モノリシックとマイクロサービスを同時にサポートするOpenShift 3.7
オープンソースソフトウェアソリューションのリーダー、レッドハット株式会社は2018年1月17日に記者会見を行い、KubernetesとDockerコンテナをベースにしたコンテナプラットフォームであるOpenShiftの最新版3.7を公開した。また富士通、アマゾンウェブサービス(AWS)との協業も発表した。
本社から来日したRed Hatのプロダクトマネージメント部門のシニアディレクター、リッチ・シャープルズ(Rich Sharples)氏と、プロダクトソリューション本部の本部長である岡下浩明氏が登壇し、OpenShift Container Platform 3.7の概要を解説した。アマゾンウェブサービスジャパン株式会社からはパートナーアライアンス本部本部長の今野芳弘氏が、富士通株式会社からはプラットフォームソフトウェア事業本部Linux開発統括部統括部長の江藤圭也氏が登壇し、それぞれの協業について解説を行った。
岡下氏は「OpenShiftはKubernetesのバージョンに追従しており、今回の3.7はKubernetes 1.7を利用している。これからも最新バージョンには対応していく予定」と語り、OpenShiftがKubernetesをベースにしたコンテナによるマイクロサービスのためのアプリケーションプラットフォームであることを強調した。ちなみにKubernetesの開発は非常に速く、本会見時点での安定版は1.8、開発版が1.9である。Red Hatはエンタープライズ向けの安定性を重視して1.7というバージョンを選択したのだろう。しかし今回の発表でのポイントは、そのモダンなマイクロサービスに対応したプラットフォームの最新版という部分ではなく、Java EEやNode.jsなどで開発されたアプリケーションに対応するために、JBoss EAPやSpring Boot、リアクティブなJavaのためのEclipse Vert.xなどのアプリケーションサーバーを、OpenShiftの中から利用できるようにしたことだろう。
昨今は、とかくコンテナによるマイクロサービス化が持て囃される状況だが、企業の内部には未だにモノリシックなアプリケーションが多く存在している。それらを一つのプラットフォーム上でFirst Citizen(第一級の市民、つまりどのアプリケーションも同じように扱われる)として実行させることを目指した最初のリリースというのがOpenShift 3.7である、という認識が近いだろう。そのためにRed Hatは「Red Hat OpenShift Application Runtime」を2017年12月5日にアメリカで発表している。これは新規に開発されるマイクロサービス化されたアプリケーションと、既存のモノリシックなアプリケーションをOpenShiftで実行するためのランタイムだが、JBoss、Spring Boot、Vert.xなどをサービステンプレートから選ぶ形で選択でき、デザインパターンに応じて選択することでアプリケーションの開発が行える。そしてCI/CDについてもGit、Maven、Jenkinsといったツールと連携することで、開発からデプロイまでスムースに進行するように設計されている。
また同時にマイクロサービスに対しては、「近い将来の計画」という但し書き付きではあるが、分散トレース、サーキットブレーカー、フォールトインジェクションがOpenShiftの中に取り込まれるという。これは具体的にはTwitterが開発した分散トレーシングのZipkin、GoogleとIBMが主体になって開発を進めているサービスメッシュを実現するIstio、Netflixが開発したHystrixなどを指すようだ。またCNCF(Cloud Native Computing Foundation)配下のモニタリングソリューションであるPrometheusが、Technical Previewという形で3.7に含まれることになった。可視化にはGrafanaが利用されるという。またサーバーレスにも対応するために、Apache OpenWhiskへの対応も予定されているという。
以下のイメージは、Red Hatが2017年9月27日に公開したOpenShift Commons Gatheringでの最新情報として、OpenShift Application Runtimeについて解説する動画からのスクリーンショットだが、将来的にIstioをベースにしたサービスメッシュがサポートされることが明記されている。
動画は以下のURLから参照されたい。:OpenShift Commons Briefing #97: Red Hat OpenShift Application Runtimes Explained with John Clingan
この部分に関して言えば、マイクロサービス化された複数のコンテナを実行するだけではなく、運用するためのツールをいち早く取り込んでモノリシックなアプリケーションと最新のマイクロサービス、サーバーレスまでを見越した対応を計画しているということだろう。
またハイブリッドクラウドへのニーズに対応するために、OpenShiftからAWSのサービスブローカーを呼び出す形でAWSを利用できることが発表された。ここでもオンプレミスだけではなく、パブリッククラウドへの対応が望まれていることに対する回答だ。
今回の発表において地味ながらも重要なもう一つのポイントは、これまでCloud Foundryを使って実装されていた富士通のPaaSであるK5に、OEMとしてOpenShift 3.7が追加されたことだろう。これは同じK5というブランドながら、別のサービスメニューとして2018年3月に追加されるという。プレスリリースには「市場において高まる顧客企業のハイブリッドクラウドおよびコンテナアプリケーションへのニーズに応えるため、さらなる協業強化に踏み切ったものです」と書かれているように、コンテナベースのワークロード、そしてAWSとのハイブリッドを実現するために、Cloud FoundryだけではなくOpenShiftを取り込んだということだろう。「踏み切った」という言い回しに、進化のスピードが滞っているように見えるCloud Foundryへの富士通からの苦い思いが見え隠れするようだ。
アプリケーションがモノリシックからマイクロサービスに移行するなかで、既存のアプリケーションサーバー、フレームワークを取り込むことで既存ユーザーの支持を取り付け、同時にCNCF配下のプロジェクトやIstioなどを積極的に取り込んで企業向けに安定化させることで、マイクロサービスに向かう先進的なエンタープライズをサポートしようとするRed Hatの意図が見えるような発表であった。
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