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SIビジネスとマーケティング

2016年7月22日(金)
田中 千晶

SIビジネスとは

SIビジネス、またそのビジネスモデルの未来を危惧する声を聞かれるようになって久しくなりました。SIビジネスとは、企業の情報システムの企画、設計、開発、構築、導入、保守、運用などを一貫して請け負うサービスのことを言います。

SIビジネスのこれまで

かつて企業は、コスト効率を高めるためにシステム開発や構築、運用管理などの業務をアウトソーシングする割合を高めていきました。SI事業者は顧客企業の要望に誠実に取り組み、必要な成果を上げることで需要が拡大し、リピートも確保できるようになりました。

そしてSI事業者側は需要の拡大による要員不足を招かないように競争を避け、企業側はSI事業者を囲い込むようになった結果、SI事業者にとって「売るための努力」=「誠実な仕事をすること」となっていったのです。

誠実に仕事をしていれば企業がSI事業者を半永久的に養ってくれるため、それ以上の成果を出すことが求められることもなく、その方法や結果にはあまり焦点が当てられて来なかったのです。

時代の変化で浮き彫りになった問題点

しかし、時代が移り変わっていく中で、現代ではこのような体制の問題点が浮き彫りになってきています。ネットコマース社の代表取締役で数多くの企業にコンサルティングを行っている斎藤昌義氏も「システムインテグレーションは崩壊する」と断言しています。

では、現代のSIビジネスにはどのような問題があるのでしょうか? 次項では、SIビジネスの在り方の変容と、それに伴って浮き彫りになった問題点を見てみましょう。

SIビジネスの問題点

きっかけはリーマンショック

現在、システム開発や構築の需要は一気に冷え込み、その構図は変わり始めています。原因はリーマンショック後の市場志向の変化です。斎藤昌義氏は次のように述べています。

「依頼が潤沢にあり、それを確実にこなしていれば、リピートが期待できていました。お客様が成長し、それに伴い仕事が増えている間は、SIerも成長できたのです。しかし、リーマンショックを境に、このビジネス・サイクルは壊れてしまいました。お客様の成長の勢いは衰え、事業主体は海外へとシフト、国内需要の伸びも頭打ちです。これまでお客様が供給を確保するために行ってきた「棲み分け」という構図は崩れ、コスト削減のための「競合」はもはや当たり前です。そして、その競合相手は国内企業とは限りません」

今まで行われてこなかったSI事業者同士の競合が当たり前になる中で、SI事業者は出せる限りの成果を出し、自らサービスの重要性や必要性を顧客にアピールしていかなくてはならなくなったのです。

度重なる不況

前述のように、リーマンショックはSI事業者に求められるものが変わっていく1つのきっかけでした。リーマンショック後の国際的な不況は多くの企業の業績悪化を招き、その中でユーザーの志向もより慎重になっていきました。

その後、一度は景気回復の兆しも見え始めたころに東日本大震災が発生しました。企業は急激な円高が重なり経営の先行きが不透明になる中でIT投資にもより慎重になり、需要は低迷していきました。

IT産業の変化

さらに、この10年ほどでITのサービス化が格段に進んだことも理由として挙げられます。栗原傑亨氏は、その変化として次のような具体例を挙げています。

「まずリーマンショック以降、ユーザーのコスト削減意識が高くなり、ユーザー自身がIT導入の一部を肩代わりするセルフサービス化、段階的で柔軟な価格付けが求められるようになった」
「使っている時間分だけ、あるいは人数分だけ支払うという料金制が求められるようになった」
「また、3・11の大震災でBCP(事業継続計画)の概念が定着し、サーバーなどの仮想化も購入の前提になりつつある。こうした状況の中、クラウドの導入が一気に進み、特にノンコア領域のGoogle Apps利用が増えた」

企業はこのような目まぐるしい状況変化の中でSI事業者を囲い込む必要がなくなり、SI事業者は他社と競争しなければならない状況になりました。

SIビジネスの変化

競争が生まれるユーザー部門が意志決定に大きく関与するようになれば、従来の「工数×単金」という人月積算が前提のビジネス・スキームは通用しなくなり、成果への対価がますます重要視されるようになります。「初期費用で多額投資・その後は償却+保守」という指向から「初期費用を極力抑えランタイムライセンスで購入」という指向に変化するのです。

また、今までSI事業者がやって来たサービスをユーザーが自ら請け負ってコストを削減する「セルフサービス化」も進んでいます。「これだけかかったので、その工数分をお支払いください」というビジネスは受け入れられなくなるかもしれません。

当然、このようなビジネスに慣れていないSI事業者は困惑します。受託開発がなくなることはないにしても、代替手段との競合や収益を上げるお作法が変わることを考えておく必要があります。需要が低迷する中で、今まで囲われて誠実に仕事をこなしてさえいれば良かった大量のSI事業者があぶれだす「需要<供給」の構図が明確になったのです。

では、このような状況の中でSI事業者に必要となるものは何なのでしょうか。

時代と共にSI事業者も変わる必要がある

これからのSI事業者に必要なもの――斎藤氏は、次のように述べています。

「本来、SIとはテクノロジーやノウハウを組み合わせ、ユーザー企業の求める最適なシステムを構築する請負型ビジネスを意味します。その目的は今後も色あせることはなく、必要性は増していくでしょう。しかし、そこに関わるSI事業者の仕事内容やユーザー企業との係わり方、あるいは役割といったものは変わるでしょう。収益を上げる手段やスキルも変わってきます。『SIが崩壊する』とは、そのような意味で申し上げています」

日本のSI事業者は工数で見積もりする一方で、「納期」と「完成」の責任を負わされるビジネス形態です。このやり方はユーザー企業とSI事業者との間に利益相反と相互不信を生み出しています。このような状況では、SI事業者が従来通りのあり方でいて良いはずがありません。需要に応える形で、SI事業者は今後どう変わっていくべきなのでしょうか。

SIビジネスのこれから

従来までのビジネスモデルに限界が訪れ、SI事業者にも競争力が求められるようになってきていることは前節でも述べたとおりです。競争する中でSI事業者には何が重要なのでしょうか。少なくとも、今までの

「売るための努力」=「誠実な仕事をすること」

という図式は崩れてきます。もちろん誠実な仕事をすることは重要ですが、その上で「成果として何を出すか」「いかに顧客の需要に応えたサービスを打ち出すか」が非常に重要になってきています。他の産業同様に「いかに需要を生み出し、サービスを提供していくか」が重要になってきているのです。

また、そうした中で、新たなSI事業の事例や「グロースハック代行サービス」のような、今までになかった新しいサービスも生まれてきています(これらは次回以降で紹介)。

このように、SI事業者にもITサービスを顧客に提供するための知識やアピール能力が必要な時代になってきているのです。

今の時代にこそ「マーケティング」が必要

そして、このような時代にこそ不可欠なのが「マーケティング」です。マーケティングとは「顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセス」です。

また、著名なマーケティング研究者であるフィリップ・コトラーは「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」と定義しています。つまり「価値の提供、その対価としての売上、それを結びつけるプロセス」です。このマーケティングとSIビジネスの関わり方について、斉藤氏は次のように述べています。

「顧客が求める価値は、工数から成果へと変わってゆくでしょう。そうなれば、対価の考え方も変わるはずです。当然、それを結びつけるプロセスも変わります。
お客様に価値の存在を知らしめ、それを収益拡大に結びつけるための対外的、社内的な一連の取り組みや体制、実行者のモチベーションを上げるための評価制度や目標設定、収益構造や事業形態など、様々な仕組みを変えてゆかなければなりません。お客様に価値の存在を知らしめ、それを収益拡大に結びつけるための対外的、社内的な一連の取り組みや体制改善、実行者のモチベーションを上げるための評価制度や目標設定、収益構造や事業形態など、様々な仕組みを変えてゆかなければなりません。つまり、SI事業者にとって、マーケティングとは事業転換への取り組みに匹敵する言葉と言えるかもしれません」

マーケティングは、SI事業者がこれまで行ってこなかった新たな取り組みです。囲い込まれた中で仕事を続けてきたSI事業者は、自らを積極的に企業へアピールや売り込みをしていかなければなりません。

お互いに歩み寄りが必要

このように、SIビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中で、SI事業者と企業の関わり方は今後ますます重要になってきます。

従来までの「企業がSI事業者を囲い込んで雇い、SI事業者は誠実に仕事をする」という関係は、今日では「SI事業者が企業に自らの価値をアピールし、他の事業者との競争に打ち勝って選ばれる」という完全な競争社会へと変化しています。

今までマーケティングなど知らなかったSI事業者と、時代変化の中で方針を変えていく企業。こうした中でマーケティングを行えば、それぞれの立場からの意見の対立、方向性の不一致などが起こることが度々あると思います。努力ではなく実績や成果を目的とするビジネスモデルではお互いに歩み寄り、連携していくことが必要になるでしょう。

斎藤氏も、

「マーケティングを広告宣伝と同一し、セールスと区別されないまま顧客の拡大を営業の個人力に任せ、新規事業の開発を自助努力に期待する経営者や経営幹部がいるとすれば、改めてマーケティングの意味を真摯に問い向き合う必要がある」

と述べています。お互いに目的を詳しく設定した上で納得し、それに向けた具体的な施策を共有していくことが必要になってくるでしょう。

今回は、SI事業が変化してきた経緯とその原因、そしてこれからのSI事業の在り方について解説しました。次回は、国内・海外企業におけるマーケティングに焦点を当てて、いくつか具体例を挙げて見ていきます。

大学在学中にソーシャルメディアを活用した収益化マーケティング会社アントで働く。Webプロモーション支援を得意とし、ソーシャルメディア活用、Webサイトディレクションを実施。マーケティング支援の書籍や連載などの出版活動を数多くの出版社で行っている。IT文化の振興とUNIX/Linux文化の楽しさを広く伝え、エンジニア同士の連帯を図ることを目的とするトークイベント「TechLION」のレポートブログを担当。

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