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  インタビュー

ハイブリッドDBaaS戦略で企業のイノベーションを支えるEnterpriseDB

2017年6月30日(金)
工藤 淳

2017年5月18日(木)、PostgreSQLの商用版RDB「EDB Postgres」を提供するEnterpriseDB社(日本法人、エンタープライズDB株式会社)による、「EnterpriseDB Summit 2017 Tokyo」が東京・飯田橋で開催された。本イベントは、同社が最新の製品や技術情報を国内のユーザーおよびパートナーに紹介する場として、毎年、大きな注目を集めている。基調講演を終えたばかりの同社 社長兼CEO Ed Boyajian(エド・ボヤジン)氏と上級副社長(製品開発担当)Marc Linster(マーク・リンスター)氏のお2人に、今年のテーマや製品戦略などを伺った。

Postgresプラットフォームの進化がもたらす数々のビジネスメリット

ーー今年のメインテーマおよび、現在のデジタルビジネスにおける貴社の課題、戦略についてお聞かせください。

ボヤジン:PostgreSQLのデータベースおよびEnterpriseDB社のPostgreSQLプラットフォームは、今年も非常に大きな進化を遂げたと確信しています。同時に、もっとも重要なのは、それらの最新テクノロジーが、皆様のデジタルエンタープライズにおける変革に、いかに役立つかを理解していただくことだと考えています。

社長兼CEO Ed Boyajian(エド・ボヤジン)氏

ーーその進化がもたらすメリットとは、具体的にどのようなものでしょうか。

ボヤジン:1つはコスト削減です。オープンソース データベース テクノロジーは大幅なコスト削減をもたらし、そこで生まれた余裕を新たな事業投資に振り向けられるようになります。2つ目は、ハイブリッドクラウドに対応することでお客様のビジネスに合わせた柔軟な展開プランを選択できるようになることです。しかもオープンソースソフトウェア(以下、OSS)なので、オンプレミスであれクラウドであれ、ライセンス契約に縛られることなく、どこにでも展開可能です。

ーーまさにOSSならではのメリットが、ビジネス変革の原動力として活用できるわけですね。

ボヤジン:PostgreSQLはとりわけイノベーティブなソフトウェアなので、モバイル機能やドキュメントストアといった新しい機能を導入しようというお客様に、きわめて画期的な技術提案やサポートを提供できます。

ーー「より安く、より柔軟性を備え、さらにイノベーションを促進できる」ということですね。

ボヤジン:その3つのメリットに加えて、現在非常に高度なエコシステムがPostgreSQL周辺で形成されています。技術開発からビジネス面まで、さまざまな領域やフェイズのパートナーが協働して、エンタープライズ利用におけるPostgreSQL導入を一貫して支援する体制が整っています。

機能の高度化を追い風に、グローバルで拡大するEDB Postgresユーザー

ーー金融・証券などのミッションクリティカル領域にもOSSユーザーが拡がる中、今回発表されたEDB Postgres Platform*1、Advanced Server 9.6*2、EDB Ark*3などの新製品は、どのようなアドバンテージを提供しますか。

*1:http://www.enterprisedb.co.jp/edb-postgres-platform-announcement
*2:http://www.enterprisedb.co.jp/products-services-training/products/postgres-plus-advanced-server
*3:http://www.enterprisedb.co.jp/edb-ark

ボヤジン:まず全体を通じて、PostgreSQLをデータベースとして高速化し、機能面でもより充実させています。さらに高可用性、ディザスタリカバリ、管理の容易さといった面でも大きな力を注いでいます。デジタルトランスフォーメーションにおいては、一瞬の障害=サービス停止も許されません。このため、お客様には「Postgresを採用することで、可用性の高いデータベースを利用できる」と認識していただくことが重要になるのです。

その上で、EDB Postgres Platformは、デジタルビジネスを推進しようとするすべての方々にとって、従来の商用製品では避けられなかった高い導入コストやライセンス料などにわずらわされず、データベースを活用していくための統合的プラットフォームを提供します。ここには、DBMSはもちろんインテグレーションや移行、管理などを行う周辺ツールや、サポート、トレーニングまで.必要なすべてが含まれています。

Advanced Serverは、PostgreSQLをベースに、多彩なエンタープライズ向け機能を搭載したデータベースエンジンとして知られています。今回発表されたAdvanced Server 9.6では、パフォーマンスとスケーラビリティの大幅な向上、モニタリングやマネジメント機能の強化、そしてOracleとの互換機能強化や大量データ読み込みの柔軟性向上などを実現しています。

ーーそうした機能向上や製品ポートフォリオ充実といった取り組みの結果、EDB Postgresは現在どれくらいのユーザーを獲得しているのでしょう。

ボヤジン:フォーチュン500社のうち20%の企業が、現在ITまたはデジタル戦略の中でEDB Postgresを利用しています。これらの先進的なお客様は、自社のビジネスを改善するだけでなく、そこから得られた洞察やベストプラクティスを積極的に提供してくれます。その知見を目にして、また新たなお客様がPostgreSQLを採用するといった好循環が加速しています。

ーー日本では、まだOSSの利用にためらいを持っている企業が少なくありません。EDB Postgresが、日本国内のエンタープライズ利用で成果をもたらした事例がありますか。

ボヤジン:もちろん日本においても、また、アジア太平洋地域においても数多くのユーザー事例が存在します。メガバンクやグローバルバンクのような金融業や保険会社、證券取引所。さらにテレコミニュケーションや政府官公庁などもあります。

いくつか具体例を挙げると、大手シンクタンク向けに納入された、一日当たり1,280万件のセンサー情報を収集・集計・加工できるエネルギーマネジメントシステム(EMS)。全国に440万人近い会員を擁する生活協同組合の宅配事業向け在庫管理システムを、OracleからEDB Postgresにリプレースした事例。そしてデジタルコンテンツ開発・流通支援企業向けの、EDB Postgresを使ったオンライン課金・決済システムなどがあります。

EnterpriseDB社はグローバルなビジネスを展開していますが、その半分は北米地域、残り半分の中でも、日本およびアジア太平洋地域は成長著しく、当社のビジネスにとって大切なお客様が大勢います。

EDB ArkのハイブリッドDBaaSがユーザー企業に最適のデプロイを実現

ーー今回の新製品の目玉の1つである、EDB Arkについて伺います。これはPostgresをデータベース・アズ・ア・サービス(DBaaS)として、プライベート/パブリッククラウド上に展開できるものですが、あえてハイブリッドを主眼に置いた狙いは何でしょう。

ボヤジン:私たちの調査で、エンタープライズ利用のお客様の多くが、現在データベースをオンプレミスとクラウドの両方で運用していることがわかりました。つまり実際の企業のITインフラのデプロイメントそのものが、ハイブリッド化しているのです。

ーーではまったく新しいデプロイメントの形態というよりは、むしろ実際のエンタープライズでの利用形態に最適化された形でDBaaSを実現しようという、野心的な試みなのでしょうか。

ボヤジン:そう言ってもよいでしょう。EDB Arkは、データベースをオンプレミスでもクラウドでも、お客様のビジネス形態に合わせてどこにでも展開でき、自社でその管理・運用を行い、つねに最適なDBaaSを提供できるように考えられたものです。

ーーDBaaSではすでにAWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azureも同様のサービスを提供しています。そうしたクラウドベンダーに対して、EnterpriseDB社の立ち位置はどのようなものでしょう。

ボヤジン:各社それぞれにすばらしいメリットをユーザーに提供していますが、EnterpriseDB社のもっとも大きなアドバンテージは、Postgresのデータベースエンジニアを多数抱えているという点です。たとえばお客様がクラウド上にエンタープライズソリューションを展開したいと考えたとき、そのプランニングからプロビジョニング、開発、構築、アーキテクチャ管理まで、すべてをエンドツーエンドで提供できるのが、当社の最大のアドバンテージであり、お客様にとってのメリットです。

ーーエンタープライズのユーザー企業にとっては、どれだけの技術支援や運用サポート、トラブル時の対応が受けられるのかが関心事になります。

ボヤジン:私たちもそのための、パートナーエコシステム構築には大きな投資をしてきました。その結果、多くのすぐれたSIerやハードウェアベンダー、ISV、契約代理店が協力を約束してくれ、エンタープライズ利用のお客様が求めるソリューションを完璧に提供できるまでになっています。

専門能力を持った信頼できるビジネスパートナーとしてユーザー層を拡大

ーー企業におけるOSS導入の裾野が拡がってくると、非エンジニア層にもEDB Postgresなどの良さを理解してもらう必要がありますが、どのような工夫をしていますか。

ボヤジン:多くのお客様が、最初当社に注目されるのは、Oracleからの移行や互換性といった側面からですが、こうしたプロジェクトで成功すると、「おや、もっといろいろなことができるのか!」と認識を改めて、その後新しいアプリケーションやプラットフォームにもEDB Postgresを採用し、やがては自社のデータベース標準になるといったケースが少なくありません。

ーー個々のテクノロジー以上に、顧客にもたらされたビジネスメリットが評価され、次のステップにつながっていくわけですね。

リンスター:OSSの技術として進化を続け、高い性能や信頼性を実現していくことはもちろんです。しかしお客様にとっては、何か課題や予期せぬ事態が起こったときに、「ちょっと助けて欲しい」と気軽に電話ができる、専門的な能力を持ったビジネスパートナーであることが、何よりも重要なのです。そして、そこが当社の強みでもあります。

ーーエンタープライズにおけるITソリューションが、個々の業務処理だけでなく、企業の成長戦略の根幹に関わる存在になりつつある今、そうした能力は日増しに重要になってきますね。

リンスター:その通りです。OSSがより重要な業務や分野に使われていくようになると、専門家によるサポートの必要性はさらに増していきます。ましてそのサービスが、銀行の勘定系やECサイトなどに使われていれば、一瞬たりとも止めることはできません。万が一何かが起きたとき、すぐにでも専門能力に基づくサポートを提供できるデータベース プロフェッショナルとして、私たちの担う役割はますます重要になっていきます。

上級副社長(製品開発担当)Marc Linster(マーク・リンスター)氏

デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて共に進んでいこう

ーー日本企業がデジタルトランスフォーメーションを推進する上で、有効なアドバイスをお願いします。

ボヤジン:デジタルトランスフォーメーションを推進しようとする多くの企業は、自社の内部から何か新しい試みを始めようとしています。おそらく今、さまざまな企業の中で、新たなビジネスの環境や要件を探る動きが数多く生まれてきているはずです。その要求とITの柔軟性をリンクさせるポイントを見つけることが、第一の課題であり、糸口になるのではないかと思います。

ーーどこからかまったく新しいものを持って来るのではなく、自分たちのビジネスの課題や目標をもう一度見直す中から、新しい方向性が見えてくるのですね。

ボヤジン:その点データベースは非常に面白いと思います。特にEDB ArkのようなDBaaSは、これまで非常に高価だったデータベースを安価なサービスとして利用できる環境を生み出します。これによってIT部門が新しいメリットをビジネスに提供できるようになれば、経営や営業といったビジネスサイドもITが持つ経済的価値をしっかり認識してくれるようになります。そういう意味で、デジタルトランスフォーメーションに着手しようと考えるお客様にとっては、「ハイブリッド」、「DBaaS」などが、キラーアプリケーションになっていくでしょう。

ーーその実現のためにも、日本企業のIT部門のエンジニアが勇気をもって課題に立ち向かえるよう、製品開発責任者のリンスターさんから、一言メッセージをお願いします。

リンスター:PostgreSQLは、すでに日本でも非常に強力なコミュニティを結成しており、イノベーションを開始する基盤は整っています。おそらく日本のPostgreSQLのコミュニティは、アメリカに次ぐ世界第2位の強力な実行力と技術力を持っています。これからもOSSを通じて、デジタルトランスフォーメーションの発展と実現に向けて、共に進んでいきましょう。

ーーこれからもオープンソースデータベース分野でのリーダーシップを、大いに期待しています。本日はお忙しい中を、どうもありがとうございました。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。

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