KubeCon Europeに参加した日本人エンジニアとの座談会で見えてきたKubernetesの次の方向性とは
KubeCon Europeの振り返りとして、3日目の夕方に日本から参加しているエンジニア5名と座談会を開催して、ホットな振り返りをお届けする。
参加してくれたのはNTTの露崎氏、徳永氏、日本IBMの高良氏、サイバーエージェントの長谷川氏、青山氏の各氏だ。
まず自己紹介をお願いします。
露崎:NTTの露崎です。これまではOpenStackのカンファレンスにはいっぱい参加してきたんですが、KubeConは初めてです。Linux Foundationの主催するイベントにも初参加なんですね。だから色々と初めてなことが多くて刺激的です。
徳永:NTTの研究所から来ました徳永です。KubeConは去年のシアトルに初めて参加したので、今回は2回目のKubeConです。主にコンテナランタイムとかを中心にセッションに参加しました。
高良:日本IBMの高良です。KubeConは初めての参加になります。IBMがやっているThinkとかとは大分雰囲気が違うのが面白いなと思いました。同じIBMに所属していて、他の国から参加しているエンジニアと知り合えたのが、今回の収穫の一つかなと思ってます。
長谷川:サイバーエージェントの長谷川です。インフラストラクチャーのチームですが、KubeConにも何度か参加していましてこれで4回目かな? DeepDiveというセッションにいろいろ期待していたんですが、ちょっと内容が初心者向けかなぁという印象です。
青山:サイバーエージェントの青山です。KubeConにはオースチンからずっと参加していますので、この中では一番来ているかなと思います。
今回のキーノートセッションで印象に残ったのはなんですか? キーノート以外で印象に残ったモノでもOKです。個人的にはSMIが一番インパクトあったかなと思っていますが。
高良:永続化ストレージと同じ発想でサービスメッシュを抽象化しようというのがSMIの目的だと思いますが、それがこのタイミングで出てきたことは良いことだと思いますね。
徳永:SMIについてはすごくKubernetesらしいなと思いましたね。インターフェースを定義してその下で競争させるっていう意味で。乱立しそうになっているサービスメッシュを抽象化して、エコシステムを拡げるようにしているってことですよね。コンテナランタイムもCRI(Container Runtime Interface)というインターフェースを決めたことによって、ContainerdとかCRI-Oが競争しているようになっていますし。またストレージもCSI(Container Storage Interface)があってそこから色々なベンダーが参加できるようになりました。CNCFとしてはCSIやCRIが成功しているから、その手法をサービスメッシュにも応用したいということなんじゃないかなと思います。
露崎:皆さんにお聞きしたいんですけど、SMIの仕様は誰が書いてるんですかね? その辺がちょっとよく見えなくて。
長谷川:私も知りたいんですけど、実質的に書いてるのはMicrosoftじゃないですかね? そうするとAzureが最初で、GCPもAWSもそれに追従するっていうことなのかなと。
William Morganのブログを読むと「Microsoftが仕様を書いてそれにLinkerdとConsul Connectが賛成して始まった」感じですね。ただ、IstioもMicrosoftのGabe Monroyのキーノートでは入ってましたし、Istio、Linkerd、Consul Connectとそれ以外という扱いでしたね。とりあえずその3つがサービスメッシュのインターフェースの標準化を推進すれば、後はついて来ると思ってるフシがありますね。キーノート直後にMicrosoftのブースでSMIの説明を始めてたみたいですし、その辺の根回しはちゃんとやってる感じあります。
※William Morgan Linkerdを手がけるBuoyantのCEO
青山:サービスメッシュのセッションも多くて、1年前だとまだそんなに使っているという事例は少なかったと思いますけど、今年は大分出てきましたね。ただSMIに参加しているベンダーの中でGoogleとIBMが見当たらないっていうのはちょっと……
あー、ちょっと不安になりますよね。Istioを強力にプッシュしているのはGoogle、IBM、CiscoとRed Hatですね。ちなみにRed Hatは、サービスメッシュはIstioだと断言してます。Red Hat Summitで聞きました。他に気になったプロジェクトはありますか?
露崎:Lokiですかねぇ。キーノートでも紹介されていましたけど、Grafanaがやってるログを可視化するプロジェクトですね。
Lokiが良いと思ったのはどの辺ですか?
露崎:なんというか凄くシンプルにユーザーにアプローチしているなぁと思いましたね。ユーザーは、「急に性能が落ちた」時や「アクセスが突然スパイクした」時にログを調べるのですが、他のメトリックスと重ね合わせて、何が関連しているのかを見たいと思うんですよね。そこの部分にシンプルに実装されているという。
基本はタイムシリーズデータとしてログとメトリクスを突き合わせるというシンプルな作りっていうことですよね。その辺は、OpenTracingとOpenCensusが一緒になったOpenTelemetryのプロジェクトの人も言ってましたけど、メトリクスとログとトレーシングが大事な3つの柱だと言ってる辺りと同じ発想ですよね。ちなみにOpenTelemetryのプロジェクトの話をしていたLightStepの人は、OpenTelemetryはAPMはやらない、GUIも付けない、そこから先はベンダーがやる領域」って言ってましたね。そこにビジネスの種があるっていうことなんでしょうけど。
青山:他のプロジェクトで一番面白かったのはIngress V2ですかねぇ。Ingressはずっとベータのままでそれをそろそろキチンとやろうということだと思うんですよね。Ingressって色んなパターンがあって、パブリッククラウドプロバイダーの仕様もあればオンプレミスもサービスメッシュもあって、それをバージョン2としてちゃんとやろうというのが発想だと思うんです。
高良:実際にパブリッククラウドベンダーのIngress Controllerって色々な実装方法があって、GCPの仕様が嫌いだという人も確かにいますよね(笑)。
長谷川:ただIngress v2の仕様をみると凄くGoogleっぽいというか(笑)。
一同:(笑)
青山:他にサービスメッシュ以外で個人的に気になったのは、クラスターAPIの話が結構出て来ていて、これはクラスターの管理もKubernetesからやりたいということの表れかなと思っているんですが。
長谷川:中国のユーザーは「何でもKubernetesから操作したい」と思っているフシがあると思うのですが、それと近い話ですね。
Kubernetesのマルチテナンシーのセッションでいくつか実装方法の案が出ているんですが、そのひとつにKubernetesの上で複数のKubernetesを動かす、OpenStackで言うところのTriple-oみたいな実装案が出てまして。それを提案しているのがAlibaba Cloudなんですよ。Kubernetesの管理をKubernetesでやるっていうことで、その辺と繋がる話かもしれないですね。
高良:クラスターの管理という話だと、IBMのRazeeというのが出てきました。あれはちょっと驚きでした。というのも、社内ではArmadaというツールがありまして、それを使うとどのクラスターで何が動いているのか? を見ることができるんです。しかしRazeeは、運用そのものを行えるっていうツールみたいですね。最初に名前聞いた時はどこのインド人だよ! って思いましたけど(笑)。
いかにもインド人の名前にありそうですもんね、ラジー。
高良:そうなんですよ(笑)。あと個人的に気になったのは、Operator Frameworkですね。Helmだとインストールだけにフォーカスしてるんですが、Operatorはもっとカバーしている領域が広いので。
長谷川:他に気になったというか気付いたことなんですが、今回のセッション、DeepDiveが意外とつまらなかったと感じました。あと前日のコントリビューターサミットにも出たのですが、コントリビューターにとっての深い話というのはなくて、どちらかというと「コントリビューターと会えます」みたいな雰囲気で、こっちもちょっと物足らなかったですね。なんだろう? 新しい人が増えているので、それに対応しているってことなのかな?
確実にエコシステムは拡大していますよね。ショーケースで3日目までTシャツ配ってたし(笑)。他のカンファレンスだと、3日目なんてもう閑散としてますもん。
長谷川:そうですよね。
高良:今回、レガシーなシステムと繋ぐとかPersistentVolumeを使うとか、これまでKubernetesであまりできていなかったような部分に関するセッションが多くあって、いよいよそういう段階に来たのかなという印象はありますね。IBMもIKSっていうKubernetes as a Serviceを出してますが、これにもデータベースや様々なサービスがコンテナ上で稼働していますので、そろそろ苦手と言われている部分も解消されてきているような気がします。
青山:あとさっきのIngress v2もそうなんですけど、Kubernetesってまだバージョン1.xなんですよね。それってそろそろどうなの? という気がしないでもないです。
徳永:それとちょっと関係するかもなんですけど、KubernetesってPodがネットワークで繋がってアプリケーションを構成するわけですけど、言語レベルでそれをやろうとしているBallerinaっていう言語がありますよね。あれってKubernetesがやりたいことが言語レベルでやれる、というか投影されているというか、そういうモノがもっと出てきても良いかなと思います。
Ballerinaは前に記事に書きましたけど、とてもユニークですよね。普通はCとか言語でアプリケーションのロジックを書いて、サーキットブレイカーとかはKubernetesで実装すると思うんですけど、それが言語レベルでできるっていう。
参考記事:クラウドネイティブなプログラミング言語Ballerinaとは?
徳永:そうです。本質的にマイクロサービスになってくるとKubernetesで実装するわけで、それをBallerinaのようなモノがもっといっぱい出てきて切磋琢磨というか競争してほしいなとは思います。
ただ、あのコンセプトを理解して開発をするというのはなかなか難しそうな気もしますけどね。
ここで紹介した内容の他にも、ファーウェイ問題がオープンソースソフトウェアに及ぼす影響なども話題として上がり、盛り上がった座談会となった。次の北米で開催されるKubeCon@North Americaは11月のサンディエゴだが、そこでも座談会を実施してみたい。
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