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  インタビュー

SlackとIBMのエバンジェリスト/アドボケイトに聞いたDevRelの価値とは

2017年7月5日(水)
Kayoko(カヨコ)

Developer Relations(以下DevRel)という言葉ご存知だろうか。DevRelとは一言でいうと開発者に特化したマーケティング施策のことだ。ドキュメントを整える・デモコードを書く・ハンズオンや勉強会を開く・開発者コミュニティを醸成するなど……自社のサービスやプロダクトを開発者に向けて拡めていくための多岐にわたる活動がDevRelである。日本でも、エバンジェリストやアドボケイトといった職種を目にすることが増えてきたが、彼ら・彼女らの活動こそDevRelといえる。

そんなDevRelのプロたちが世界各国から集まるグローバルカンファレンス・DevRelConが7月29日、東京にやってくる。今回は開催直前インタビューということで、当日のスピーカーであるSlack DevRelチームのImura Tomomi氏、IBM BlueHubチームの森住 祐介氏に普段の仕事ぶりやDevRelの価値について話を聞いた。

DevRelチーム全員がエンジニアのバックグラウンド。Slackの開発者ファーストのDevRel施策

まず簡単な自己紹介をお願いします。

SlackのDevRelチームのImura Tomomiです。Slackに入社する前はサンフランシスコのスタートアップ数社、その前は対照的にHewlett-Packardなど、割と大きな企業のDeveloper Relations(もしくは Developer Experience)チームで働いていました。どの会社でもデベロッパー向けのコードサンプルやチュートリアルを書いたり、カンファレンスで登壇したり、ワークショップやハッカソンを開いたり、他には部下やインターンのメンターなどもしていました。DevRelの分野に従事する前はフロントエンド・エンジニアをしていました。

SlackのImura Tomomi氏

Slackでは実際どんな業務に従事しているのでしょうか?

以前、特にスタートアップにいた時はマネージメントも含め、あれもこれもとDevRelの仕事をすべてこなしていたのですが、SlackのDevRelチームでは担当を分けているので、私は普段はAPIのドキュメンテーションやチュートリアルを書くこと集中しています。みんなが興味を持ってくれる内容のブログなどを書くようにしているのですが、そのおかげで私のデスクにはRaspberry Piで作ったロボットや部品などが転がっているので仕事中に遊んでいる様に見えるかもしれませんね。

Imura氏のデスク。Raspberry Piで作ったロボット

確かに遊び心のあるデスクですね!笑 実際にSlack社内ではDevRelチームはどのように認知されていますか?

比較的新しいチームなのでひょっとしてまだ社内で知らない人もいるかもしれません。ただ、Slackでは社内の連絡や雑談などは、当たり前なんですけれど、Slackで密にコミュニケーションをとっています。ですので、このチームがAPIの使い方を啓蒙したり、ミートアップを開催したり、世界中のデベロッパーにSlackbotを開発する手伝いをしているということはどの部署の皆さんも知っているかと思います。DevRelチームはプラットフォーム・エンジニアリングという部門に所属しているので、社内のエンジニア達も私たちがライブラリやツールを作成しているということも知っていると思います。DevRelは表にでる機会が多いので社内ではなく社外、例えばTwitterなどで活動を知ることもあるのではないでしょうか。

Imura氏とSamsung、Nexmo、MozillaのDevRel仲間

SNSから知るというのは、逆輸入のような形で面白いですね。DevRelは日本ではまだしっかりと認知されておらず、その価値を社内に理解してもらうのが難しい場合があります。社内理解はどう求めていくべきでしょう?

そうですね。正直、テクノロジーのメッカとも言えるここベイエリア・シリコンバレーでもまだDevRelは比較的新しい分野です。最近は多くの企業がDevRelを立ち上げたがっていますが、誰を雇って何をすればよいか分からず手探り状態で失敗した話も聞きます。まずは目的、例えば、なぜデベロッパー・エコシステムを作る必要があるのか、をしっかり持つことだと思います。一般のマーケティングとは何が違うのかもはっきりさせ、その目的と目標を明確にすることで理解を持ってもらえるのではないでしょうか。他社の成功をケーススタディとして参考に使えばよいと思います。

Imuraさんご自身はDevRelの活動において何を重視しているのですか?

コミュニティを大切にすること、Slackの明るいカルチャーを生かしフレンドリーさを表に出すこと、ですかね。単なる開発者へのマーケティングとして私たちがいるのではなく、チーム全員がエンジニアのバックグラウンドを持っているので世のエンジニアの欲しいもの、かゆいところは理解できていると思っています。なので、個人、オープンソース、エンタープライズなどすべてのデベロッパー・コミュニティをしっかり確立して、できるだけ耳を傾けたいと思っています。

とにかく開発者ファーストなんですね。

そうですね。開発者から直接ヒアリングすることはとても大事だと考えています。オンラインコミュニティや、ミートアップの他にも、例えば、ボットを作っている会社のファウンダーやエンジニアを招待してプレゼンやディスカッションを開く場を設けたり、ドキュメンテーションのどこがわかりにくいか、APIのどこが使いにくいか、何が足りないか、などデベロッパーから直接話を聞くことによって、改善していけると考えています。

ありがとうございます。最後にDevRelCon Tokyoへの意気込みをひとこと!

日本は特殊なマーケットだと思います。普段は日本語を使うこともなく、日本向けの仕事をしているわけでもない私にはある意味、未知な場所、コミュニティですので、いろんな人と話をしてみたいですね。日本のデベロッパーカルチャーにも興味があります。なのでとても楽しみにしています!

デベロッパーこそがディシジョンメイカーになる時代へ。IBMが考える開発者と共創する未来

はじめに簡単に自己紹介をお願いします。

IBMでデベロッパーアドボケイトをしている森住です。2009年にIBMに入社、はじめは金融関係のSEでした。インフラ寄りのエンジニアで、銀行など金融関係の比較的厳しいお客さんを担当してました。そこからOSレベル、ミドルウェア、アプリケーションのエンジニアへと移っていきました。ハードも知って、ソフトウェアも知った上で仕事がしたいなと思っていたんです。2015年にクラウド事業に異動し、今のようなスタートアップ支援、アカデミック支援、デベロッパー支援をやる仕事につきました。IBMの中でもかなり特殊な経歴だと思います。

IBM BlueHubチームの森住氏

現在はどういった業務をされているんですか?

BlueHubという組織でデベロッパーのコミュニティに出て行って講演をしたり、オープンソースのコミュニティに入ってデベロッパーを支援していたりします。デベロッパーアドボケイトというタイトル(役職)です。エバンジェリストに似ていますが、よりオープンソースやデベロッパーに近い目線で、社内外にフィードバックしています。BlueHubのチームは勤務時間内の50%はデベロッパーにあてる、というミッションがあります。自分でアプリを作ったり、コミュニティ活動にあててますね。今すごくデベロッパーが注目されている時代なので、その激動の真っ只中にいる感じです。

デベロッパーが注目されている時代とはどういうことでしょう?

IBMコーポレーションのCEOも「デベロッパーフォーカス」という発言をしていて、全社的にデベロッパーフォーカスなストラテジーを考えています。データ爆発が起きる時代、そのデータを処理するには人間の力技では太刀打ちできない世の中になり、そこにはAIの活用が必然的に求められてきます。大量のデータ、AIの活用をどうデザインできるかという場面においては、テクノロジーを実装できるデベロッパーがその重要な役割を担うと考えられます。私はこういったデベロッパーとの関係性構築こそが今後の時代の鍵だと思います。デベロッパーの人たちは今すごく転換期にきていて、デベロッパーは3Kとか、厳しいとか言われてたけどもうそういう時代じゃない。よく言われますけど、金曜日に新しいテクノロジーが生まれたら月曜日にはデベロッパーはそれで新しいビジネスが作れちゃう。デベロッパーは意思決定者、ディシジョンメイカーに限りなく近づいていく、経営者の右腕になっていく、そういう時代だと思います。下請けで働いている人たちが外の世界に出て行って、世の中を変えていくことが許される世界になっていくべきだし、そうしていかなくちゃいけない。私たちのデベロッパーの定義も変わってきている気がしますね。

お客様、という立ち位置からもっとオープンなところに?

そうですね。昔はISV(Independent Software Vendor)やユーザー企業の中にいてソフトウェア開発を行なっているのがデベロッパーという考え方でした。今ではデザイナーやビジネス開発をやっていた人がデベロッパーになったり、さらにそういった方が外のオープンなコミュニティに出ていっています。オープンソースのコミュニティやクラウド、データサイエンティスト向けのコミュニティなど各地で非常に活発に活動があります。テクノロジーの情報が営業からじゃなくてインターネットから直接取得できるようになっていますよね。そういう情報への感度が高い人たちにFace to Faceで製品・サービスの認知度をあげていかないとダメな時代だと考えています。

Face to Faceで熱量を伝えるのが大事と訴える森住氏

オフラインで会うことが重要だとお考えですか?

ソーシャルでの爆発力は確かにすごいですが、その場の熱は伝わらないですよね。私は、とにかく会って、話を聞くことを大事にしています。会って話をしてみないことには、デベロッパーのみなさんがどんなイベントに出て、なにを感じているのか、肌で感じることはできないですよね。そこから、どんなワークショップがいいのかを考えています。

そういったフィードバックを具体的にはどんな形で活かしているのですか?

たとえば、エンタープライズのお客様もAIやIoTなどの活用が必要だと気付いてはいるものの、どうしたらいいかわからない、というご相談を受けたりしています。またそういった最新のテクノロジーを活用できるエンジニアを育てたいというニーズも高まってきています。ふだん外のデベロッパーとお会いして得た知見をもとに、オープンソースのテクノロジーを駆使した開発手法を啓蒙したり、既存のウォーターフォール型の開発をしているようなお客様にも新しい風を吹かせられるように、デザインシンキングによるアジャイルなサービス開発のワークショップを開いたりなどのご支援をしています。

ありがとうございます。最後にDevRelCon Tokyoへの思いを一言お願いします。

IBMはこれまで、あまりデベロッパーに対して表立った活動をしていなかったんです。でもこれからは、テクノロジーを使う人たちがビジネスを作れる、逆にビジネスを作っていたひとたちがテクノロジーを学べる時代になってきて、両者が近づいてきています。そういう一時代を築くためには、IBMだけでは当然できないので、外の人たちと一緒にやっていく必要があります。デベロッパーと新時代を築いていきたいので、DevRelConも盛り上げたいですね! もちろんデベロッパーにも来てもらいたいですが、世の中を変えたい、社会的な課題を解決したいと考えているような人たちにもぜひ来てもらいたいです。

Imura氏・森住氏のお話を伺い、DevRelとは、デベロッパー視点でサービスを拡めるだけでなく、デベロッパーとの関係構築の中で得たフィードバックをサービスやプロダクトへ活かしていける点にあると感じた。

DevRelCon Tokyoでは、今回インタビューに応じてくれたSlackのImura氏、IBMの森住氏の他にも、日本マイクロソフト、LINE、GitHub、Shopify、Square、Twilioなど、国内外の様々な企業からDevRelに従事するエバンジェリストやアドボケイトが来日し、講演する予定だ。セッションは全て英語で行われるが、同時通訳が用意されているのでご安心を。

https://tokyo-2017.devrel.net/

開発者向けマーケティングや開発者向けのサービスに関わる方にはぜひご参加いただきたい。2017年のDevRelの状況、各企業のDevRelの取り組みを知ることができる絶好の機会をお見逃しなく! チケットはこちらのページで好評発売中だ。

株式会社MOONGIFT

Twitter: https://twitter.com/kayoko_coco

小学生の時からWindowsのメモ帳でWEBサイトを作って遊んでいたインターネットっ子。2014年にセブ島で英語とプログラミングの研修を受けてアパレルの販売員からWEBフロントエンジニアに大胆キャリアチェンジ。IT業界でコミュニティ活動の楽しさを知り、よりいろんなコミュニティに寄与したいと考えるようになり、2017年からMOONGIFTにジョイン。MOONGIFTでDevRelやコミュニティマーケティングを手がけるかたわら、個人事業主としてWEBの受託開発も行う。趣味でpodcastの配信を行うなど、とにかく発信することが好き!

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