参加者から見たKubeCon Europe 2023のようすを紹介
KubeCon+CloudNativeCon Europe 2023に参加した日本人エンジニアの皆さんに集まっていただき、座談会を実施した。複数回参加の経験者からオープンソースのカンファレンスに初参加という人も含めて感じたことを語り合った。
今回の参加者は、ゼットラボ株式会社から坂下幸徳氏、吉村翔太氏、サイバーエージェント株式会社から青山真也氏、株式会社スクウェア・エニックスから曽我秀和氏の計4名のエンジニアだ。坂下氏、吉村氏と青山氏は複数回参加のベテラン、特に青山氏はバルセロナの座談会にも参加しており、KubeConの推移をよく知っていると言える。一方曽我氏はオープンソースのカンファレンスに初参加ということで、経験値に差がある参加者が集った座談会となった。
KubeConではバルセロナからやっている座談会ですが、4日間の会期が終わった4月21日の午後遅くに集まっていただいてありがとうございます。今回は初めて参加する方もいるということなのでまず曽我さんから印象を聞かせてください。
曽我:海外のカンファレンスとしてはサンフランシスコで行われたGoogle Cloud Nextというイベント以来の参加で、こういうオープンソースのカンファレンスには初参加です。Googleのイベントは当然ですが、Google一色、GCPのネタばかりなのは当たり前なんですが、KubeConではGoogleの人とAWSの人が一緒にセッションをやるというのが新鮮でしたね。規模の大きさにも驚きました。
今回はリアルの参加者が約10,500名、オンラインの参加者が5,500名で過去最大だったみたいです。坂下さんはどうですか?
坂下:だいぶコロナ以前の状態に戻ってきたなという感じはありますね。セッションもショーケースも人で賑わっていましたし。ただイベントとしてはアフターパーティがないなど、その点での盛り上がりはちょっとなかったかなと思います。お祭り感が少ないですね。
青山:私もそれは感じましたね。ショーケースのブースもアメリカなら夕方くらいまでやってくれていたのに、午後3時前にはクローズして片付けに入ってましたから。
吉村:私の印象としてはベンダーが多くてユーザーがセッションを持っているというのが少ないかなと。オランダのINGがいくつもセッションを持っていましたけど、それ以外はベンダーが自社製品を語るみたいなのが多かった気がします。
曽我:逆に初参加の私からするとベンダーが宣伝を行うのが当たり前のカンファレンスしかみてないので、そこは気にならなかったですね。
CNCFは基本的にコミュニティへの参加を促すという点に注力しているんですが、CNCFの前のディレクター、Dan Kornの時はもっとユーザーがキーノートに出てきて失敗談を語るみたいなのが多かったんですよ。Spotifyが北米のデータセンターのサーバーの半分を間違って削除しちゃった話とか。
青山:ありましたね。あれはおもしろかったです。
あと今回はヨーロッパのKubeConなのにウクライナに関する話がキーノートでもまったくなくなっていて、その点でも以前に戻ったのかなという気持ちになりましたね。バレンシアの時はウクライナでロシアと戦っていた元エンジニアの兵士が会場に来てましたから。今回、特におもしろかったセッションはありましたか?
曽我:私が出たセッションでGoogleの人が99.99%の稼働率をどうやってさらに上げるのか? という話をしていました。99.99%を99.999%に上げるためには大変な苦労や投資が必要で、そうするためのコストと利益みたいなところを整理してくれていて、それが良かったですね。社内で「クラウドにすれば可用性は簡単に上がるんでしょ?」みたいなことを言われるんですが、実際にはこういう苦労を裏ではやっているんだというのがわかりましたね。あれは良かったと思います。
青山:私は前日のイベントWASM Dayで見たWASMのコンポーネントモデルに関するセッションがおもしろかったですね。コンポーネントモデルっていうWASMで作ったモジュールを再利用するための仕組みが提案されているんですよね。
それはWASM DayのMCをやっていたCosmonicのLiam Randallが「Componetize is the new Containerize」みたいなことを言っていて、単にワークロードをコンテナ化するだけではなくてこれからはコンポーネントとして利用することが必要だ、みたいな話ですね。コンテナも単にDockerで人気が出ましたけど、Kubernetesが出てくることで一気にビジネスで使われるようになったことを意識してるのかもしれませんね。
青山:コンテナの代替になるかというとちょっと疑問ではありますけど。
坂下さんは何かありますか?
坂下:私がおもしろいと思ったのが、CDI(Container Device Interface)の話ですね。ランタイム(CRI)とかネットワーク(CNI)、ストレージ(CSI)のAPIと同じ感じでデバイスにそれを適用するという話です。その中でダイナミックリソースアロケーションという機能があって、これは何かというと例えばGPUをAPIから割り当てるっていう機能なんです。ストレージとかをAPIで割り当てるという機能と同じようにGPUをリソースとして割り当てることができるようになります。これを発表していたのがNVIDIAとIntelの人だったのでこれは筋がイイなと。NVIDIAのGPUってGPUを分割して使うっていう機能が入っているということなんですが、それをKubernetesのやり方でやるみたいな話ですね。まだアルファ版でKubernetesの1.29でGAを目指すくらいのスケジュール感らしいです。
そもそもGPUってクラウドっぽくないんですよね。GPUを持っているノードに固定してPodを実行しなければいけないし。でもユーザーサイドから見たら、ノードがどれでもとにかく空いているGPUを割り当ててくれればいいじゃないですか。そのセッションはおもしろかったですね。
吉村:私が出たセッションだと、DatadogとIsovalentの人がやっていたetcdのスケーラビリティに関するセッションがおもしろかったですね。Datadogはユーザーの立場としてクラスターが大きくなってくるとAPI Serverからetcdへのリクエストが増えてそこがボトルネックになるという問題点を指摘していました。そしてIsovalentは、Kubernetesのコミッターとして解決策を提示してこうやって直しましたというのが、ユーザーサイドとコミュニティサイドが協力して解決するという美しい構図になっていたわけです。できればユーザーはDatadogではなくてもっと本当のエンドユーザーだったりするともっと良かったのかなとは思いましたけど。
エンドユーザーのセッションという意味ではPlayStationのリアルタイムゲームをKubernetesの上で実装するというセッションはおもしろかったですね。大きな会場が満員で立ち見というか横の方で地面に座ってみてる人が多数いました。
曽我:私、それに出たかったんですが満員で入れないって断られました。
あれ、プレステの人が「リアルタイムのゲームをKubernetesで実装するなんてできると思いますか?」とか問い掛けて、こういうことが必要でこれもできないといけなくてみたいな前提条件を説明してから、解答としては「Googleが作ったゲームサーバーAgonesで実装してます!」って説明して満員の会場が「ええええええ!」ってなったんですよ(笑)。え?プレステの人がリアルタイムゲームの実装なのにそれなの?って。「結局、私たちも巨人の肩に乗ってるんだから」とか言って開き直ってました(笑)。
●参考:Agones ―― Kubernetes 上でのゲーム サーバー構築をサポートするオープンソース プロジェクトが始動
曽我:まぁ、昔なら自分たちでガリガリコード書いてリアルタイム性を実現しようとしたと思いますが、結局、さっきの99.99%の話と同じでコストと利益を天秤にかけて何を選択するのか? っていう話なんですよね。
青山:今回、トピックとしてはeBPFがすごく多かったですよね。実際に数えてみるとIsovalentのエンジニアがやってるセッションがCiliumConも含めて18もあったんですよ。で、Isovalentのブースに行って何か小冊子を配ってるからオライリーの薄い本なのかな? って思ったらセッションの紹介の冊子だったって言う(笑)。SaaSのベンダーも実装してるサービスの中身を訊いてみると、中はeBPFを使っているのが多いようでした。前はeBPF DayだったのがCiliumConになってるというのも何かの意図を感じますね(笑)。
まぁ、ベンダーとしてはeBPFに関してはIsovalentは先頭を行ってますから(笑)。他にちょっとがっかりしたセッションとかはありましたか?
青山:Podのスケールダウンをする話を解説するセッションでいろんな説明をしてましたけど、結局、cascadeっていうオプションを付けましょうで終わってて、「え?それだけ?」ってなりました。
坂下:あれはPodを終わらせる時はちゃんと永続的ボリュームとかも空にした上で終わらせましょうみたいな当たり前のことしか言ってないんですよね。だからその空にするのが面倒だからその時のコツを知りたいのに。
吉村:なんかセッションのタイトルでおもしろそうだって思って聞いてみると極当たり前のことを説明してるだけっていうのが多くて(苦笑)。
とある筋から聞きましたが、今回のセッションは、約40倍の申し込みがあったらしいんですよ。それでそれを複数人で審査して採択するかを決めるんですが、まずセッションのタイトルだけ見てスクリーニングしたらしいです。だからセッションのタイトルってすごく大事なんですよね。中身と合ってない大袈裟なタイトルになってたりするのはそのせいかもしれません。
曽我:あとがっかりしたという点ではちょっと違うかもしれませんが、このKubeConの開催時期だけアムステルダムのホテルが倍くらいの値段になってたんですよね。約1万人以上が外から来て宿泊するわけでホテルとしては儲けるためには必要なんだろうけどちょっとがっかりです。
次のKubeCon NAはシカゴで2023年11月初めですが、期待することは何ですか?
吉村:やっぱりユーザー事例ですね。
坂下:私はユーザー事例として失敗した内容を聞きたいです。成功談だけだと失敗を別の人が踏んじゃうかもしれないじゃないですか。だからもっといろんな業界の人による「失敗したけどこうやって乗り越えた」のような話が聞きたいですね。これはベンダーと一緒にセッションをやるっていうスタイルとも関連しているのかもしれませんよね、ベンダー側は失敗したという話はしたがらないものですから。でも失敗談が聞きたいです。
青山:前から言ってるんですが、もっと深い話、Deep Dive系のセッションが少なかったのでその辺に期待します。これは初参加の人が半分くらいっていう最近のKubeConの傾向としては仕方ないかもしれませんが。今回も「これを使ったらできた」で終わっちゃう話が少なくなかったので、もっと工夫したところを解説するセッションが聞きたいですね。
他にもSIG(Special Interests Group)とTAG(Technical Advisory Group)の違い(SIGはKubernetesの配下、TAGはCNCF配下のすべてのプロジェクトがスコープ)やLinkerdが盛り上がらない理由、中国のオープンソース事情など話は多方面に及んだが、ここでは割愛した。毎回、参加者の半分が入れ替わるとも言えるKubeConが、11月のシカゴでどんな姿を見せてくれるのか、楽しみである。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- KubeCon NA 2022、日本人参加者による座談会でWebAssemblyの未来を読む
- KubeCon Europe 2024に日本から参加したメンバーで座談会@桜の木の下
- KubeCon EU開幕、前日に行われたプレカンファレンスからeBPFとTetragonを紹介
- KubeCon Europe 2024からWASMとeBPFを使ってストリーム処理を解説するセッションを紹介
- ヨーロッパ最大のテックカンファレンスKubeCon Europe 2023の共催イベントのWASM Dayを紹介
- KubeCon EU、欠点から逆算するKubernetesのネットワークに関するセッションを紹介
- KubeCon EU 2022のショーケースからみるKubeConの変化とは
- KubeCon Europeに参加した日本人エンジニアとの座談会で見えてきたKubernetesの次の方向性とは
- Red HatのCTOが語るeBPFとWASMの立ち位置、そしてCRAについて
- CloudNativeSecurityCon開催。シアトルで2日間行われたセキュリティ特化のカンファレンスを紹介