広がるビジネス系フリーランス活用の現状【後編】
はじめに
前回は、日本国内における広義のフリーランス人口が1119万人に達する(ランサーズ株式会社、フリーランス実態調査2018より)など増加する一方で、フリーランスを活用したことのある企業が2割弱にとどまる(経済産業省の資料)という実情を紹介しました。
では、企業にとって何がフリーランスを活用するうえでの「ハードル」になっているのでしょうか。また、その障害をどのように乗り越えていけば良いのでしょうか。今回は、企業側から見たフリーランスへの仕事発注のポイント、すなわち業務の切り分け方や任せ方、知っておきたい法的事項などを紹介します。
企業がフリーランスを活用する際の
ハードルと乗り越え方
図1は、企業側に「フリーランスを活用するうえで何がボトルネックとなっているか」のアンケート結果です。最も多かった回答は「費用対効果が不明」(28.2%)というもので、「技術・ノウハウ・機密情報等の流出懸念」(23.3%)、「適切なフリーランス先が見つからない/相談相手がいない」(17.0%)、「活用領域が限られており、効果が小さい」(17.0%)、「個人の契約締結に対する不安(社会的信用力の不安)」(17.0%)といった回答が続きます。
一方で「特に課題はない」との回答も2割以上に達しています。「現在外部人材(=フリーランス)を活用しておらず、今後の活用も検討していない」という企業において「特に課題はない」と回答した企業の割合は一層高く3割に達しています。「特に課題はない」ものの「フリーランスを活用しておらず、活用する予定もない」という背景には、そもそも人材獲得の手段として「フリーランスを活用する」という選択肢を知らなかったり、活用イメージが思い描けなかったりすることがあると推測されます。
「適切なフリーランス先が見つからない/相談相手がいない」(17.0%)、「活用領域が限られており、効果が小さい」(17.0%)といった回答も、企業側がフリーランス活用に関する知見を十分に持っていないがゆえと考えられます。
前回でも紹介しましたが、近年フリーランスの職種領域は非常に多様化しており、そうしたフリーランスと企業とのマッチングを行う企業も多数生まれています(図2)。
もし、独自のネットワークで「適切なフリーランスを見つけるのが難しい」と感じるのであれば、こうした各種マッチングサービスを活用するのも一つの手です。各サービスにより得意とする職種や領域は異なり、企業課題に応じて適切なフリーランスを提案してくれるサービスもあれば、オンライン上で企業側が直接フリーランスへ業務の発注を行うサービスもあります。
また、サービスによっては、そのフリーランスの過去の仕事に対する評価を「見える化」しているところもありますし、そこまで定量化できていなかったとしても、クライアントから寄せられた過去の仕事に対する評価を定性的に収集し、それらをマッチングに活かしているサービスもあります。
このような多様なマッチングサービスを目的に応じて使い分けていくのがポイントです。対応可能な職種もIT・クリエイティブ系にとどまらず、事業開発・マーケティング・広報・人事・経理財務等のビジネス系にまで広がってきていますし、発注可能な領域も粒度も戦略立案を含む上流工程から細かなタスクベースのものまでさまざまです。上記アンケートで企業側が懸念しているように、「フリーランスは活用領域が限られており、効果が小さい」とは言えません。
フリーランスの業務の切り分け方と仕事の任せ方
企業側が最も「ボトルネック」として懸念している「費用対効果が不明」という点ですが、背景には日本企業のこれまでの人材活用の在り方や業務の進め方があります。これまでは、人材獲得の方法として大企業を中心に「新卒一括採用」が主流でした。日本企業の人材採用にあたっては、欧米企業のような明確なジョブ・ディスクリプション(職務記述書。具体的な職務内容や目的、責任、権限範囲等を明記したもの)がない場合が一般的です。外部のフリーランスを活用するには「どの業務をどのようなゴールへ向かって任せるか」を整理して依頼することが重要ですが、なかなか各人が担当している業務を改めて整理・分解するような機会がなく、それらの業務を社員に任せた場合と、フリーランスに任せた場合の費用感の比較検討が容易にできず、費用対効果を判断できないのではないでしょうか。
筆者たちの会社では、企業が外部のフリーランスを活用するにあたり、必要なステップを4つに分けて考えています(図3)。●ステップ1:「ゴールの明確化」
外部人材の活用により「どういった課題を解決したいのか」「何を達成したいのか」など、目的とゴールを明確化することです。そもそもどういった課題を解決化しうるのかイメージできないという企業の方は、前述した各種マッチングサービスのホームぺージ等で事例を確認しても良いでしょうし、経済産業省で取りまとめている「フリーランス等活用企業事例集」を参考にしても良いでしょう。
「半年間で新規事業を創出したい」「広報体制を確立したい」「Webマーケティングにもっと力を入れたい」……といった企業側が抱える課題・ニーズこそがこの「ゴールの明確化」にあたります。この部分が明確になると、どういったスキル・経験を持つフリーランスを活用するべきかが見えてきます。
●ステップ2:「社内リソースの確認」
ステップ2は、ステップ1の内容を達成するために必要となる「社内リソースの確認」を行います。具体的には「社内で投下できるヒト・モノ・カネはどれくらいあるのか」「社内でこの課題解決に携わる人材はいるのか、もしくは社内のリソースは使えないので、外部人材に完全委託したいという状況なのか」「それともプロジェクトチーム自体は存在しているので、専門知識を持ったメンバーとして関わってもらうようなイメージなのか」「完全委託するにせよ、そのフリーランスに発注する窓口となる人材が必要になるが、どの人が関われそうか」「これらの課題解決のためにどれくらいの予算を投下できそうか」……などを確認します。
●ステップ3:「依頼業務の切り出し」
後述する契約の話とも重なりますが、フリーランスに仕事を委託する場合、業務委託契約(請負契約もしくは準委任契約)を締結します。契約において必要なことは企業側が①勤怠管理を行わないこと、②指揮命令を行わないことです。
このように書くと「打ち合わせの時間も決められないのか」「どうやって業務を行うのか」という質問をいただくことがあります。もちろん「○曜日○時からの定例会議に参加をお願いしたい」「社内に常駐して業務を遂行してもらいたい」等を依頼することも可能です。しかし、社員に行うようないわゆる「勤怠管理」は行えません。また「指揮命令」についても、業務に関する依頼や相談ができます。しかし、手取り足取り指導し、事細かに命じるような発注は雇用の範疇に入ってきてしまいます。フリーランスはあくまで自律的に業務を遂行してもらう対象なので、その場合にどういった業務であれば依頼可能かを考えます。
●ステップ4:「想定工数の算出」
通常、社員に業務を任せている限りでは「なかなか考えたことがない……」という方も多いかもしれません。しかし、フリーランスに業務を委託・発注するとなると、大よその工数を算出する必要があります。
「テープ起こし」「ライティング」「ロゴデザイン」など納品ベースで業務を遂行する請負契約の場合は、あくまで「納品物に対していくら」という値付けになりますが、事業開発・マーケティング・広報・人事・経理財務といったビジネス系フリーランスは「準委任契約」と呼ばれる稼働ベースで業務を遂行するケースが多くなります。そうなると、その業務にどれくらいの「工数」がかかるかを算出しないことには発注が難しいものです。
請け負うフリーランスにとっても、それが週1日程度の工数でできるのか、週3日程度の工数が必要かによって受託の是非が左右されます。他のクライアントの仕事との兼ね合いもあるからです。「想定工数など考えたこともない」という企業関係者は少なくありませんが、例えば、その業務を遂行している社員がいれば、その人の工数を参考に「だいたいこれくらいの時間がかかる」という目安を算出することは可能なはずです。「まったく見当もつかない」という場合は、依頼予定のフリーランスに工数の算出を依頼したり、相場を熟知しているマッチングサービス事業者に相談したりするのも良いでしょう。
このように、ステップ1~4を考慮したうえで費用対効果を判断すれば良いですね。フリーランスは社員よりも時間単価が高くなる可能性もありますが、フリーランスの場合は協議のうえで契約期間を自由に設定できますし、社会保険料も企業が負担する必要はありません(フリーランスは自身で国民健康保険・国民年金に加入します)。
マッチングサービスを利用した場合は、過去のクライアントからの評価や、過去にそのフリーランスが手掛けてきた仕事・プロジェクトを参考に、得られる成果を類推したうえで判断をくだすことも可能になります。
ただし、こうした入念なステップを踏んだとしても思ったような成果が得られない場合もあります。そのような場合は事前調整に問題があるケースが少なくありません。思ったような成果が得られていないことを率直にフリーランスにフィードバックし、業務内容や遂行方法を改めて整理・見直すステップを入れると良いです。
筆者たちが過去にマッチングをお手伝いした事例でもこんなことがありました。あるメーカーで商品のプロモーション業務を委託されたマーケティング系のフリーランスがいたのですが、クライアント企業は「思ったほどのパフォーマンスが出ていない」と言うのです。改善するべく話し合った結果分かったことは、クライアント企業からの依頼が細かすぎて、フリーランスとしては思うように動きにくかったというのです。思い切って業務をすべて任せるようにしたところ、自主的に動ける範囲が広がり、クライアントの満足度も高まりました。
これは話し合いで業務の遂行方法を見直してパフォーマンスが改善した事例ですが、中には改善が見られず、契約期間内にこれ以上業務を委託できないと感じることもあるかもしれません。そういったことも想定して、契約書には一定の予告期間を設けたうえで企業・個人双方から途中契約解除可能な条項を入れておくことをおすすめします。
フリーランス/企業の双方が知っておきたい
法的リスクへの対応法
先のアンケートにもあるように、フリーランスに業務を発注するにあたり「技術・ノウハウ・機密情報等の流出懸念」を抱く企業は少なくありません。こうした懸念は、フリーランスと取り交わす契約書の中で機密保持に関してしっかり定めてクリアにする必要があります。
個人事業主であるフリーランスとの契約に信用不安を口にする企業の方もいます。こうした個人事業主に対する信用不安を解決する仕組みも生まれてきています。私が理事を務めている一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会では、大手保険会社と共同でフリーランス向けの損害賠償責任保険を開発しています。
業務遂行中の対人・対物の事故だけでなく、情報漏洩や納品物の瑕疵、著作権侵害や納期遅延等、フリーランス特有の賠償リスクに備え幅広い補償を実現したもので、フリーランス本人だけでなく、発注主も対象となるため安心して業務を発注できます。フリーランスからも「この保険に入っていたからこそ案件を受注できた」という声が寄せられています。企業側もリスクを考えたときに、こうした自身で備えているフリーランスには積極的に発注していただきたいと思います。
おわりに
フリーランスの活用にあたって、さまざまなリスクやハードルがあるのは事実です。しかし、労働人口が急激に減少する中、豊富な経験や専門性を持つフリーランスを活用できるかどうかは今後の企業の事業成長を左右すると言っても過言ではありません。フリーランスの可能性について、一人でも多くの企業関係者に知っていただければ幸いです。
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