると思いますが、そのカテゴリは現代の複雑なアプリケーションの状況に合っていないと思っています。現代のビジネスは膨大なサーバー群とWebベースのアプリケーションやサービス、更にモバイルアプリケーションによって動かされていると言っても過言ではありません。

AppDynamicsのソリューションはスマートフォンのアプリからのワンクリックから始まって様々なサーバー、社外のパブリッククラウドで動くプロセスまですべてモニタリングしてどこで遅延が起こったのか、ボトルネックになっているのはコードの何行目なのかまで可視化することが出来ます。更に他社との違いで言えば、例えばiOSやAndroidのアプリケーションのクラッシュを検知してそれを通知することができる点が分かりやすいと思います。スマートフォンのアプリがクラッシュして使えないというのはユーザーがアプリを削除する大きな理由ですから、いつ誰が何をした時にクラッシュしたのか?をモニタリング出来れば、ビジネスの損失をかなりダイレクトに防ぐことができるのです。これがBizDevOpsが必要な本当の意味です。

つまりビジネスに与える影響まで管理できるようにするためにインフラの運用であるOpsと開発であるDevそれにビジネスアプリケーションまで繋げること、それがアプリケーションインテリジェンスの価値であり、それをAppDynamicsは提供しています。

シスコのサーバー15,000台に1週間で導入、CIツールとも連携

———システムとアプリケーションをモニタリングするためにはセンサーというかエージェントをそれぞれのサーバーに設定する必要があると思いますが、それをすべてのシステムにマニュアルで行うのは大変では?

実際にAppDynamicsを導入する際にはアプリケーションを書き換える必要はありません。サーバーにエージェントを設定するだけで終わります。スマートフォンのアプリケーションに導入する際にはリビルドが必要になりますが、ライブラリーをIncludeするだけで設定は終わります。実際にアメリカの導入事例ではシスコが15,000台のエージェントを設定するのに一週間しかかからなったという例もあります。ChefやPuppet、JenkinsなどのDevOpsのツールに組み込んで自動的にアプリケーションの構築を行うこともできますし、PaaSとの連携も例えばAzureであればAppDynamicsをワンクリックでアプリケーションに設定することができるようになっています。

またデータセンター以外で稼動しているサービス、例えばAWSで実行されているサービスに対してエージェントを組み込むこともできますし、逆にエージェントを組み込めない場合はリクエストのレスポンスを計測して、性能のモニタリングを行うことが可能になっています。またHTTPのプロトコルにも追加の極小さいヘッダーを追加して、そのパケットがどこから出てどこに到着するのかを常に追跡しています。ですので、スマートフォンからのリクエストがどのサーバーを通ってどのデータベースに到着して、そのレスポンスが帰っていく経路まで追跡できるのです。

———実際にコードをモニタリングするだけではなく速度を監視して「遅くなった」ことを検知するのはどのように実現しているのですか?

実際にプロセスやアプリケーションを監視していますが、例えばレスポンスが50msecを超えたらアラートをあげる、などのルールやしきい値を設定することは必要ありません。AppDynamicsは過去のデータを常に監視して、平常の運用状況とアクセスが高まって対応が必要になるような状況を自動的に検知します。ですので、障害が起こってから対処するのではなく予防的に「そろそろ手を打たないとまずい」ということができるのです。またどのサービスがどのサーバーと繋がっているのかなども自動的にチャートの形で可視化出来ますので、細かくサービス毎、データベース毎にパフォーマンスのモニタリングができます。

———そうすると例えばNetflixのように意図的にデータセンターのサーバーを落としたりするBot(ChaosMonkey)を入れている企業ではその平常と異常の切り分けは難しくなるのでは?

良い質問です。なぜならNetflixはAppDynamicsの2番目の顧客なんですから(笑)。実際にはChaosMonkeyが動作していてもChaosMonkeyがいることが平常であるなら、それに対応することが可能です。実際にChaosMonkey的なBotを稼動させてデータセンターの可用性と冗長性を高めていこうとすることはこれからも増えていくだろうと思いますが、AppDynamicsであれば既に対応済みなのですから安心してください。

———ビジネスの部分になりますが、日本の向こう一年間の目標を教えてください。

これはカントリーマネージャーの内田さんが答えるべき質問かもしれませんが、日本は我々にとって大切な市場です。今はまだ60社程度の顧客数ですが、それを倍にしたいと考えています。

内田氏
実際には顧客数を増やすことと同時に現在使って頂いているお客さまの中でより多くなサーバーやアプリケーションで使って頂けるように営業を進めていきたいと思います。そのためにはまだまだやることは色々あると考えていますし、アプリケーションインテリジェンスというコンセプトをもっと理解して頂く努力を続ける予定です。アメリカ大使館でのセミナーはそのひとつになります。

———ちなみにライセンスはどのような形態ですか?サーバーの数ですか?それともデータの量ですか?

基本的にエージェントの数がライセンスの価格になります。それを毎年サブスクリプションでお支払い頂く形です。実際に我々のお客さまはAppDynamicsのソリューションに大変満足しておられますので、次年度の継続率は非常に高いのです。それはNet Promoter Scoreが今年87という数値を頂いたことをみてもわかると思います。

バンサル氏とのインタビューは1時間以上にも渡り、様々な話題が出されたが、ここでセミナーでの事例、GDO種村氏のプレゼンテーションをサマリーしておこう。

GDOの種村氏のプレゼンテーションは、過去のリニューアルの際からアプリケーションのパフォーマンスを監視する必要性を訴えたものだった。これはある意味、Webサイトでのユーザー体験をどれだけ快適にするか?でビジネスの結果にはね返ってくるGDOなら当然と言えるだろう。その中で他社比較も赤裸々に語り、実証実験(Proof of Concept)を開始して直ぐに「これならこれまでのモニタリングと原因調査の労力が半分になる」ということを確信できたと言う。過去に別製品を使ってモニタリングを行ってきたGDOがあえて既存のツールを捨ててAppDynamicsに乗り換えたことはこれからWebとスマートフォンを活用したビジネス展開を検討中の企業には大変参考になるものであった。

GDOの種村氏。赤裸々な語り口が参加者には好評だった。

図2:GDOの種村氏。赤裸々な語り口が参加者には好評だった。

新しい世代のアプリケーションパフォーマンスモニタリングはインターネット系ベンチャーでよく事例が見られるNew RelicとAppDynamicsの2つが先行しているが、よくよくこの2社のエグゼクティブの経歴を眺めるとどちらもCAに買収されたWily Technologiesの出身者が多いことに気がつくだろう。CAの中では思うように開発が出来ずに外に飛び出してどちらも現代のWebとモバイルにフィットしたソリューションを展開している。AppDynamicsはいち早く日本市場に展開してきたわけだが、今後の展開に期待したい。

※編集部より:記事初出時に、内田氏のお名前に誤りがありました。お詫びして訂正致します。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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