IT技術を用いた海外企業のマーケティング事例

2016年8月5日(金)
田中 千晶

デジタルサイネージを活用した情報発信

インターネットやICT(Information and Communication Technology)技術が発達した現代において、マーケティングにはITの技術が不可欠になりました。O2O型のマーケティング、TwitterやLINEといったSNS施策、デジタルサイネージを用いた情報配信等、企業のマーケティングは多様化を見せています。今回は、IT技術とマーケティングをうまく掛け合わせた事例を紹介します。

まず、デジタルサイネージをマーケティングに利用した事例を見てみましょう。屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所でネットワークに接続したディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信する 「デジタルサイネージ」は、今や広告媒体としや販売促進やプロモーションなどに加え、ソーシャルメディア的な用途でも大きな効果を発揮しています。

販売促進を促す店内でのデジタルサイネージ

デジタルサイネージを利用した販売促進策の事例です。

座ったまま自由にトッピング&注文

米ピザハットは、店舗のテーブルをデジタルサイネージにすることで、顧客に新たな購買体験を提供しています。テーブルがディスプレイになっているので、座ったままでピザに乗せる自由にトッピングを選ぶことができます。

トッピングが終わったら、そのままディスプレイから注文! メニューという枠を超えて食べたいピザをカスタマイズできるうえに、実際にどんなピザが出来上がるのかをディスプレイで確認できるので、顧客の購買意欲を駆り立てるのに大変有効な手法だといえます。

日本では駅構内や街中に設置されているイメージの強いデジタルサイネージですが、海外ではこの事例のように身近に導入することで話題性も確保でき、子どもを中心とした利用客が興味や食欲をそそられるような仕組みを作り出すことに成功しています。

また、スマートフォンのNFC機能を利用すれば、その場で会計を済ませてしまえるお手軽さもあり、待ち時間にはディスプレイでゲームもできるので、ピザが来るまで飽きずに待てる気配りもされています。

こうした手軽さや顧客への気配り、サービスの提供も顧客満足度の向上には大変有効です。IT技術が発達した現在において、こうした技術とアイデアを融合させた新しい顧客へのアプローチを図る会社が増えてきています。

追加購買を促す店内でのデジタルサイネージ

デジタルサイネージを利用した販売促進策の事例の2つ目は、カナダにあるスポーツチェック社の仮想試着です。スポーツチェックは店舗内に多くのサイネージを用いて、顧客への販促を行っています。

店内にはたくさんの服がありますが、もちろん店舗に展示できる商品数には限界があります。そこで展示しきれない商品はタッチパネルで見られるようにして、店舗にはない商品も来店した顧客にアピールできます。

また、一部ではディスプレイを設置して店舗にない服を仮想試着できるようになっています。こうしたサービスの最大の目的は、店舗内に展示しきれない商品をディスプレイに表示して補完することでしょう。このような手法により、顧客が欲しい商品が店にない、という事態を未然に防ぎ、顧客の購買機会の損失を防止することに役立ちます。

追加購買を促すレコメンド型デジタルサイネージ

続いて、追加購買を促すデジタルサイネージの実例を見てみましょう。

同じ販売促進策でも、追加購買の促進に力を入れている会社もあります。ハイブランドショップのレベッカ・ミンコフでは商品を買ってもらうだけで満足するのではなく、さらに追加購買を促進するためデジタルサイネージを“試着”体験に応用し、店舗内で活用しています。

顧客は、まず店舗内に設置された"Connected Glass"と呼ばれる大型のサイネージにチェックインし、試着したい商品を選択します。その後試着室に移動すると、室内の鏡状のサイネージを通して選択した商品を試着できるのです。

さらに、試着する商品をデジタルサイネージで選択すると、その商品に付随した形でおすすめの商品が表示されたり、追加でオンラインカタログから商品を探したりできるようにもなっています。何度も試着室と店舗内を往復することなく、サイネージ上で自分が好きなタイプの服をその場で確認できるので、顧客満足度の向上に繋がります。

顧客の中には、セール品やサイズ違いの商品を探すために大量の服を試着室に持ち込んだり、わざわざ服を持って売り場へ戻ったりするのが面倒だという人も多いでしょう。このようなディスプレイでのオススメ表示は合わせ買いを促進し、顧客単価を上げる取り組みとして大変有効な手法となっています。

屋外での販促事例

ここまで、店内でのデジタルサイネージ販促について見てきました。続いて、デジタルサイネージを利用した屋外での販売促進策を見てみましょう。

カナダのマクドナルドでは、屋外のデジタルサイネージ上で“朝日”とリアルタイムで連動したプロモーションを行っています。

(http://adsoftheworld.com/media/outdoor/mcdonalds_mcmuffin_sunriseより)

そのコンセプトは、気象データと広告を即時的に連動し、人々に商品を印象付けるというもの。

高速道路にあるデジタルサイネージに映し出された画面の下から、朝日が昇るのに合わせて朝マックの看板メニューである「エッグマックマフィン」も少しずつ画面内に現れるという仕組みです。動画を配信できるデジタルサイネージを利用することで通行者に朝マックを想起させ、マクドナルドでの購買促進という狙いが実現されています。

高速道路という通行者がゆっくり看板を見られない状況でもデジタルサイネージをうまく利用した広告を配信して、よりインタラクティブな効果を発揮させて顧客の好感度を向上させることに成功したキャンペーンです。

製品プロモーションも兼ねるデジタルサイネージ型自販機

今度は、デジタルサイネージを利用したプロモーションの実例を見てみましょう。米Mondelez International社の「Diji-Touch」と名付けられたお菓子型の自販機があります。

製品のプロモーションに“Looks like a vending machine. Acts like a marketing engine.”とある通り見た目は普通の自動販売機ですが、マーケティングのための大変有効な機能を備えています。

日本でも駅構内などでよく見られるタッチパネル式自動販売機との最も大きな違いは、商品情報を3Dパッケージモデルで表示する点です。3D表示を行うことで最大限に商品の魅力を伝え、顧客の購買意欲を促進できます。またデジタルサイネージのタッチ機能を利用して、売られているお菓子の表面に自由に絵を描ける、という遊び心のある広告も可能です。

さらに、この自動販売機にはもう1つ大きな機能があります。顧客が商品を購入する際の待ち時間にはディスプレイの上部に広告を表示し、何も操作されていない(顧客がいない)ときにはディスプレイ全体に広告を表示するようになっているのです。

このようなデジタルサイネージ型自販機を駅や街角に設置すれば、通常の自動販売機としてだけでなく、広告枠としても大きな効果を発揮するようになっているのです。

ARとデジタルサイネージを利用したキャンペーン

AR(Augmented Reality:拡張現実)は現実世界を補う「何か」を追加することで、目の前にある現実以上の情報を提示する技術や、その技術によって表される環境そのものを指す言葉です。

デジタルサイネージを街中に配置することで実際の風景を利用した広告動画が配信可能となり、インタラクティブな可能性が広がるようになりました。例えば、ペプシマックスはロンドンでARとサイネージを用いた”Unbelievable”キャンペーンの一環として斬新なプロモーションを行っています。

バス停の壁の一面が透明なデジタルサイネージディスプレイとなっています。ディスプレイに映る現実の風景にサイネージ上に流れるアニメーションが融合され、アニメ―ションが現実に起こっているかのように見せることができます。

1度体験すれば、映像が脳裏に焼き付くことは間違いありません。通行者を過度に驚かせたりしない等、広告の方法を間違えなければプロモーションとしても大きな効果があるでしょう。また、プロモーションを体験する人々の映像をまとめることで、その映像を見た第三者にも広告効果があると考えられます。

O2O型マーケティングの実例

ここまで、海外企業におけるデジタルサイネージ型の販売促進策やプロモーションの実例を見てきました。

今度は、海外企業におけるO2O型のマーケティング実例をいくつか見てみましょう。

O2Oは「Online to Offline」の略で、「On2Off」と表現されることもあります。ネット上(オンライン)からネット外の実地(オフライン)での行動へと促す施策や、オンラインでの情報接触行動をもってオフラインでの購買行動に影響を与えるような施策を指します。

メジャーリーグでiBeaconが大規模採用

ibeaconは米アップルが開発した「Bluetooth Low Energy(BLE)」を使った近距離での位置情報を検出する新技術です。数十cm~数十mという精度で屋内の位置情報を検出できることから店舗への誘導といったO2Oのための新たな手段として期待を集めており、アメリカではメジャーリーグで大規模にibeaconを設置するという試みが行われています。

ibeaconの導入により、以下のような情報配信の施策が可能になりました。

  1. スタジアムに近づいた人のスマートフォンに試合情報を配信し誘導する
  2. 入場用のバーコードを入場者のスマホに表示し、座席場所等の情報を提示

他にも先発メンバーやスタジアムの情報などを配信することで、試合開始直前まで顧客がスタジアムに足を運ぶ動機づけに繋げることができ、顧客満足度の向上やリピート来場者の増加も見込まれます。

また、近距離での情報配信が可能であることから、スタジアム内の店舗で使用できるクーポンをプッシュ送信するなど、スタジアム内にいる顧客が快適に過ごすための「かゆいところに手が届く」情報を発信する手法で宣伝・集客を図っています。

大型ビジョンがゲーム画面に大変身

米マクドナルドもO2Oを利用したキャンペーンを行っています。

前述したデジタルサイネージ広告のように、米マクドナルドはIT技術を駆使した独創的なマーケティング施策を次々と打ち上げています。例えば、スウェーデンのマクドナルドでは「大型デジタルサイネージを用いたエアホッケー」という施策を行い、世界中から注目を集めました。

街頭に設置された大型のデジタルサイネージにスマートフォンでアクセスすると、そのゲームに参加できます。ゲームをクリアすると近隣のマクドナルドの店舗情報とそのお店で利用可能なクーポンが入手できるようになっています。アプリなどをダウンロードする必要がないため参加のハードルが低く、幅広い層に訴求できるうえにTwitterやFacebookをはじめとした拡散力のあるSNS施策との連携も容易であり話題性が確保できる施策です。

今回は、IT技術を活用した海外企業の販売促進やプロモーションの事例を見てきました。このような販売促進策やプロモーション、キャンペーンは海外だけでなく、日本でも行われています。

次回は、国内企業におけるマーケティング施策の実例を見ていきます。

【参考Webサイト】

  • http://o2o.abeja.asia/product/6959/
  • http://adgang.jp/2015/02/88133.html
  • http://adgang.jp/2015/02/87088.html
  • http://smartphone-ec.net/ibeacon/949.html
  • http://tento-promotion.com/case/?p=289
  • http://creive.me/archives/4209/
  • https://www.si-po.jp/post/case/24629.html

大学在学中にソーシャルメディアを活用した収益化マーケティング会社アントで働く。Webプロモーション支援を得意とし、ソーシャルメディア活用、Webサイトディレクションを実施。マーケティング支援の書籍や連載などの出版活動を数多くの出版社で行っている。IT文化の振興とUNIX/Linux文化の楽しさを広く伝え、エンジニア同士の連帯を図ることを目的とするトークイベント「TechLION」のレポートブログを担当。

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