クリエイティブと開発のはざまで
役割分担を詰めなおす
一度腹を割って、直接のスポンサーであるマーケティング部、それにデザイン会社さんと話をしてみようと思い立ちました。ソフトハウスのリーダーは、マーケティング部にお願いして、臨時のミーティングを開いてもらいました。勇気を出して相談してみると、デザイン会社としても不安を感じていたことが分かりました。
ショックだったのは、プロジェクト・マネージャーがプロジェクトに不在だったことです。本来であればマーケティング部の担当者がプロジェクト・マネージャーを務めるはずで、主催したキックオフでも体制図には取りまとめの位置に描かれていました。しかし、その担当者にはプロジェクト・マネジメントの経験はなく、「業者さんがうまく進めてくれるだろうから、自分は社内調整や事務ごとをやって、あとはユーザーの立場で要望を挙げればいいのだ」と考えていたことが分かったのです。思えば、キックオフの場で語られたことは、Webサイト構築の狙いとして、各ブランドが訴求したいターゲット市場やWeb通販での販売目標といった事柄ばかりでした。
そこで、あらためてプロジェクトの進め方と役割分担を整理しなおすことにしました。エンジニアの目から見たときのWebならではのポイントとしては、「マーケティングやプロモーション、販売といった立場のステーク・ホルダーの発言力が強い」ことが気になります。こうした状況下で、どのようにシステム設計に落としていけるのかがポイントです。一方、デザイン会社の側からは、システムでできることとできないこと、そのコスト感が分からないこと。このあたりがポイントです。
また、相互の擦り合わせの中で、実装工程においてCSSやJavaScriptはどちらが担当するのか、クロスブラウザでのテストはどうするか、デザイン側で制作したHTMLモックからPHPやJSPをシステム側で作成した際にHTMLに修正が入るが、そこでの管理はどうするか。こうした調整事項もたくさん出てきました。
異文化交流のつもりでコミュニケーション
全体のスケジュールとしても、デザイン側で注視するのは、マスター・デザインや、静的コンテンツを含めたサイト・マップの確定といったマイルストーン、文言を含むコンテンツのリテイク回数などです。一方、システム側では、機能仕様の確定と製品選定、テストの開始と終了あたりが重要です。似た事柄ですが、微妙に内容もタイミングも異なります。
相互に連携していく作業では、各ページの初版HTMLの引き渡し時期などもスケジュールに載せる必要があります。役割分担とそれに基づく作業の段取りについて、システム側とデザイン側の要望をそれぞれ整理して、ユーザーであるマーケティング部を中心に調整していくことで話がまとまりました。
このミーティングを契機とし、3者間のコミュニケーションを強化することで、プロジェクトはようやく転がり始めました。もちろん進みだしたらそれはそれで、たくさんの課題や調整事項が出てきますが、それはすでにその3者間の枠組みの上で解決可能になっていたのです。
この事例では、ソフトハウスもデザイン会社も、こうした相手と組んで「システムに支えられた一般向けWebサイト構築」を実施した経験がなかったために、非常に鮮明に課題が浮かび上がりました。エンジニアリングに基づくシステムの開発と、クリエイティブな活動としてのプロモーション/マーケティング媒体の制作は、まったく異なる価値観と都合を持った“異文化”なのです。
Webサイト構築を成功させるには、異文化間のコミュニケーションは重要な課題となります。相互理解と歩み寄りに基づいて、お互いが動きやすい、プロジェクトとしてゴールに向かうことのできる役割分担と進め方を工夫することが大切です。
次回は、業務系システムの開発者がWeb開発に携わるようになって、戸惑ったり苦労したりするポイントを紹介します。
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