連載 :
  インタビュー

AIブームを支えるコミュニティTensorFlowユーザーグループのこれまでとこれから

2017年7月4日(火)
鈴木 教之(Think IT編集部)

Googleが開発し2015年11月にオープンソースとして公開された機械学習ライブラリのTensorFlow、AIブームも相まって急激に利用者を拡大させている。そんなTensorFlowの日本のユーザーグループであるTensorFlow User Group Tokyo(以降、TFUG)が立ち上がったのは2016年の10月のことだ。まだ1年も経たないコミュニティだがTensorFlowとともに急拡大するTFUGの代表、下田 倫大氏と佐藤 傑氏に運営サイドの話を聞いた。

ーーまずは自己紹介をお願いします。

下田:TensorFlow User Groupの主催をしています。本業はデータ分析を専業にしている株式会社ブレインパッドでエンジニアをしています。最近の機械学習や深層学習のブームに追い風を受ける形で、当初の想像以上にユーザーグループが盛り上がっており、うれしい悲鳴をあげています。

ブレインパッド下田 倫大氏

佐藤:もともと「TensorFlow勉強会」という別の勉強会を主催していたのですが、下田さんに誘われてTFUGを手伝うことになりました(笑)。現在はTFUGの運営委員長をやってます。所属は株式会社KUNOの代表と、Singularity株式会社というAIに特化した会社の取締役を兼任しています。

KUNO/Singularityの佐藤 傑氏

ーーTFUGの成り立ちを教えてください。

下田:AlphaGoでブームが到来し、2016年のGCP NEXTでCloud Vision APIでの大々的な発表もあってAIや要素技術である機械学習に大きな注目が集まりました。Google Cloud Platformのパートナーである弊社(ブレインパッド)にも問い合せが増え、TensorFlowやGCPの機械学習サービスを使った案件をこなす中でノウハウも溜まっていきました。日本でのTensorFlow活用にアクセルをかけていきたいという思いもあり、(当時先行していた)TensorFlow勉強会での登壇企業などを集めてユーザーグループ立ち上げに向けた決起会を実施したという背景があります。

なお、Googleとの関係性という点では、主催はあくまでもTFUGであり、我々が自主的に運営していますが、適宜Googleからも会場提供などの支援を受けつつ運営しています。

ーーユーザーグループに参加している方々の属性を教えてください。

佐藤:かなりいろんな方がいますね。もともとのTensorFlow勉強会はデベロッパーが多かったですが、TFUGではサービスの人も多いです。ちなみに、TFUGでは偶数回を技術寄り、奇数回をサービス寄りのテーマに分けて実施するようにしています。他にもアイデアソンやハンズオンなどの形態を取り入れています。

下田:TensorFlowはあくまでもライブラリです、それだけだと一部のデベロッパーに絞られてしまう懸念がありました。ベンダーや学生、職種も企画や経営の人もいたりして、なるべく間口は広げたいと思っています。

また、TFUG本体からテーマを切り出して、ハード部のようなデバイス向けや、for Bizといった非エンジニアの事例に特化したものも実施しています。Googleが主催するAPP DOJOとの共催イベントもやりました。思ったより速くコミュニティが成長していろんな形ができてきていますが、今後は分科会や支部が自主的に広がっていってくれるのが理想的だと思っています。

ーー最近、コミュニティや勉強会に参加する人が増えていますが、それを自ら主催する意義はどこにあるのでしょうか?

佐藤:もともと日本でAIを広めていきたい、どんどん若い子たちが入ってきてほしいという思いがありました。これからのソフトウェア開発が変ってくるので、興味を持ったエンジニアが増えてほしいという期待もあります。また、自分はAndroidの黎明期にもコミュニティ活動に取り組んでいましたが少し離れたところから見ていました、その時のコアなメンバーたちがどんどん成長していくのを横で見ていたので、次は自分たちもという思いはありました。

下田:自分はオープン系のエンジニアとして活動してきたので、何かしらオープンソースにお返しをしたいという気持ちを持ってました。TensorFlowが出てきたタイミングで、これはしっかりと盛り上げたいと思いました。というのも、もともとデータ分析の仕事に携わっていたので、ビッグデータやデータサイエンティストブームは間近で見ていたのですが、ややビジネス側に偏重してしまい、技術者が斜に構えてしまった感じがしていました。せっかく大きな流れが来たのに、技術者目線では上滑りしてたんじゃないかな、もっとやりようがあったのではないかな、という自分の中での悔しさがありました。AIという分野はこれまで以上に技術的な内容が重要になってくる、エンジニアの受け皿としてコミュニティやユーザーグループがないと、また一過性のブームとして去ってしまうのではないかという危機感があったのです。

実際ユーザーグループを運営してみると、いろんな方々と交流できるのが一番のメリットだと感じています。運営メンバーが一番TensorFlowの盛り上がりを体感していて、これはブームではなく本物だというのを感じています。また、会社の立場としても社内やクライアントへの提案に重みが増します、結果的に業務にも良い循環が生まれています。

ーーほかのAI関連のコミュニティに比べてもすごい伸び方をしていますが違いは何でしょう。

下田:コミュニティにユーザーが根付いて、そのユーザーが自ら発信していくというサイクルが世界中で実現できているのが大きいと思います。以前、Google主催のAPACでML関連で活躍している方々を集めたイベントに招待いただいたのですが、韓国や台湾でもAlphaGo以降ものすごいブームになっていますね。

佐藤:昔、Androidをやっていた人たちが新しいものを探していてTensorFlowがハマったというのもあると思います。また、マシンラーニングやディープラーニングが流行りだしたときにちょうどTensorFlowが出てきた、タイミングがドンピシャでした。

下田:他のコミュニティはディベロッパーよりもアカデミックな印象があり、どうしても論文や研究が重視される印象があります。もちろんそれは悪くないのですが、TensorFlowの場合はディベロッパーが実際に動くものを作ってどんどん共有していて、それを見たひとがまたチャレンジする流れができているのではないでしょうか。

佐藤:Webエンジニアや組み込みエンジニアも試行錯誤して動くものを作れてしまう、ちょっと触ってみたいという人たちでもやりやすいのではないかと。

ユーザーグループのconnpassページ、フグのロゴがトレードマーク

ーーGoogleのライブラリということで基本的にはGoogle Cloud Platform(GCP)がベース?

下田:いえ、GPUが動くマシンであればどこでもいいと思っていて、実際のところGCPはGPU対応が遅かったクラウドでもあります。GCPにGPUインスタンスがなかったころにはAWSが多く使われていました。ただし、今後はGCPでGoogle Cloud Machine LearningというマネージドなTensorFlow環境が提供されます。TensorFlowを動かすプラットフォームとして他のクラウドにはない魅力的な機能です。

佐藤:いまはまだいろんな選択肢があると思いますが、クラウドに関しては徐々にGCPに寄っていくのではないでしょうか。

下田:また、GCPとの連携という面では、Jupyterライクな環境をクラウドでホストするCloud Datalabというサービスも登場し、GCPの各種サービスと統合しています。BigQueryやGoogle Cloud Storageにあるデータを、GCPクラウドの恩恵を受けながら手元のローカルマシンで処理できる、データサイエンティストの今後の働き方に影響がありそうなデータ分析のための良いツールが揃っています。データの収集から加工、分析までDatalab経由でできてしまうのですから。

ーーついにバージョン1.0になりましたが今後のTensorFlowはどう発展していくのでしょうか?

※編注:このインタビューは2017年3月に実施されました。

下田:組み込み用のXLAのコンパイラ※1が登場したのが大きいです。これによって、モバイルや組み込みといった非力な環境でもTensorFlowのモデルを置いて動かせるようになります。今は学習だけではなく、推論のフェーズでもGPUがないと実用には至りません。これを小さく圧縮できるとうことで、これまでIoT×AIで実現できなかった話が現実を帯びてきます。実世界でのAIを活用していくうえでの重要な技術になるのではないでしょうか。一方でエンジニアとしてはよりローレイヤーの知識が必要になってきたとも言えます。

※1 Googleの関連ブログ:https://developers-jp.googleblog.com/2017/03/xla-tensorflow-compiled.html

佐藤:モバイル側の人間が機械学習をやりたいと思っているのとタイミングが一致しているのがさすがGoogleですね。

下田:今後TensorFlowを発展させていく上では先ほどのコンパイラもそうですが、TPUのようなチップを設計してしまうあたりも、Googleが単なるソフトウェアだけではなく総合的な戦略を立てているのがみてとれると思います※2。組み込みやモバイル含めどこでもAIが動いていく。もちろんすでにGoogleが持っているAndroidとも連携して広がりが出ていくのではないでしょうか。

※2 編注:実際にインタビュー後に実施された2017年のGoogle I/Oでは、モバイル向けのTensorflow Liteや第二世代のTPUなどが登場し、Googleがこれまで以上にAIにフォーカスしていくことが発表されている。

著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集グループ 編集長

Think ITの編集長兼JapanContainerDaysオーガナイザー。2007年に新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や(紙|電子)書籍、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、サイト運営に取り組みながらimpress top gearシリーズなどのプログラミング書も手がけている。

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