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サムスン、LG、HTCよ – Android Wearを見限るのは大きなミスだ

2015年3月10日(火)
ReadWrite Japan

先日、グーグルと長年AndroidでパートナーとしてやってきたHTCが、Android Wearではなく長らく噂されていた自前のOSを採用したウェアラブルデバイスを発表するのではないかというニュースが流れた。

このリークが実話かどうか、そのデバイスとはスマートフォンなのかを判断するにはまだ早すぎる(そうではないと判断できる点が一つある。リークによると、HTCのデバイスはリアルタイムOSを採用しているとあるが、これはAndroid Wearの様な汎用OSとは大きく異なるものだ)。

しかしもしこの噂がHTCの考えるプランそのものなのだとしたら、HTCはこれによって三番目に熱心なAndroid支持者から、少なくともスマートウォッチやその他のウェアラブルにおいてグーグルのOSを受け入れない企業へと、その立場を変えることになる。そして見た所、そうした方向で話は進行中のようだ。例えばサムスンは既にAndroid Wearとは距離を置きオープンソースOSのTizenを選択した。LGも同じような考えでWebOSを選択した(もっともAndroid Wearデバイスの話も前に進んでいるのだが)。Zen Watchを製造するAsusもZen Watch2はAndroid Wearを採用するが、それとは別のバッテリーが7日間保つというスマートウォッチについてグーグルのOSは採用しないと宣言した

グーグルの下を離れ、自分の力のみでApple Watchに立ち向かうというのは、こういった製造者たちにとって抗いがたい魅力のある選択肢だ。しかしこれはほぼ確実に裏目に出る事になるであろうリスキーな賭けでもある。なぜならそうする事で自社のウェアラブルデバイスのコントロールを完全なものに出来るという考えは、ほぼ幻想に過ぎないからだ。

グーグルは一体どうしたのか?

この事についてまず、製造者の観点から見ていこう。例えばサムスンはAndroidそっちのけでTizenを採用したスマートウォッチをゴリ押しした。グーグルは面白くなかっただろう。

サムスンはこれまでにAndroid Wearを採用したデバイスを1つしか出していない。Gear Liveだ。その他全てのGalaxy GearスマートウォッチはTizenを採用している。2013年後半に初めて出荷されたGalaxy Gearは低機能版のAndroidを採用していたが、これでさえ後にアップデート配信によってTizenに代わってしまっている。

理由はなんだろうか?金銭的な問題か?それもあるだろう。つい最近までサムスンは世界最大のAndroidスマートフォンメーカーだった。しかし顧客は一旦それを買ってしまえば、サムスンとの関係はそこで終わりだ。人々はアプリや動画、本をGoogle Playから購入するが、サムスンからすればそれらの利益は自分たちが得るべきものと考えられるものだ。

そこでサムスンはTizen向けのアプリを開発するため、急いで開発者を集めた。その1-2年後、ようやくGalaxyアプリはそれなりの体裁を取れるようにはなったが、Google Playと比較できるレベルのものではない(サムスンのアプリストアはユーザーフレンドリーさにも欠けるところがある。例えばアプリのダウンロードの説明をクリックすると、ポップアップが出て「デバイスを使ってアプリをダウンロードしてください」という、なんともありがたい説明書きがでてきたりする)。

LCやHTCがこの様な思い切ったことをしようとしているかはともかく、彼らが自社の製品のコントロールを掌握する事に興味があることは明らかだ。Android Wearが伸るか反るかはグーグルがまともなアプリを作れるかどうかにかかっている。しかしHTCやLGは自分たちでOSを展開することで、失敗するか成功するかを他者ではなく自分の手に委ねることが出来る。

しかし大きな問題は、こういった選択がこれまで本当にメリットとして作用してきたとは限らない点だ。

Android Wearを捨てるのは失策だ

アップルは長年成功を収めており、同社の全てをコントロール下に置くという戦略は他のハード製造業者達にとって非常に魅力的にr映るものになっている。しかしアップルだけがこれを成し得ているのには理由がある。ハードウェア及びソフトウェアデザインで両方同時に最高評価を得るというのは普通出来ることではないのだ。

そのアップルですら、過去30年間ほどは今のような立ち位置におらず、これまでに何度かの失敗し、また少なくとも一度は倒産しかけたという経験を経ている。

Samsung Gear S

Samsung Gear S

グーグルのパートナー達は、これまでに人々が本当にほしがるようなウェアラブルデバイスが作れるという事をまだ実証できていない。サムスンのGalaxy Gearスマートウォッチなどは、こういってはなんだが「興味深い」デザインだ。

Gear LiveのシリーズにあたるGear2、Gear2 Neoは付け替えできないリストバンドと悪い意味で目立つバルキーな本体がセットになっている。サムスンの最新モデルにあたるTizenベースのGear Sは奇妙なカーブを伴ったここ数年で最悪な傾向のデザインを踏襲している。

LGのAndroid WearデバイスであるG WatchとG Watch Rでも、でかくて格好が悪いという意味で事情は同じだ。Android Wearデバイスで最も成功したと言えるMotorolaのMoto 360も、古いチップセットが原因でバッテリーの短さに苦しんだ。すでにソフト面での問題は対処されたにも関わらず、どういうわけかハードメーカーは未だに満足行くものを提供できていない。

ハイブリッドな解決法

彼らも別にAndroid Wearを捨ててしまう必要はないだろう。Androidと自前のOSで同時に並行展開するプランなのかも知れない。

しかしそれもまた大きな間違いだ。アップル最大のライバルの一社、マイクロソフトをみれば分かるだろう。

Microsoft Surface Pro 3

Microsoft Surface Pro 3

マイクロソフトがSurface RTとSurface Proを2012年にリリースした時、人々の注目は集めたものの利益を上げるほどの売上にはならなかった。次の年にSurface2およびSurface2 Proをリリースした時も同じだった。Surfaceに波が来たのは去年頃のことでSurface Pro3の登場により、ようやくこのビジネスは巨大なものとなった。

何が代わったのだろう?1つにマイクロソフトがそれまでのデザインの欠陥から学び、Surface Proを大きく、薄く、更にパワフルなものにしたことが挙げられる。が、それより大事なことはマイクロソフトが他の選択肢となり得るデバイスを捨て去ったことだ。以前のマイクロソフトはいろんなプロダクトを出しては消費者を混乱させ、誰も欲しがらないようなデバイスの為にせっかくのリソースを分散させてしまっていた。

サムスンは既に同じ道をたどっている。3年前にGalaxy S3を大ヒットさせてからというもの、次々に携帯を出しては市場をフラッグシップモデルに似たような、そして多くの場合は劣った商品で溢れかえらせている。

その結果、市場はどれもこれも使えることは使えるが本当に欲しいとは言えない携帯端末の洪水のような状況を作りだした。前四半期にアップルがiPhone6で最高利益をたたき出し、サムスンの市場を奪ったのも驚くようなことではない。

共通の敵に対して力を合わせる

Android WearはApple Watchより1年早く始まっているにもかかわらず、そのリードはベータ版の延長期間で潰れてしまった。目立ったAndroid Wearデバイスは数える程で、2014年に出荷されたものはたったの72万台だったのは先週明らかになった通りだ。実際にどれ位が売れたのかは言わなくてもいいだろう。

その中でサムスンは出荷数では首位だが、それも6つの異なるモデルを展開したからに過ぎない。繰り返すが、これらが実際どれだけ売れたか分からないし、サムスンの四半期報告でもこれらの実態を表す数字はほとんど示されていない。

非難のほとんどはグーグルに向けられるだろうが、ハードウェアのパートナーたちもバーゲンの終わりまでに間に合わず、ファッショナブルでは無いばかりか、下手をすればスマートウォッチというブーム自体を終わらせるかも知れないほど粗末なデバイスしか提供できなかった。

Apple Watch

Apple Watch

しかし彼らがグーグルと縁を切れば、アップルはこれを潰しにかかるだろう。彼らの誰もがアップルが提供しているレベルのものに対抗できる程のアプリやサービスを提供することはできない。Android Wearができているとは言わないが、それでも今現在ハードメーカーたちが利用できるものといえばこれらの資産が全てだ。

勝負はまだ決まったわけでは無い。4月ごろにリリースされる新しいAndroid Wearは数々のエキサイティングな機能がサポートされ、MotorolaやAsus、HTCなどからもウェアラブルが発売される。ソニーのSmartWatch 3はデザイン的には全くピンとこないデバイスだが、それでもブランチされたAndroidからウェアラブルに最適化されたAndroid Wearに切り替えたのは、Android陣営にとっては良い傾向だ。

Android Wearが正しい選択肢でなかったとしても、彼らハードメーカーにとって、他にアップルに対抗する為の選択肢はあるのだろうか?グーグルと一緒に共倒れになる可能性もあるが、各自に戦ったところで個別に潰されるのがオチだろう。

画像提供:
トップ画像:Google
Apple Watch:Apple
Surface Pro 3:Dan Rowinski
Samsung Gear S:Adriana Lee

Brian P. Rubin
[原文]

※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちらをご覧ください。

※本ニュース記事はReadWrite Japanから提供を受けて配信しています。

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