KubeCon@San Diego前日に開催のOpenShiftのコミュニティイベント
KubeCon+CloudNativeConは、オープンソースソフトウェアに関するものとしては現在最も活気のあるカンファレンスと言える。実際2019年11月に開催されたサンディエゴのカンファレンスでは、過去最高の参加者数となる12,000人を記録した。
またKubeCon+CloudNativeConの特徴として、会期の前日にプレカンファレンス(Pre-Conference)と称してコミュニティやベンダーがミニカンファレンスを開くことが挙げられる。今回の記事では、サンディエゴのプレカンファレンス、Red Hatが開発をリードするOpenShiftのコミュニティイベントのようすをお届けする。
ちなみに2020年のアムステルダムで開かれるKubeConでは、「Day 0イベント」と称されて行われる予定だ。
最初に挨拶に立ったのは、Red HatのコミュニティマネージャーであるDiane Mueller氏だ。
Mueller氏はこのミニカンファレンス全体のアジェンダの紹介、そして最初のセッションとなるパネルディスカッションを紹介した。そのパネルディスカッションはエンタープライズにおけるDevOpsを語るもので、パネリストは新設されたGlobal Transformation Officeの面々だ。そこには2019年10月にRed Hatに転職した元Pivotalのエグゼクティブ、Andrew Clay Shafer氏の名前があった。この組織は2019年10月に発足したばかりで、DevOpsを推進するための専門チームと言ったところだろう。
パネルディスカッションのメンバーには、Red HatのOpen Innovation Labの責任者であるKris Pennella氏なども含まれており、DevOpsを啓蒙するには十分な経験をもった専門家たちだ。ここでの結論はツールだけではなく文化的、組織的な変革がなければ、デジタルトランスフォーメーションは実現できないというものだった。
これまで主にインフラストラクチャーのオープンソースソフトウェアをビジネスにしてきたRed Hatが、顧客の組織改革のために用意した組織としてOpen Innovation Labを開設したのが2016年ということからすると、Global Transformation Officeも長期的な目標設定の元で、さまざまなカンファレンスなどに登場していくことが予想される。
次にOpenShift 4の概要をClayton Coleman氏とMike Barrett氏がこれもパネルディスカッションの形で実施した。中身はArgo CDの解説とデモ、IBMが開発を進めるMulti Cloud Managementツールのデモを使ったベアメタルサーバーの管理など、盛りだくさんの内容となった。
事例の紹介のために登壇した企業は、オランダの金融機関ING、半導体メーカーのBroadcom、IBMが買収したWeather.com、ExxonMobilなどで、それぞれOpenShiftを活用した自社の事例を紹介した。INGはマルチテナントな環境のKubernetesをOKDで実装したが、2020年にはRed Hatが提供するOpenShift Enterpriseに移行する予定であるという。
そしてOpenShiftとは直接関係ないが、Kubernetesのアプリケーションを管理するOperator FrameworkのアップデートをRed HatのRob Szumski氏が行った。Operator FrameworkはCoreOSが開発したツールキットで、CoreOSがRed Hatに買収された後はRed Hatが主導で開発を行っているオープンソースソフトウェアだ。
Kubernetesを運用する際のノウハウをOperatorとして公開、再利用することで、Kubernetes上で実装されるデータベース、モニタリングなどのよく利用されるソフトウェアの運用方法が最適化される。
Operatorそのものを開発する方法として、KubernetesのパッケージマネージャーであるHelmのSDKを利用する方法、AnsibleのSDKを利用する方法、そしてGoのSDKを利用する方法などが紹介された。
それぞれの方法には利用可能な領域に差がある。例えばHelmの場合はインストールとアップグレード、AnsibleやGoであればすべてのライフサイクル管理、Auto Pilotまで実装できるという。
そしてすでに開発されているOperatorについて、Red Hatが認定しているものが紹介された。このチャートで紹介されているようにDevOps、データベース、セキュリティ、ストレージまで幅広くKubernetesエコシステムに浸透していると言える。
Operator Frameworkについては、レッドハットが日本語で操作方法などについてのドキュメントを公開しているので参考にして欲しい。
参考:OPERATOR FRAMEWORK (テクノロジープレビュー) のインストール
このセッションの後に実施されたパネルディスカッションでは、Operator Frameworkを使うソフトウェアベンダー4社(Dynatrace、MongoDB、Portworx、StorageOS)が登壇し、それぞれのOperator Frameworkを使った経験や使い方などが紹介された。興味深かったのは、カオスエンジニアリング的な障害テストのためにOperatorを使っていると紹介したStorageOSの話だろう。またMC役のRob Szumski氏は「マルチテナンシーとGitOpsのニーズがあるのか?」という質問を、登壇した4社のエンジニアに問うていたのが印象に残った。
Crayton Coleman氏のOpenShift 4のアップデートでも、Argo CDのデモはGitOpsを実践するものだったし、IBMのMulti Cloud Managementはマルチテナンシー運用管理の一例だったことを見ると、Red HatはGitOpsでインフラストラクチャーの運用管理、マルチテナンシーによる運用がエンタープライズ企業にとっては重要になると想定しているように思える。
その後にサービスメッシュのIstioのアップデート、ベアメタルでOpenShiftを使うユースケースなどが紹介された。
最後にRed Hatのエンジニアがステージに集まり、なんでも訊いて良いというAsk Me Anything(AMA)という質問タイムが実施された。
その後、会場にいたRed HatのBrian Gracely氏と会話する機会があった。Gracely氏は、2018年にシアトルで開催されたKubeConのプレカンファレンスでもOperator Frameworkについてセッションを行っており、何度もインタビューを行っているRed Hatのプロダクト戦略のリーダーだ。
参考:KubeCon Seattleと併催のOpenShift Commons Gatheringレポート
ここではCoreOSが開発を行っていたコンテナーレジストリーのQuayについて「CNCFにインキュベーションされるのではないか?」という質問をしてみたところ、「将来的にはCNCFにホストされると思う、Quayの良さは軽くて速いこと、マルチリージョンも可能である」という回答を得た。またCNCFへのインキュベーションが遅れている理由は、100%オープンソースソフトウェアでないバックエンドのコードがあったためという理由を挙げ、その問題が解消されたことも回答した。
またKnativeやIstioについてGoogleがCNCFなどへのホスティングを否定した報道についても質問したところ、「Googleはまだオープンソースソフトウェアをどうやって運営したら良いのかを学んでいる途中だと思う、例の報道については業界でもネガティブな反応を引き起こしたが、その後に別のアナウンスをしてそれを抑えようと努力している」と語った。
全体としてソフトウェアベンダーもユーザーもOpenShiftに満足して使っていることが伝わってくるプレカンファレンスとなった。またマルチテナンシーやマルチクラスター、GitOpsなどRed Hatが考えるこれからのエンタープライズ企業の求める要件を先取りして、Open Hybrid Cloudの次を示唆している内容となった。
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