新たなビジネスを担う「グロースハッカー」とは
皆さんは、「グロースハッカー」という仕事を聞いたことがあるでしょうか。最近よく耳にする言葉ではありますが、「実体がよくわからない」という方も多くいらっしゃるのではないかと思います。今回はグロースハッカーについて、その概要や事例を紹介します。
グロースハッカーとは
グロースハッカーについては、主に以下のような説明がなされています。「製品やサービスの成長をハック(=新たなやり方で加速する)する人たち。“ユーザー獲得担当エンジニア”などとも呼ばれる」
グロースハックは比較的新しい概念であり各所で様々な説明がなされていますが、共通している点は「サービス・商品をモニタリングしながら改善・成長させていく」ことです。
FacebookやTwitterなどのITサービスはほとんど広告を打たずに多くのユーザーを獲得してきましたが、その成功要因となった成長率の源泉にもグロースハックを有効利用したことが挙げられています。
このように、SI事業においてなくてはならない役割を担うのがグロースハッカーです。「いかに製品やサービスをユーザーに認知してもらい、手に取ってもらうか」を知り尽くした、マーケターでもありエンジニアでもあるような役割です。
では、グロースハッカーは具体的にどのような活動をしているのでしょうか。以降では、国内の2社を例に、グロースハッカーの仕事について見て行きます。
グロースハック事例(1) グロースハックで行われる施策
最初の例はグロースハック代行を行っているA社です。A社のビジネスモデルはWebサイトの表示速度改善や機能追加といったソースコードレベルで改善可能なエンジニアを数多く抱え、豊富な経験を元にユーザーの売り上げ拡大をサポートします。
A社では、具体的に下記のような施策を行っています。
- 広告の最適化
消費者のコンテンツ閲覧履歴、検索履歴、コンバージョン履歴といった他サイトでの行動履歴データ等を複合的に分析し、広告が最大の結果を出すよう配置することを意味します。 - SEO内部対策
コンテンツの充実度、ページ構成など、サイトの内部構成に対して行うSEO施策(検索順位をアップさせるための施策)のことです。「タイトルタグ」「メタディスクリプション」等の要素があります。 - ソーシャル連携の構築
FacebookやTwitter、Instagramといったソーシャルメディア上での友人を自動フォローするなど、ソーシャルメディアとの連携構築を示します。 - A/Bテストの実施
Webページの一部分、またはページそのものを2パターン用意し、どちらが高いコンバージョンが得られるかを検証する方法です。 - アクセスデータの解析
自社サイトに流入するキーワードや流入元となったサイト、流入先のページについて分析し、改善の方向を探っていきます。
ビッグデータから得られたユーザー情報の解析とシステムの改善を繰り返しながらユーザーへのアプローチを検証しつつ、最適な方法を求めていくことがグロースハックの特徴でしょう(図1)。
それでは、グロースハック代行のもう1つの例を見てみましょう。
グロースハック事例(2) アプリ利用動画を使ったグロースハック
B社では、ユーザーのアプリ利用動画を使ってコンバージョン率や定着率を改善する施策を行っています。コンバージョン率とは、Webサイトへのアクセス数や特定のページを訪問した人の数のうち、商品購入や資料請求などの最終成果(コンバージョン)に至る割合を示す指標です。
具体的な工程は、以下のようになっています。
STEP 1:アナリティクスで離脱ユーザーをターゲティング
ファネル分析により、ユーザーがどの段階で離脱したのかを確認・抽出します。ファネル分析とは、入口ページから商品購入や資料請求などの最終成果までの各プロセスでの離脱率を把握することです。 コンバージョン(最終成果)までの到達経路を確認できます。
STEP 2:ターゲットに応じたプッシュ通知やアプリ内メッセージを作成
リアルタイムプレビューを確認しながら、抽出した離脱ユーザーに送るメッセージを作成します。
STEP3:メッセージを送り定着率や課金率を改善
ユーザーにメッセージを送ってアプリの再利用やコンバージョン、アプリへの定着率や課金率の改善を促します。
このように、グロースハックは「マインドシェア」などの定性的でない指標ではなく、アクセス解析のような可視化できる情報を元にした緻密なものであることが分かります。マインドシェアは、「製品やサービスを購入する消費者の心の中に、選択肢として企業や商品ブランドがどれだけ占有しているか」を示します。この指標で消費者心理における自社ブランドの重要度を現すことができます。
なお、電通報ではグロースハックの3つのポイントを以下のように説明しています。
- グロースハックのいわゆる「グロース」に当たる部分、すなわち商品やサービスの事業の成長をゴールに置く
- データによる仮説検証や分析を大切にする。特に「ユーザーの声」や「ログデータ」を重要な指標とする
- マーケティングだけでなくプロダクトやサービスの開発も視点を向けている。場合によっては提供するサービス自体を顧客に合わせて変えていく可能性も視野に入れる
グロースハックではニーズや市場環境が変化した際、環境に応じた最適な戦略をとるためにそれまでの製品・マーケティング戦略を柔軟に変更することも厭いません。このようにして世界のグロースハッカー達はサービスのユーザー数やリテンション率を飛躍的に伸ばしてきました。リテンションとは、既存顧客に再び商品やサービスを購入・利用してもらうためのマーケティング活動です。リテンション率は(保持)/(継続)で計算され、特にアプリマーケティングで用いられる指標です(参考URL:http://blog.btrax.com/jp/2015/06/23/mobileretention/)。
では、彼らのように「予算を抑えつつユーザーをよりエンゲージメントの高い状態にする」ために、グロースハッカーとしてどのような知識を備えておくべきなのでしょうか。
(1)仮説分析を行うための力
プロダクトを開発する前にペルソナ像構築やカスタマージャーニーマップを作成して、ユーザー動向の仮説検証を行うための分析力・検証力を身につけましょう。「Google Analytics」などの無料分析ツールを使いこなし、基礎的な統計学や論理構造への理解を深めていくことでデータから分析結果を生み出す力が養えるように思います。
ペルソナ像とは、氏名、年齢、性別、居住地、職業等の情報を基に構築した架空のユーザーです。製品・サービスにとって最も象徴的なユーザーモデルとなります。カスタマージャーニーは、顧客が如何に商品やサービスと接点を持ち、購入や登録に至ったのか、つまり「顧客が商品を購入・利用するまでのプロセス」を示します。このプロセスを時系列に可視化したものがカスタマージャーニーマップです。
(2)プロダクトを改善し続けていくための力
技術的に実現可能な範囲やローコストでハイリターンを実現するための改善策などを見積もり、開発者に具体的な指示を与えることができればより効率的な作業が可能になります。そのためHTML、CSS、JavaScriptなどの基礎的なWebプログラミングの知識は身に付けておくべきでしょう。また、例えば「AARRR」といった常にプロダクトを改善していくためのプロセスも身につけておくと良いでしょう。
AARRRは、グロースハックにおけるユーザーの行動を分解し段階分けした指標です。Acquisition(ユーザー獲得)、Activation(利用開始)、Retention(継続)、Referral(紹介・シェア)、Revenue(収益発生)の頭文字を取ったもので、各フェーズにあった施策を展開してサービス・商品を成長させるために使われます。
(3)高いユーザーエクスペリエンスを設計する発想力
人気のサービスや商品は高いユーザーエクスペリエンス(UX)を伴っていることが多いと言えます。まずユーザーに使ってもらい、後日Webサイトから商品の再購入やサービスを再利用してもらうまでの流れにおいて「使いやすい」「信頼できる」といった快適な体験を提供し、顧客のニーズを正確に満たすことがグロースハックの成功にも繋がっていくのです。
今回は、新しいビジネスであるグロースハックについて見てきました。次回は、金融機関のためのマーケティングについて説明します。
【参考Webサイト】
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