国内情報セキュリティ産業の動向

2009年11月25日(水)
勝見 勉

情報セキュリティツール市場の栄枯盛衰

 図3-1は、情報セキュリティツール市場について、その内訳分類別に、2006年度から2009年度までの4年間の変化を示したグラフです。

 最大の区分市場は「コンテンツセキュリティ対策製品」で、約1400億円の規模になっています。経済産業省の「平成20年度情報セキュリティ市場調査」報告書を見ると、ここにはウイルス対策製品の企業向けと個人向けがそれぞれ約500億円含まれていて、大きな部分を占めていることが分かります。

 次に規模が大きいのは「アイデンティティ・アクセス管理製品」の約600億円ですが、この市場は2006年度には500億円未満だったのが、2007年度に急速に伸びました。同報告書によれば、この伸びの要因は情報漏えい対策と内部統制対応であるとしています。

 次に大きな市場は「ネットワーク脅威対策製品」ですが、ほかの市場に比べて伸びの勢いがありません。ここはファイア・ウォールやIDS/IPS、VPNで構成される市場ですが、これら複数機能を1台でまかなう「統合型アプライアンス」への置き換えが進んでいるためだと見られます。

 次に規模が大きいのは「システムセキュリティ管理製品」市場で、現在では500億円程度にまで拡大しています。端末側での外部記憶メディアへの書き込みや印刷を制限したり、ルール通りソフトの更新をしているかといった状態監視をするもので、やはり内部統制対応の必要から需要が拡大している分野です。

 同様に、情報漏えい対策を強く意識した結果として強い伸びを示しているのが「暗号製品」市場で、現在の規模は300億円台ですが、2007年度には30%以上の伸びを示しています。

 このように、細かい市場の差異によって、その規模や勢いには随分と差があります。

情報セキュリティ・サービス市場の消長

 図3-2は、情報セキュリティサービス市場について、同じく4年間の変化を示したグラフです。

 最大の区分市場は「セキュアシステムの構築サービス」で、1500億円近い規模がありますが、伸び方に勢いがありません。2009年度には大幅なマイナス成長になる予測です。このサービスは情報システムにセキュリティ機能を組み付ける仕事で、システム投資が期待できない2009年の落ち込みが大きいと見られたようです。

 次に規模が大きいのは「セキュリティ運用・管理サービス」で900億円前後に達します。セキュリティの監視や運用のアウトソーシングが大きく、勢いがあります。このほか、インシデント対応をサポートするサービスや、電子認証サービスも成長株です。

 「情報セキュリティコンサルテーション」も700億円を超える大規模市場を形成しています。情報セキュリティ対策を総合的に支援するコンサルティングが大きいですが、診断/監査サービスも需要が高まっているようです。要因としては、ほかの高成長市場と同じく、情報漏えい対策や内部統制対応が指摘されています。

 同様の理由で、規模は小さいながら極めて高い成長率を示したのが「情報セキュリティ教育」です。情報漏えいも、内部統制のほころびも、現場の従業員一人ひとりの無知や不注意や怠慢によるケースが多いことから、企業が社員教育に注目し、注力した結果だと見られています。

 情報セキュリティ市場は、一部に成熟した区分市場もありながら、全体としては企業の情報防衛やコンプライアンス対応のニーズを背景に、しっかりした足取りで成長している模様です。

 日本の情報セキュリティ産業がより活性化して、日本の情報セキュリティをよりよい状態にしていくために何をするべきか、IPAでは調査と研究を進めています。

【参考文献】

「経済産業省: 平成20年度情報セキュリティ市場調査」(http://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/h20fy_marketresearch.html)(アクセス、2009.11)
「JEITA: ソフトウエア、サービス」(http://it.jeita.or.jp/statistics/soft_sol/h19/)(アクセス、2009.11)
「JEITA: コンピューター」(http://it.jeita.or.jp/statistics/midws/h19/)(アクセス、2009.11)
「JEITA: パソコン」(http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/pc/2007/)(アクセス、2009.11)
「JEITA: 周辺機器」(http://it.jeita.or.jp/statistics/intelterm/2007/table-a.html)(アクセス、2009.11)
「CIAJ: 通信機器」(http://www.ciaj.or.jp/content/info/dat/tusin.html)(アクセス、2009.11)

IPA セキュリティセンター
日新電機、シマンテック、GSX、リコー関連会社で情報セキュリティ事業の企画推進、営業、マーケティングの責任者を歴任、草創期から日本のITセキュリティの普及に携わる。現在IPAセキュリティセンター研究員兼株式会社情報経済研究所代表取締役。NPO日本ネットワークセキュリティ協会理事・幹事、NPO日本セキュリティ監査協会幹事、CISA、CAISアソシエイト、情報セキュリティアドミニストレータ、ISMS審査員補。

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